第108話 《箱庭の終わり》
世界は、もう限界だった。
カイン
彼の前。
空を埋め尽くす黒い終末。
外界侵食中心核。
死んだ宇宙そのもの。
それが完全顕現したことで、世界崩壊は加速していた。
空間が軋む。
現実が悲鳴を上げる。
世界そのものが、耐えきれなくなっている。
王都中央。
最後の世界会議。
各国代表。
勇者。
魔王。
神々残存個体。
全員が集まっていた。
だが。
空気は重い。
もう誰も「勝てる」とは言わない。
議論されているのは。
“何を失うか”だった。
中央に浮かぶ巨大ホログラム。
AL-0が静かに説明を開始する。
AL-0
『現世界について、最終情報を開示します』
空間へ映像が展開される。
古代文明。
創世神。
観測者。
そして。
現在世界構造。
ルナが息を呑む。
ルナ
「……やっぱり」
映像内。
世界は巨大な殻に覆われていた。
閉鎖空間。
隔離領域。
つまり。
現在世界は。
“箱庭”。
外界から生命を守るためだけに作られた、保護世界。
だが。
その箱庭は限界まで延命されていた。
外界侵食。
世界法則疲弊。
観測者劣化。
もう維持不可能。
AL-0が続ける。
『現行法則では、世界修復は不可能』
沈黙。
誰も動けない。
そして。
次の言葉が落ちる。
『世界修復には』
『法則更新が必要です』
空気が凍った。
セリスが呟く。
セリス
「……法則更新?」
AL-0が肯定する。
『現在世界の基盤法則を再構築』
『文明構造』
『生命定義』
『物理法則』
『存在形式』
『全更新対象』
意味を理解した瞬間。
会議場がざわめいた。
「待て……!」
「それじゃ今の世界は――」
「全部変わるのか!?」
恐怖だった。
世界は救われるかもしれない。
だが。
今の“当たり前”は消える。
魔法体系。
国家。
文明。
人間そのもの。
全部変質する可能性がある。
つまり。
救済には代償が必要。
“今の世界”を失う。
その事実が、人々を震わせていた。
レオンが静かに拳を握る。
レオン
「……それでも」
「何もしなければ終わる」
だが。
簡単には割り切れない。
兵士が呟く。
「俺たちは……俺たちのままでいられるのか?」
母親が子供を抱き締める。
「この子は……消えないの……?」
誰も答えられない。
観測者ですら沈黙していた。
その時。
カインが静かに口を開く。
「法則更新した場合」
「成功率は?」
全員が彼を見る。
観測者が応答する。
観測者
『世界存続率、大幅上昇』
『外界侵食停止可能性あり』
『ただし』
少し間が空く。
『更新後世界は、現行世界と同一ではありません』
完全に同じ世界は戻らない。
今の常識。
今の世界。
全部。
変わる。
セリスが俯く。
ヴァレリアも黙る。
ゼノですら険しい顔だった。
誰も決められない。
これは戦争じゃない。
世界そのものの再定義。
その資格を持つ者は。
ただ一人。
観測者の巨大な眼が、ゆっくりカインへ向く。
『境界存在KAIN』
『最終権限移譲を開始』
世界が静まり返る。
そして。
最後の宣告が下される。
『選択権を委譲します』
全人類。
全神々。
全世界。
その未来が。
今。
カイン一人へ託された。




