第八話 そしてスポーツ測定会
ゴールデンウィークは終わった。
終わってしまった。
人類はなぜ休日の終わりにこんな虚無を感じるのだろう。
連休最終日の夜、僕はベッドの上で「文明とは何か」について少し考えたが、結局よくわからなかった。
ただ一つわかったことがある。
僕たちは――。
少し痩せた。
「……減ってる」
旧校舎第三準備室、別名桃園。
関羽先輩が体重計を見ながら震えていた。
「2.8キロ減……!」
「おおおお!!」
部室が沸く。
劉備部長も興奮していた。
「我も1.9キロ減だ!」
「私は0.8」
周瑜先輩が冷静に言う。
「元がそんな太ってないからな」
確かに。
そして。
「山田くんは?」
石嶺先輩がこちらを見る。
「……1.5キロです」
「すごいじゃん!」
なんか。
普通に嬉しかった。
鏡を見ると、少しだけ顔がスッキリしている気がする。
もちろん気のせいかもしれない。
でも。
それでもよかった。
「よし!」
劉備部長が立ち上がる。
「ならばいけるぞ孔明!」
「あ、はい」
「スポーツ測定会、天下統一だ!」
「規模感がおかしい」
その時。
ガラッ。
曹操会長が入ってきた。
最近もうノックすらしない。
「準備はいいか」
会長は静かに言った。
「今日が決戦だ」
そして。
スポーツ測定会当日。
快晴。
五月の青空。
校庭には各クラスの生徒が集まり、やたら熱気があった。
握力。
反復横跳び。
50m走。
長座体前屈。
そして。
地獄。
シャトルラン。
「終わった……」
関羽先輩が青ざめる。
「人類が考えてはいけない競技だろこれ」
わかる。
僕も嫌いだ。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
無慈悲な電子音が鳴る。
「では男子、並んでください!」
体育教師が叫ぶ。
「行くぞ孔明!」
「だからその呼び方」
劉備部長は妙に燃えていた。
その時。
周囲がざわつく。
「うわ、曹操会長だ」
「でか……」
「絶対強いじゃん」
見ると。
曹操会長がジャージ姿で立っていた。
なんか軍神感がある。
そして隣には周瑜先輩。
細いのに妙にスポーツマン体型だ。
「これは……」
僕は悟った。
魏、強い。
シャトルラン開始。
ピッ。
ピッ。
最初は余裕だった。
だが。
二十回を超えた辺りから空気が変わる。
「はぁっ……!」
息が苦しい。
足が重い。
だが周囲も同じだった。
関羽先輩なんて開始十秒で地鳴りみたいな呼吸になっている。
「グォォォ……!」
「関羽先輩それ呼吸ですか?」
劉備部長は意外と頑張っていた。
小柄だからか身軽だ。
そして。
曹操会長。
速い。
無駄がない。
まるで機械。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
一定のリズムで走り続ける。
なんなんだこの人。
その時。
「山田くん頑張れー!」
石嶺先輩の声。
心臓が跳ねた。
振り向く。
調理部メンバーと一緒に応援していた。
「……っ!」
なんか急に頑張りたくなった。
男子高校生って単純である。
ピッ。
ピッ。
足が重い。
肺が熱い。
でも。
止まりたくなかった。
「ぐっ……!」
関羽先輩がついに崩れ落ちる。
「ここまで……か……」
「死に際みたいに言うな!」
周囲が笑う。
でも。
少し前なら、関羽先輩はもっと早く脱落していたと思う。
みんな少しずつ変わっていた。
ピッ。
ピッ。
ついに。
「……はぁっ!」
僕も限界だった。
ラインへ届かない。
終了。
膝へ手をつく。
苦しい。
でも。
嫌じゃなかった。
「……やるじゃないか軍師」
横を見る。
曹操会長だった。
汗一つかいてない。
化け物か。
「会長こそ……」
「継続の力だ」
静かに言う。
その時。
校庭がざわついた。
「えっ」
「うそ」
「マジ?」
見ると。
関羽先輩が。
まだ立っていた。
「……まだ……終わってねぇ……!」
ゾンビみたいだった。
でも。
目だけは燃えていた。
ピッ。
ピッ。
巨体を揺らしながら走る。
遅い。
苦しそう。
でも。
止まらない。
その瞬間。
なぜか周囲から拍手が起きた。
「頑張れー!!」
「いけデブ!!」
「あと少し!」
「最後失礼だろ!」
僕も叫んでいた。
「関羽先輩!!」
関羽先輩は泣きそうな顔で笑った。
「うおおおおおお!!」
そして。
ピッ――。
終了音。
関羽先輩はその場へ倒れ込んだ。
グラウンドが揺れた気がした。
静寂。
数秒後。
「……やった」
劉備部長が呟く。
「関羽が……過去最高記録だ……」
えっ。
マジで?




