第105話 《神々の終焉》
神域。
かつて。
絶対不可侵と呼ばれた場所。
神々の支配領域。
世界法則そのものを管理する白銀空間。
そこが今。
崩壊していた。
黒いノイズが神域を侵食する。
白銀の床へ亀裂。
演算空間が乱れ。
無限だったはずの神域が、端から崩れ落ちていく。
神々が動揺していた。
下級神たちが叫ぶ。
「侵食を止めろ!!」
「法則固定が追いつかない!!」
「観測者権限へ接続不能!!」
だが。
もう遅い。
外界侵食は、神域すら飲み込み始めていた。
一柱の下級神が、黒いノイズへ触れる。
その瞬間。
神の身体が崩れた。
音もなく。
光の粒子へ変わり。
そして。
“定義”そのものが消失する。
誰も叫べない。
神が死んだ。
絶対存在。
永遠存在。
それが。
あまりにも簡単に。
消えた。
次々に侵食は広がる。
神々の悲鳴。
白銀神殿崩壊。
管理塔消滅。
神域全体が終焉へ向かっていた。
その中心。
因果神ミラが必死に術式を展開する。
ミラ
「結果固定!」
「侵食停止を成立――」
だが。
言葉の途中で止まった。
彼女の腕がノイズ化する。
因果そのものが崩れていた。
結果固定。
未来確定。
そんな神の理屈が、外界には通用しない。
ミラが震える。
「な……ぜ……」
黒いノイズが全身へ広がる。
そして。
因果神は崩壊した。
存在定義を失い。
静かに消滅する。
さらに。
時間神クロノス。
クロノス
彼は最後まで時間巻き戻しを試みていた。
「戻れ……!」
「戻れぇぇぇ!!」
神域全体の時間逆行。
世界規模巻き戻し。
しかし。
外界侵食は止まらない。
なぜなら。
外界には“時間”の概念が曖昧だから。
巻き戻す対象が成立しない。
クロノスが初めて絶望する。
「時間が……」
「機能しない……?」
次の瞬間。
彼の身体が砂みたいに崩れた。
時間神。
消滅。
神域がさらに崩壊する。
神々は理解してしまった。
終わりだと。
そして。
白銀神殿最上部。
そこに一柱だけ、静かに立っていた。
アストラ
運命神アストラ。
かつて世界を停止させ。
未来を固定し。
全存在を支配していた女神。
その彼女が今。
震えていた。
周囲へ広がる黒いノイズ。
神域崩壊。
神々の死。
アストラは初めて知る。
“死”を。
「……怖い」
小さな声だった。
神は死なない。
ずっとそうだった。
だから。
恐怖を理解していなかった。
だが今。
自分が終わる未来を理解してしまった。
運命神は。
初めて“人間みたいな顔”をした。
その時。
神殿空間へ、一人の影が現れる。
カイン。
カイン
彼が立った瞬間。
周囲の侵食が一時的に停止する。
世界がカインへ同期する。
アストラは静かに彼を見る。
かつて抹消対象だった存在。
観測外存在。
バグ。
だが。
今は違う。
世界最後の希望。
アストラは苦しそうに笑った。
「……皮肉ですね」
「最後に頼るのが、あなたなんて」
カインは何も言わない。
アストラは空を見上げる。
崩壊する神域。
死んでいく神々。
全部。
自分たちが守ろうとした世界だった。
方法を間違えた。
人類を縛った。
恐怖から支配した。
だが。
守りたかった気持ちだけは本物だった。
アストラはゆっくり膝をつく。
神が。
初めて。
人へ頭を下げた。
「……お願いします」
声が震えている。
恐怖。
後悔。
祈り。
全部混ざっていた。
そして。
運命神アストラは。
最後の願いを口にする。
「世界を……お願いします」




