船乗りロット #1
俺は既に自覚しつつも、もう千回以上は口にしたであろう自虐を誤って飲み込んだ異物のように口から吐き出す。
「俺は『船乗り』なのによぉ、旅に出てから、何でほとんど船に乗ってないんだよ」
まったく、疲れて脚が折れそうだぜ。
そう言って、杖を着きつつフラフラ歩く。不意に足元を見て、「おっと」と思った。
「もう折れる脚はないんだった。これは失言」
自分に対して不謹慎と思うこともないけれど、俺は旅に出て何年もしないうちに遭った海難で左脚の膝より下を失っていた。
まあ、失ったのはそれだけではないし、失った船や仲間に比べれば、それは比較的小さな損失とも言える。
あくまで比較的という話ではあるが。
すると俺の右斜め後ろあたりから、
「まだ右脚があるでしょう」
と声が掛かった。
俺はその声の言った通り、自分に右脚があるのを確認した。
タンッ、と地面を踏みならす。
ある。
「って、なくなった自分の脚をあったときと同じような感覚で語ってしまった事を自嘲していたとこにそんな『左がないなら右を折ればいいじゃない』みたいなニュアンスの突っ込みをするなよ――キミは鬼か!」
俺はこれでも、自分の左脚にだって、仲間や船ほどじゃないにしても、断腸の思いを抱いているというのに。
「まったく、弱気になりやがって。あんたのそれこそ、鬼の霍乱ってもんだ。柄でもねぇ」
と、独り言でも呟くように後ろの彼女は言った。
おいおい、俺は弱気になっているだけで病気になっているわけじゃないから『霍乱』ってのは誤用だろ――と言おうと思ったけれど、弱気も実際病気みたいなもんだし、彼女もそれをわかった上で言ったのかもしれない、と思ったので黙った。
「ま。もうすぐ故郷に到着だ、あんたともようやくこれでさよならだな」
「さよなら?」
「そうだぜ」
「なんでだよ、もうすぐ故郷に着く、それは確かだけど……俺の故郷は、キミの故郷でもあるだろう。『さよならだ』なんて、まるでもう会えないみたいじゃないか」
「当たり前だろ」
彼女は、「バカかおまえは」と言いたげだった。
「私は何だ?」
それは、どういった意図の質問なのだろうか。
哲学か、身分か、よくわからないのでとりあえず、素直に答える事にした。
「美しい女性だ」
「死ね」
「……」
「……」
機嫌を損ねたらしい。
彼女はそれから数時間、まったくしゃべらなかった。




