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第七話 ゴールデンウィークの過ごし方

「諸君」


ゴールデンウィーク前日。


夕日に染まる旧校舎第三準備室で、僕はホワイトボードの前に立っていた。


最近、この位置が妙にしっくり来る。


怖い。


ホワイトボードには大きくこう書かれていた。


『GW強化合宿』


「合宿!?」


関羽先輩が震える。


「いや泊まりはしません」


「なんだ……」


ちょっと安心するな。


僕は続けた。


「ゴールデンウィーク中、各自やることを決めます」


ホワイトボードへ書く。


・バナナダイエット

・ウォーキング3km

・毎日の体重計測

・夜8時以降飲食禁止

・寝る前にレモン汁


沈黙。


「……地味だな」


周瑜先輩が言った。


「継続重視なんで」


「あとレモン汁って意味あるの?」


「なんとなく健康そうかなって」


「ふわっとしてんな軍師」


そこは僕も思っていた。


でも“儀式感”は大事だ。


人間は雰囲気で頑張れる。


「なるほど!」


劉備部長が立ち上がる。


「つまり生活習慣の改革!」


「まあ、はい」


「兵は一日にしてならず!」


「人は石垣、人は城みたいに言うな」


関羽先輩が手を挙げた。


「質問」


「はい」


「夜八時以降、水は?」


「いいです」


「ラーメンの汁は?」


「ダメです」


「じゃあ具を食わなければ」


「ダメです」


「チャーシューだけ」


「特にダメです」


関羽先輩は静かに窓の外を見た。


「厳しい時代になったな……」


お前が緩すぎたんだ。


その時。


石嶺先輩が、小さな瓶を机に置いた。


「はい、これ」


「?」


「レモン汁」


なんかラベルまで手作りだった。


『蜀漢ダイエット部仕様』


妙に可愛い。


「えっ、作ったんですか?」


「うん。はちみつ少しだけ入れて飲みやすくした」


「すげぇ」


関羽先輩が感動していた。


「嫁力……!」


「お前黙れ」


周瑜先輩が即ツッコミする。


でも。


石嶺先輩がこうやって自然に部へ馴染んでいるの、なんか不思議だった。


調理部なのに、ほぼダイエット部員である。


「ちなみに」


曹操会長が突然言った。


またいた。


最近ほんと自然にいるなこの人。


「人は長期休暇で太る」


「怖いこと言うな」


「だが逆に言えば、差をつける好機でもある」


会長は静かに僕を見る。


「軍師。GW明け、結果を見せてもらおう」


完全にライバル校監督の目だった。


その夜。


僕は久しぶりに一人で夜道を歩いていた。


ウォーキング3km。


住宅街。


春の夜風。


遠くの犬の鳴き声。


イヤホンから流れる古いアニソン。


……なんか。


悪くない。


少し前の僕なら、家でダラダラしていたと思う。


でも今は違う。


歩く理由がある。


戦う理由も。


スマホが震えた。


ダイエット部グループLINE。


『蜀漢再興の道』


痛い名前だなほんと。


劉備部長:

『みんな歩いてるかー!?』


周瑜先輩:

『うるさい』


関羽先輩:

『コンビニ前で誘惑と戦ってる』


石嶺先輩:

『えらいえらい』


なんだこの空間。


でも少し笑ってしまった。


その時だった。


写真が送られてくる。


関羽先輩:

『やばい』


そこに写っていたのは――


期間限定メガ盛りソフトクリームの広告写真。


「敵将現る、か……」


僕は思わず呟いた。


すると即座に返信。


曹操会長:

『討ち取れ』


周瑜先輩:

『食ったら殺す』


劉備部長:

『耐えろ関羽ぁぁぁ!!』


石嶺先輩:

『耐えたら今度、低糖質プリン作ってあげるよー』


数秒後。


関羽先輩:

『帰ります』


早い。


僕は夜道を歩きながら、少し思った。


退屈だった世界が、

いつの間にか騒がしくなっている。


毎日少しずつ変わっていく。


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