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追放されたけど、全能力がSSSで世界の理から外れてました  作者: 南蛇井


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第10話 《国家機密》

アルディア領主館。


その地下会議室は、異様な緊張に包まれていた。


分厚い石壁。


遮音結界。


王国騎士団による完全封鎖。


机を囲んでいるのは、この地方では考えられない顔ぶれだった。


騎士団幹部。


神殿上級神官。


領主貴族。


そして、王女セリス・ルミエル。


誰もが険しい顔をしている。


机上には大量の報告書。


《山脈消失》

《神殿機能停止》

《災害級魔獣瞬殺》

《戦姫敗北》


どれか一つでも国家級案件だ。


それが全部、同じ少年によって引き起こされている。


沈黙を破ったのは、年配貴族だった。


「危険すぎる」


低い声。


「今すぐ拘束、あるいは処分すべきです」


空気が張る。


別の神官が頷く。


「同意します。神殿機能停止など前代未聞。神への冒涜です」


「いや待て」


騎士団側が口を挟む。


「山を断った存在を、どうやって処分する?」


言葉が詰まる。


確かにその通りだった。


殺せる保証がない。


むしろ刺激した場合の被害が想像できない。


神官の一人が震える声で言う。


「……魔族の可能性は?」


「違う」


即答したのはアイリスだった。


会議室の視線が集まる。


彼女は壁際に立ったまま腕を組んでいる。


「少なくとも、あれは魔族ではない」


「なぜ断言できる!」


「戦ったからだ」


アイリスの声は静かだった。


だが重い。


「敵意がない」


ざわめき。


「むしろ、自分の力を理解していない」


神官が吐き捨てる。


「だから危険なのだ!」


その通りでもあった。


悪意ある怪物ならまだ対処できる。


だが無自覚な災害は予測できない。


会議は荒れ始める。


「封印しろ!」


「研究対象として保護すべきだ!」


「王都へ移送を!」


「神敵認定を――!」


意見が四つに割れていた。


■抹殺派

危険すぎるため即排除。


■保護派

敵対回避を優先。


■研究派

未知の力として解析。


■神敵派

神への反逆存在として討伐。


誰も結論を出せない。


国家レベルを超えた問題だった。


その間。


当の本人は。


「うま……」


街のパン屋で普通にパンを食べていた。


焼き立ての香り。


小麦の甘み。


カインは椅子に座りながら、もそもそと頬張っている。


世界の緊迫感ゼロだった。


店の奥から、ふくよかな中年女性が顔を出す。


「ほら、スープも食べな」


「ありがとうございます」


パン屋の女将、マルタ。


アルディアで長年店をやっているおばちゃんだ。


彼女はカインへ特に怯えた様子もなく接していた。


「今日は街中あんたの話で持ちきりだよ」


「……みたいですね」


「山斬ったんだって?」


「事故です」


「はっはっは! 山斬る事故なんて初めて聞いたよ!」


豪快に笑う。


カインは苦笑した。


この人だけだ。


普段通り接してくれるのは。


フィアも優しいが、どこか気を遣っている。


だがマルタは違う。


完全に近所の子供扱いだった。


「ちゃんと食べてるかい?」


「まあ、それなりに」


「痩せすぎなんだよ。男は食わなきゃダメだ」


そう言いながら追加のパンを置く。


カインが慌てる。


「いや、お金――」


「いいから食べな」


強引だった。


でも少し温かい。


カインは小さく頭を下げた。


「……ありがとう」


マルタはふんっと鼻を鳴らす。


「何だろうが、腹は減るんだからね」


その言葉に、カインは少しだけ救われた気がした。


自分が何なのか分からない。


周囲は化け物を見る目を向ける。


でも。


少なくともここには、“普通”が残っていた。


その頃。


地下会議室では沈黙が落ちていた。


激論の末。


最後に全員の視線が、王女セリスへ向く。


彼女は静かに目を閉じていた。


やがて開く。


「結論を出します」


空気が張り詰める。


セリスは淡々と告げた。


「カイン・ヴェルクロフトは、王都へ移送」


誰も口を挟まない。


「国家最高機密指定」


その言葉で、場の温度が変わった。


もはや一地方の問題ではない。


王国そのものが動き始めていた。

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