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腹黒勇者は「理想の救世主」を演じきる  作者: tky
第2章:魔王を創造する神

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第25話:降伏の美少女BBAと新たなデバッカー

王都の冒険者ギルドはまるで時間が停止したかのような異様な静寂に包まれていた。


高梨絵里奈は冷や汗で背中をぐっしょりと濡らしながらゆっくりと両手を頭の上に挙げた。


「……降参、します」


彼女の周囲にはいつの間にか漆黒のドレスを纏った女たちが音もなく立ち並び一切の感情を感じさせない瞳で絵里奈を見下ろしていた。


逃げ道などどこにもなかった。


百年以上の死線を潜り抜けてきた亜神としての本能がこれ以上の抵抗は無意味であると絶望的な警鐘を鳴らし続けている。


彼女が白旗を揚げた次の瞬間には視界がぐにゃりと歪み圧倒的な魔力によって空間そのものが強制的に転移させられていた。


絵里奈が尻餅をついた先は豪奢な絨毯が敷き詰められた見知らぬ執務室だった。


「ようこそ俺の箱庭へ。ずいぶんと派手に引っ掻き回してくれたみたいだな」


玉座のような革張りの椅子に深く腰掛けた少年が冷徹な瞳で見下ろしてくる。


天道輝。


この星の理を完全に書き換え絶対的な支配者として君臨する理不尽な後輩勇者の姿がそこにあった。


「ひっ……!」


絵里奈は彼から放たれる底知れぬ魔力の圧に息を呑んだ。


周囲にはギルドで見かけた漆黒の女たちが数十人も控えており、その一人一人は自分が束になっても敵わないほどの完成された力を持っている。


「さて、どこから聞こうか。あの忌々しいスギ花粉テロの主犯である同郷の先輩さんよ」


輝の静かな怒気を孕んだ声に絵里奈の百年のプライドはあっさりと砕け散った。


「ごめんなさいぃぃぃッ!わざとじゃないんです!寿命がもう限界でこの星を乗っ取らないと私が死んじゃうから必死だっただけで!」


彼女は床に額を擦り付けながら大粒の涙と鼻水を流してすべてを白状し始めた。


自分が別の星の勇者であること。


神の器を持たない肉体が限界を迎え寿命による消滅が迫っていること。


焦りのあまり動物や植物を操りヤケクソで花粉をばら撒いたこと。


「本当に!本当に悪気はなかったんです!ただ百年も頑張ったのに死にたくなくて……!」


百歳を超えた老婆の中身を持つとは思えないほど子供のように泣きじゃくる絵里奈を見て輝は深々とため息を吐いた。


「……なるほどな。お前の切羽詰まった事情は分かった」


輝はチートスキルによって得た世界の知識を脳内で検索し一つの結論を導き出した。


「魂の劣化による寿命問題なら解決策はあるぞ。俺の『眷属』としてこの星のシステムに魂を紐付ければ劣化は止まり延命できるはずだ」


その言葉を聞いた瞬間だった。


「神様仏様輝様ぁぁぁッ!」


絵里奈は猛烈な勢いで床を這いずり輝の足元に縋り付いた。


「一生靴舐めます!トイレ掃除でも何でもしますから私を眷属にしてくださいぃぃ!」


彼女は本当に輝の靴をペロペロと舐め回す勢いで顔を擦り付け全力で媚びを売り始めた。


「……おい、やめろ。絵面がキツすぎる」


輝は若干ドン引きしながら靴にすがりつく絵里奈の頭を足で軽く押し返した。


この女を配下にする実用的なメリットなど輝には完全にゼロである。


彼が生命創造で生み出す配下は設定を弄ればいくらでも自主性や多様性を持たせることができるからだ。


絵里奈にしかできない人間らしい柔軟な仕事などこの世界には一つも存在しない。


(俺の手駒は無限だ。こいつを仲間に引き入れる戦略的な価値なんて微塵もない)


輝は冷徹な思考でそう結論付けていた。


だが。


「寿命だけは!寿命だけは伸ばしてくださいぃぃ!」


鼻水を垂らして必死に命乞いをするこの情けない姿を見ていると輝の中で燻っていた殺意が見事に霧散していくのを感じた。


(脅威度ゼロの残念なBBAだな……。それに同じ日本から来た人間をこんな理由で一方的に殺すのは単に後味が悪い)


現代日本で普通の高校生だった頃の感性が彼の冷徹な支配者の顔にわずかな人間味を滲ませた。


「……わかった。わかったから離れろ。お前を俺の眷属にしてやる」


「ほ、本当ですかッ!?」


絵里奈が顔を上げると同時に輝は彼女の魂に強固な契約の術式を刻み込んだ。


これにより絵里奈は輝に危害を加えることが絶対に不可能な存在としてシステムの管理下に組み込まれた。


「ただし、生かしておく以上タダ飯を食わせる気はないぞ。俺にとっちゃお前特有の価値なんて何一つないんだからな」


「は、はい!何でも命じてください主様!」


寿命の恐怖から解放された絵里奈はコロッと態度を変え満面の笑みで揉み手をした。


その図太さに呆れながら輝は適当な役割を思いつく。


「今日からお前はフリーの高ランク冒険者だ。身分は俺が偽装してやる」


「冒険者、ですか?」


「ああ。俺が世界中にばら撒いたダンジョンを回って難易度のフィードバックをよこせ。適当にテストプレイでもしてろってことだ」


輝はただ彼女を生かして遊ばせておくのも面倒だったため終わりのないダンジョン攻略という実質的な永遠の労働を押し付けたのだ。


「ええっ!?私、また泥臭く迷宮に潜るんですか!?」


「嫌なら今すぐ寿命で死ぬか?」


「喜んで潜らせていただきますぅぅ!」


絵里奈は綺麗な姿勢で土下座し直した。


こうして輝の完璧な箱庭に戦力価値ゼロでありながらどこか憎めない図太さを持った新たな腐れ縁のデバッガーが誕生したのだった。

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