勝負の結果
「これ、岸辺くんの為に書いてみたんだ。」
ふんわりとした髪の毛を耳に掛けながら、鞄から取り出そうとしている片山かすみ━━
「ええっと、これだ。」
A4サイズの紙を2枚渡してきた。
AとBの掛け合いの台詞が書いてある。
「これって、片山さんが考えたの? 」
「そう。昨日岸辺くんが夢に出てきて、一緒にやって欲しいシチュエーション思い浮かんだんだよ。今朝書いたばっかりで、まさかすぐ渡せるなんて嬉しいなっ。
今度やるから2枚全部覚えてきてね!
来週の部活の後、ちょっとやってみない? 」
声を弾ませて、片山かすみは言った。
まだ高校生なのに、脚本をすぐに書いてしまうとは、小さい頃から劇団に入っているだけある。
ボウリングの受付で順番がまわって来たらしく、二人は離れていった。
・・・と、思ったら、受付は明日香に任せて戻って来た。
「これ、ありがとうな。片山さんは、高校卒業しても、ずっと演劇はやるつもり? 」
ふとした疑問を投げ掛けてしまった。実は胸の奥でずっと気になっていた。
答えは簡単だったらしく、すぐに返事があった。
「わたしは、お芝居大好きだから、もちろんするつもり。」
にっこりと、微笑んでじっと俺の目を見ている。
「岸辺くんは、お芝居辞めないよね? 」
「さあ、大学に行くかもわからないし、どこか劇団に入ろうと考えたことなかったし、わからないな。」
「ずっと、続けて欲しいと思っている。」
まさか、俺に向けられた言葉とは思わなかった。
「そ、そうだな・・・・」
目をそらし、少し考えていると──
彼女は2、3歩前に進んで俺の胸の中心へ飛び込んできた。
ふわっと、彼女の良い匂いがした。胸の中心に暖かさがある。俺にしか聞こえないように、胸の中で言葉を口にした・・・
「岸辺くんがこの先もお芝居続けたら、凄く良い役者になれると思う。見てて思っていたんだ、あなたは、とても良い引き出しをたくさん持ってる。
そしていつか、あなたのヒロイン役をやりたい。」
俺は突然の行動にびっくりして、反応が出来なかった。抱きつかれたことで、あの時の片山かすみの感触を思い出してしまった。
それに、べた褒めされてムズ痒い・・・
反応出来ないで呆然と立ったままで居る内に、片山かすみは俺の身体から離れ、受付に居る明日香の所へ駆け出していった───
───ボウリングへ戻ってくると、須賀みかは座って待っていた。次は俺の番になっている。
「おまたせ。ごめん、部活の仲間なんだ。さっきの二人」
「・・えっ、演劇部の!? 偶然だね、まさか会うなんて。」
「部長の明日香がさ、ボウリング大好きだから、たまたま来るんだよ。」
──少し、ドキドキしているのを落ち着けと自分自身に言い聞かせる。
さっきの、抱きつかれた様子を須賀みかに見られて居ないだろうか・・・
気を取り直して、ボールを持ちピンに向かって投げる───
ところが、二回連続何故かガーター・・・
その次の順番も、ピンが顔を出していない内にフライングで投げてしまい、まだ閉じたままの扉に玉を盛大に音を立てて当ててしまう───
もしかして、さっきのを意識しているんじゃないか!? 俺は・・・
片山かすみの事を、もしかして意識して・・?
2ゲーム目は、ずっと絶好調のままだった須賀みかに対し、後半からガーターばかりで突然の不調になった俺であった為、スコアの成績は明らかに須賀みかが上だった。
勝負は、須賀みかの勝ちである。
「私の勝ちだね。」
そう言った須賀みかは、もっと喜んで良いはずなのだが、なんかぎこちない様子だ。
「みかの大勝利だな。これは、大差つけられちゃったしなー。」
「ゆうと、途中からずいぶん調子悪くなったし、そんなにストライク出さなくても勝ってたかも。」
「いやね、みかの集中力が異常なんだよ。流石、厳しい収録の現場で働いてるプロの声優って言うか。」
「はははっ・・・」
──ちょっと照れて笑っていた。
「勝った方が負けた方に一つお願いが出来るって事だったけど、ちょっと、考えていいかな・・? 」
「もちろん」と答える俺に──
「あ、でも、お願いは辞めとこっかなああ・・う、うーん・・」
と、一人で言って何かを悩んでいる様子の須賀みかであった───




