時計屋フランビル #4
自信がなかった。
自信がもてなかった。
自信がないからできなかった。
自信がないからやるのが怖かった。
「格好悪いですね」
今日はやけに独白の多い日だ、と自分で思う。
多分、言葉にして耳からその声を聞いた方が、心の呟きよりも、客観的に聞こえるからだ。
私は、格好悪い自分に、客観的になっとくしたいのだ。
主観的に認めるのは難しいから。
それもまた――格好悪い自分を認められないというのもまた――格好悪いな。
コバルト殿と話して、私は少しだけ自信を持てた気がする。
そしてその自信というのが、ただのいいわけでしかないのだと、同時にそう思った。
助ける自信がなければ、助けられる命を助けないのか?
助けることに失敗するのが怖いから、助けられる命を助けないのか?
格好悪い。
そんなの品格も品性も最低辺だ。
結局私はいつだって諦める理由がほしいだけなのだ、諦めたくて楽になりたくて責められたくなくて。
でも明確な理由がないから。
諦めていい理由が見つからないから。
「『自信』がない」なんて言うのだ。
理由になっていない。
そんなに私は自分が大事だったか。
失敗。
それがどうしたというのだろう。
よくよく考えてみれば、汚名なんて怖くも何ともない。
むしろ名がもらえるだけ有り難いと言うものだ。
レガリアも私も、名乗る名をひとつ失っている。
「なんて、戯れ言ですね」
ふぅ。
と息を大きく吐く。
港中を走り回った。
あてはなく。
終わりもなく、走り回った。
次第に、レガリアを探す人数が増えていた。
パン屋のお姉さん、流石です。
私はとにかく足を動かすことに精一杯で、町のヒトに協力を仰ぐ余裕はなかったが、彼女はそういうやり方で、捜索の輪を広げてくれているらしい。
それにコバルト殿の助力もあるだろう。
……しかし、それは決して良い方にばかり捉えることもできない。
なぜならばそれは、それだけ捜索人数が増えても、未だにレガリアを見つけられていない、ということの裏返しだから――証明なのだから。
「レガリアは、町から出たのか――?」
私はまた、港(パン屋のお姉さんのパン屋の近く)に戻ってきていた。
海岸に沿って北へ進めば、町を出るための門がある。そこを通過するのに通行証のようなものが必要なわけではないが、『逆さ飛竜紋』の制服を着た警備兵が立っているから、もしレガリアが通ったなら、彼らが見ているはずだ。
海岸を反対側に沿って南へ進めば、しばらく小高い丘が続いている。その先は海だ。
「……海?」
そこで、何かが引っかかった。
海。
珍しいものではない。
何しろレガリアと、私自身が生まれ育ったこの町は港町なのだから。
けれど、そんなことは関係ない。なにか、その単語には意味があるような気がした。
いや、違う。意味がないわけがないんだ。
「あの船乗りが死んだのは、海じゃないのか」
時間が止まってその隙に暫く冷凍されていたんじゃないかと思うくらい、一瞬で体温が下がる感覚がした。
私は丘を見つめる。
思い出す。
あの先には海がある……と。
断崖絶壁の海がある。
もし、レアリアが船乗りの死を悟って自殺に及んだとするなら。
同じ死に方を――同じ死に場所を選択するのではないか?
彼女はそういう、人間ではないのか?
「――っし、レガリア」
そこまで考えて私は走り出した。
考えている場合ではない。
その想像は、あまりにもリアリティがあって、また一段階緊張感が高まった。
私の脚は、もう十分に疲労の限界を迎えていた。
膝から下が言うことを聞かない――まるで脛の代わりのボールでも生えているんじゃないかと思うくらい、感覚がグチャグチャだ。
それでも走る。
転んでもかまわない。一秒でも早く。
泥まみれになることも、汚名を被ることも、そんなのは気にする必要のないことだ。
私は私の忠義の為に。
貴族でも、何でもない、たったひとりの人間。レガリアを救うために。
今の私は生きている。




