第六話 運動-有酸素運動と無酸素運動
運動
「……つまり」
僕はホワイトボードに二つの円を書いた。
『有酸素運動』
『無酸素運動』
「ダイエットに必要なのは、この二つです」
放課後。
旧校舎第三準備室。
最近ここへ来るのが普通になってきている自分が怖い。そういえばまだノート返してもらっていないな。
劉備部長が腕を組む。
「ふむ……」
関羽先輩はバナナを食べている。
周瑜先輩は窓際で腕立て伏せしていた。
なんでこの人だけ意識高いんだ。
石嶺先輩は試作品の低糖質マフィンを配っている。
もはや調理部との合同活動である。
「まず有酸素運動」
僕は書いた。
『歩く』
『走る』
『自転車』
「これは脂肪を燃やす運動です」
「ほう」
「で、無酸素運動」
『筋トレ』
「これは筋肉をつける」
関羽先輩が挙手する。
「筋肉つければ痩せるの?」
「基礎代謝が上がるので、太りにくくなります」
「基礎代謝……!」
なんか最近、みんな僕の言葉にいちいち感動するな。
僕ちょっと気持ちよくなってるかもしれない。
「つまり!」
劉備部長が立ち上がる。
「脂肪軍を有酸素運動で焼き払い、無酸素運動で筋肉要塞を築くのだな!」
「まあ、そんな感じです」
「天下三分の計ならぬ、カロリー三分の計!」
「意味はよくわかんないです」
その時。
周瑜先輩が腕立てを止めた。
「で、具体的に何やるんだ?」
「うっ」
そこだった。
問題は。
僕は知識はある。
でも。
運動はそんなに好きじゃない。
というか僕自身がぽっちゃりだ。
軍師なのに。
「……まずはウォーキングから」
「地味だな」
「継続重視です!」
すると曹操会長が、いつの間にか部室の後ろに立っていた。
怖っ。
「悪くない」
「会長いつからいたんですか」
「五分前」
なんで気づかなかったんだ。
曹操会長は静かに言う。
「だが人は“楽しい”がなければ続かん」
その時だった。
劉備部長がポンッと手を叩いた。
「ならば!」
嫌な予感。
「戦だ!」
「絶対言うと思った」
*
十分後。
僕たちは校庭にいた。
夕焼け。
風。
グラウンド。
そして。
なぜか全員ジャージ。
「これより!」
劉備部長がホイッスルを掲げる。
「第一回・赤壁大運動会を開催する!」
「ネーミングが不穏」
周瑜先輩が説明する。
「要するに、チーム戦にして運動をゲーム化するんだよ」
「あー、なるほど」
ちょっと面白そうだ。
「種目は三つ!」
劉備部長が指を立てる。
「縄跳び!」
「普通」
「シャトルラン!」
「嫌だ」
「そして――」
嫌な間。
「鬼ごっこ!」
「小学生!?」
だが意外にも、みんな少し楽しそうだった。
特に関羽先輩。
「鬼ごっこ……何年ぶりだ……」
なんか切ないな。
チーム分けはこうだった。
蜀チーム
・劉備部長
・僕
・石嶺先輩
魏チーム
・曹操会長
・周瑜先輩
・関羽先輩
「なんで関羽先輩が敵側なんですか」
「体格バランス」
「あとこっちの方が強そうだったから」
ひどい理由だった。
そして。
鬼ごっこ開始。
「待てぇぇぇ孔明ぃぃぃ!!」
「うわあああ!!」
関羽先輩が地響きみたいな足音で追ってくる。
怖い。
怖すぎる。
だが。
「ふっ」
横から周瑜先輩が高速で回り込む。
速っ!?
「待っ――」
タッチ。
「孔明、討ち取ったり」
「なんでそんな強いんですか!?」
「元サッカー部」
ずるい。
その時。
石嶺先輩が笑いながら走っていく。
「あははっ、楽しい〜!」
夕日に照らされた横顔。
揺れるショートボブ。
……あれ。
なんか。
青春っぽくない?
その瞬間。
僕は気づいた。
最近。
退屈じゃない。
全然。
むしろ毎日が忙しい。
騒がしい。
意味わかんない。
でも。
少しだけ楽しい。
その時だった。
ドゴォッ!!
「ぎゃあああ!!」
校庭に悲鳴が響いた。
振り向く。
関羽先輩が転んでいた。
校庭に大の字。
地面が少し揺れた気がする。
「関羽先輩!?」
駆け寄る。
すると関羽先輩は空を見上げながら呟いた。
「……走るって、気持ちいいな……」
なんかちょっと感動っぽい空気になった。
でも次の瞬間。
「腹減った」
台無しだった。




