勝負
ボウリングデートをしていた俺達だったが、突如、須賀みかの提案によって勝負へと変わった。
“勝った方が、相手に一つお願いが出来る”
今期アニメのヒロイン声優が、そのアニメの原作のシーンをその“お願い”で再現しようとしている。
須賀みかには話していないが、俺は今日のデート前に原作の小説を読んで予習してきたからわかる━━━ボウリングでは無かったが、“勝負”を挑もうとするのも原作通りの展開である。
その先の展開まで同じにするかは、スガちゃん次第だと思っている。
だって、もしその先の展開まで原作と同じシナリオにしてしまったら、俺は、須賀みかと・・・ま、まあ、俺はスガちゃんの演技が良くなるならそうなってもいいと覚悟している。
なんとも、言えないような妄想をたくましくしていたことは絶対に言えない。
最初の1ゲーム目は練習として、2ゲーム目を勝負することにした。
俺が買ってあげたジャージをスカートの下に履いた甲斐があって、何も気にせず元気良くボールを投げている。その割りには、あまり良い成績は残していない様だが。
並ぶピンの真ん中へボールが行かず、端のピンに辛うじて当たるかガーターへ一直線だ。
俺はと言うと、序盤から9本倒しだったり、スペアを取り始めるなど上々の成績である。
5巡目でストライクを出したときは、勝負前といえど、ハイタッチして喜んでくれた。
赤いリボンで結んだポニーテールを揺らしながら、
「真ん中の三角印▲へ向かって、もっとボールを・・狙って投げてみる! 」
と、言ってレーンへ出ていった。投げたボールは、ピンを7つ弾き飛ばした。
毎回、投げ方を自身で分析をし、改善点を一生懸命考えている。
流石、やりたい夢を叶えてしまうほどの根が真面目で、負けず嫌い・・・
・・だがしかし、まだスペアも取ってないぐらいだから、2ゲーム目の勝負は、俺が楽勝で勝ってしまうな。
1ゲーム目は中盤に差し掛かり、まだ好成績を出していない須賀みかの後ろ姿を見ていた。
「直前の手の角度気を付けて、真っ直ぐ、勢い殺さないようにする。」
そう呟きながら、レーン先のピンをジッと見つめている━━━
ポニーテールの毛先がブンッと真上にはね上がり、助走をつけてボールを投げる構えに入った━━
・・・ガコンッッ
鈍く大きい音がした。
こっちを振り向いて、えへへと笑っている。
「ボール、投げちゃった・・」
勢い余って、三角印▲の所までボールを投げ飛ばしたらしい。
ボールはピンの中心には行かず、3つ倒して横へ流れていってしまった。
さっきの音でスタッフの人がこちらを注意深く見ていたから、俺達はすみません、と頭を下げた。
自分の時以外は椅子に座って大体見守るようにしていたのだが、立ち上がり、レーン上にいる須賀みかの側まで近付いた。
「みか、投げる瞬間に手首が曲がっているよ。」
右手首に触れて、動きのレクチャーをした。
「この状態のまま、そんな力入れずに転がすだけで大丈夫。」
「こんな感じ? 」
「うん、それでいい。一回やってみよう。」
助走をつけて、丁寧に静かに転がしてレーンに流したボールは、真っ直ぐピンへ向かっていった。
残りのピンは全部倒れ、画面には「スペア」が表示された。
「やったあああああ。ゆうとー! 」
初のスペアをハイタッチして喜んだ。
━━━いよいよ、勝負をする2ゲーム目に突入した。
「ゆうと、勝負だよ。負けないからね! 」
人懐っこい笑みを見せて、須賀みかが投げた1投目は、なんと、ストライクだった。
2投目、3投目も続けてまさかストライクを出すとは思わなかった。
彼女の頭のてっぺんで揺れてる赤いリボンを思わせるような、リボンマークがスコア表に3つ並んで付いている。
最初投げ始めた時から右肩上がりで上達した結果、ここまで上達してしまったのか。
集中力が途切れない、そして本番に強すぎる・・須賀みか・・
「4回連続ストラーーイク!! 」
飛び跳ねて喜んでいる。
俺も9本やスペアを出して悪くもない成績だったのだが、流石にここまで続くと負けフラグが立ってくる。
「勢い、凄いな。負けてしまうな。」
レーン上でヨシッとガッツポーズを取っているのを見ながら呟いていると━━
「岸辺勇人くん? だよね? すごく、久しぶりな気がするんだけど。」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、片山かすみだった。あの演出家の稽古以来、会っていなかった。
パーマのかかったショートカットに、ぱっちりとした目・・ブラウスにショートパンツ、黒タイツスタイルでいて、私服の姿を見るのは初めてだった。
胸の奥でドキンと音がした。無意識に意識してしまっている。
「あ、岸辺じゃん。デートしてんのかよ?」
片山かすみの横から現れたのは、演劇部の部長、明日香だった。幼なじみの二人で遊びに来たらしかった。
「デート? 岸辺くん、付き合ってる人いるんだ? 」
「クラスメイトだけど、付き合ってはいないよ。最近席替えして仲良くなっただけで。」
・・なんか、誤解されたくない、みたいになってんな・・
「ふうん、あっ!!! そーだ。渡したいものが丁度あったんだ・・・」
片山かすみは、リュックから何やら取り出そうとしている。なかなか見つからないらしい。




