第123話 《境界残響》
新世界誕生から数か月。
世界はまだ、不安定だった。
空が時々揺れる。
光が歪む。
時間が重なる。
まるで。
世界そのものが新しい法則へ馴染もうとしているようだった。
王都上空。
昼。
突然。
空間へ白黒の亀裂が走る。
人々が悲鳴を上げる。
「また境界現象だ!」
騎士たちが周囲を封鎖。
だが。
以前とは違う。
恐怖が少ない。
空間は数秒揺らいだ後。
静かに安定する。
侵食は起きない。
存在崩壊もない。
ただ。
白黒の光だけが、空へ溶けて消えた。
別の地方では。
海上へ巨大な時間重複現象が発生。
夕焼けと朝焼けが同時に存在する。
だが。
それも数分後には安定化。
被害なし。
人々は困惑していた。
「何なんだ……今の」
「世界が壊れてるのか?」
しかし。
本当に“壊れて”いた頃を知る者たちは気づいていた。
違う。
これは侵食じゃない。
むしろ。
世界が変化へ適応している。
神代研究都市。
巨大演算塔。
無数の術式画面の中央で。
ルナ
ルナが高速演算を続けていた。
周囲には新世界法則の解析式が浮かぶ。
助手たちが慌てる。
「東部地域で空間揺らぎ発生!」
「北方で時間層重複!」
「外界残響反応あり!」
ルナは目を細める。
以前なら。
外界反応は即侵食だった。
だが今は違う。
彼女は演算結果を見つめる。
そして。
小さく息を呑んだ。
「……なるほど」
「そういうことか」
彼女は立ち上がる。
空間へ新しい世界式モデルを投影。
そこには。
固定世界だった頃には存在しなかった構造が映っていた。
“揺らぎ”。
可能性許容量。
境界受容層。
ルナは呟く。
「世界そのものが」
周囲が静まる。
「可能性を受け入れ始めてる……」
全員が息を呑む。
つまり。
今の世界は。
外界を拒絶していない。
以前の管理世界は。
固定されすぎていた。
だから。
可能性そのものだった外界と衝突した。
だが。
カインが世界式を書き換えた結果。
新世界は。
“変化”を受け入れられる構造へ進化していた。
完全固定ではない。
完全混沌でもない。
自由で。
揺らぐ世界。
だから。
境界現象が起きても崩壊しない。
むしろ。
適応している。
ルナの口元が少し笑う。
「本当に……」
「とんでもないことやったな、君」
同時。
遠く離れた辺境。
白黒の光が森を包む。
魔物暴走が停止。
崩壊しかけていた空間が修復される。
人々は呆然とした。
「今の光……」
「まるで……」
噂は広がっていた。
白黒の光を見た。
空間異常が突然消えた。
裂け目が閉じた。
誰かに助けられた。
その度に。
必ず現れる。
白と黒の残光。
セリスは報告書を読みながら静かに笑う。
セリス
「……やっぱり」
「見てるんですね」
アイリスも腕を組む。
アイリス
「勝手に消えるな」
「バカが」
だが。
その表情は少し安心していた。
そして。
研究塔。
ルナの前で。
突如。
演算画面が激しく点滅する。
警報。
『境界深層反応検知』
ルナの目が見開かれる。
「……え?」
波形が出る。
白黒境界波。
あり得ないレベルの安定反応。
彼女は震える手で解析を拡大する。
そこには。
確かに存在していた。
一つの反応。
ずっと探していたもの。
ルナが小さく呟く。
「見つけた……」
境界の向こう。
そのさらに奥。
白黒の世界の中に。
カインの反応が検出された。




