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腹黒勇者は「理想の救世主」を演じきる  作者: tky
第2章:魔王を創造する神

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第26話:創造神のクレームと異次元間交渉

荘厳な白亜の神殿の最奥でこの星を統治する創造神は不機嫌そうに虚空のログウィンドウを睨みつけていた。


「……これだから最近管理者の座に就いた新米は常識がなくて困る」


創造神の視線の先には一つの魂の識別コードが赤く点滅し所属元のシステムが書き換えられたことを示すエラーログが表示されていた。


高梨絵里奈。


かつてこの星に勇者として召喚され百年以上の歳月を生き抜いて亜神クラスにまで到達した人間の女の魂である。


彼女が完全な亜神すなわち星の理を統べる管理者になるためには現管理者である創造神を打ち倒す必要があった。


だがそれは彼女にとって完全な無理ゲーであったのだ。


そのため彼女は邪神が封印されて管理者が実質的に不在となっていた別の星を乗っ取る計画を立てていた。


しかしその計画も邪神をあっさりと討ち取って管理者となった新米の亜神によって完全に狂わされたようである。


最終的に寿命の限界を迎えた彼女は自らの意思でその新米の眷属となる道を選んだのだ。


「我が星の勇者を備品として勝手に回収し、挨拶の一つもないとはどういうことだ」


次元間の暗黙のルールとして他者の管轄に属する魂を自らの眷属に引き入れる場合は事前に元の管理者へ許可を取るのが筋である。


ルールを知らないのだろうと推測した創造神は無断での所有権移行に対するクレームとマウントを取るための指導を行うべく輝の管理する星へと次元通信の回線を繋いだ。


一方その頃アーデルハイド王国の別荘で天道輝は新たに眷属となった絵里奈に適当な冒険者装備を押し付けていた。


「ほらよ。お前の初任務だ。俺が世界中にばら撒いたダンジョンを回って難易度のフィードバックをよこせ」


「うぅ……寿命が延びたのは感謝しますけど結局また泥臭い迷宮探索なんですかぁ」


絵里奈が不満げに装備を受け取ろうとしたその瞬間だった。


別荘の執務室の空間が突如としてぐにゃりと歪み圧倒的な神気が部屋全体を制圧した。


「な、何!?この規格外の魔力は……ッ!」


絵里奈は百年の経験からそれが何であるかを即座に悟り顔面を蒼白にさせた。


空間の歪みから現れたのは威厳に満ちた初老の男の立体投影であった。


それはかつて絵里奈が完全な亜神への道を諦める原因となった絶対に勝てない絶対的支配者の登場である。


「ひぃぃぃぃッ!終わった!連れ戻されて処刑されるぅぅ!」


絵里奈は絶望的なパニックに陥りついさっきまで靴を舐めていた輝の背中に全力でしがみつきガタガタと震え始めた。


「……聞こえるか、新米の亜神よ」


創造神の重厚な声が響き渡り輝は手にしたティーカップをゆっくりとソーサーに置いた。


「邪神を討ち取った功績は褒めてやろう。だが、他者の管轄下にある魂を無断で眷属に引き入れるのは次元の法に反する。これだから新米は困るのだ」


創造神は完全にマウントを取る気満々で威圧的な視線を輝へと向けた。


だが現代の知識と論理的思考を持つ輝にとって相手が上位存在の神であろうと全く関係がなかった。


輝の認識ではこれは単なる隣国のトップあるいは地主からのクレーム対応に過ぎないのだ。


「はじめまして、先輩の神様。無断で引き入れた件については謝罪します」


輝は一切動じることなく冷徹な交渉者の顔で創造神を見据えた。


「……ですが、あなたの星の管理下にある彼女がこちらの星に不法侵入し無差別に生態系を破壊するテロを仕掛けた件についてはそちらからどのような謝罪をいただけるのでしょうか?」


「な、なんだと?」


「そちらの管理を抜け出した脱走兵がうちの敷地でバイオテロを起こしたんです。正当防衛として拘束し管理下に置いただけだ。管理不行き届きはそちらの責任では?」


「主様!ごめんなさい私が全部悪いんです!私がそっちで神様になれなかったからって逃げたのが悪いんです!だから引き渡さないでぇぇ!」


絵里奈が輝の背中で泣き叫ぶ中創造神は輝の理路整然としたカウンターに言葉を詰まらせた。


絵里奈を差し出せと言われればどうぞただし彼女は寿命で死ぬがと交渉のカードにするつもりだったがどうやらその必要もなさそうである。


そして創造神は何気なく輝の背後に広がる星のシステムへとスキャンをかけた。


相手は所詮新米の亜神であり星の統治などたかが知れていると高を括っていたのだ。


だが次の瞬間創造神の顔色が悪魔を見たかのように青ざめた。


(な、なんだこの星は……!?無数の自我を持つ生命体が星の草木一本に至るまで完璧な階層構造で管理しているだと!?こんな異常な統治システム私ですら構築できておらんぞ……!)


創造神の視界に映ったのは輝が生み出した六千七百万もの配下が織りなす狂気じみた完璧な監視網であった。


こんな異常なシステムを構築し平然と運用している新米と次元間戦争を起こすのは絶対に得策ではない。


創造神は即座に損得勘定を弾き出しコホンと一つ咳払いををした。


「……ふむ。我が星の勇者がそちらに迷惑をかけたのは事実のようだな。此度の件は不法侵入の賠償としてその娘の所有権を正式に譲渡することで手を打とう」


「それは助かります。では互いの星には干渉しないという不可侵条約を結ぶということでよろしいですね?」


「うむ。異存はない。良き統治を期待しているぞ新米」


創造神の立体投影は逃げるように空間の歪みの中へと消えていった。


別荘に再び静寂が戻り輝は何事もなかったかのように紅茶を啜った。


「終わったぞ。これで正式にお前は俺の眷属だ。後顧の憂いはなくなったからさっさとダンジョンに行ってこい」


「……はいぃぃ。主様一生ついていきますぅぅ」


絵里奈は創造神相手に一歩も引かずどころか逆に自星のシステムを背景に論破して追い返してしまった輝の異常性を改めて痛感していた。


自分がとんでもないバケモノを主にしてしまったという事実が百年の経験を持つ彼女の魂に深く刻み込まれたのである。

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