第二十三話 早い者勝ち
石嶺先輩は、
全国区の有名人になっていた。
そしてここ織冠市でも地元を代表するアイドルのような存在になっている。
まず。
一日織冠警察署長。
制服。
敬礼。
ニュース。
「かわいー!」
次。
狭山茶公認茶摘大使。
茶娘衣装。
茶畑。
笑顔。
ポスター化。
そして、ヨントリーの狭山茶のCM。
港町、階段を走り登る石嶺先輩。
汗、陽光、白いTシャツ。
曲はスピッツ。
汗だくの石嶺がキンキンに冷えた狭山茶を飲む。
そして階段の上から海に向かって叫ぶ。
「狭山茶飲みた〜い」
飲んでるやん!
⸻
そして。
決定打。
Netflixドラマ主演。
Netflix
まさかの演技が高評価。
SNS。
「普通に演技うまくない?」
「透明感やばい」
「石嶺先輩って実在するの?」
部室。
テレビ。
特集。
関羽。
「遠い存在になったな……」
周律。
「もともと何なんですかこの人」
問題は。
忙しすぎることだった。
以前。
石嶺先輩は、
“週二で来る”
が売りだった。
しかし今。
月ニ。
いや。
年ニ。
幻。
UMA。
そんな存在になりつつあった。
そして。
久しぶりの部活参加の日。
部室。
全員そわそわ。
中山ミツル。
呼吸浅い。
「本物だ……」
「来るたびに言うな」
石嶺先輩は久しぶりでも変わらなかった。
ゆるい。
笑う。
差し入れ持ってくる。
今日は低糖質ティラミス。
呂布。
「うまっ」
関羽。
泣いてる。
「帰ってきた……」
周律。
「アイドル扱いなんですよもう」
短い時間だった。
でも。
部室は少しだけ、
昔に戻った。
帰り際。
夕暮れ。
校門。
石嶺先輩が振り返る。
孔明だけが残っていた。
孔明
風。
夕日。
少し沈黙。
石嶺先輩。
ふっと笑う。
「そういえば」
「“早い者勝ち”の件」
孔明。
止まる。
石嶺先輩。
「まだ有効だよ」
微笑む。
去っていく。
夕日。
風。
孔明。
完全停止。
翌日。
孔明。
窓際。
ぼーっとしている。
授業聞いてない。
ノートにポエムを書き始める。
「カタツムリ」
カタツムリ、カタツムる
野武士のふりして、カタツムる。
6月の落武者狩りは
雨の匂い。
甘い、甘い
雨の匂い。
ツノも出さず
槍も出さず
丸い、丸い
甘い、甘い。
⸻
三日後。
孔明はようやくこの世界に帰ってきた。
しかし。
その瞳はどこか少しだけ、
湿度を帯びていた。




