第二十二話 石嶺先輩の秘密
放課後。
ダイエット部兼モルック戦略研究会件サウナ部の部室には、エアコンのぬるい風と、関羽のポテチを噛む音だけが響いていた。
「……そういえばさ」
劉備がふと思い出したように顔を上げた。
「石嶺先輩って、下の名前なんなんですか?」
空気が止まった。
呂布の手が止まる。
周律がスマホから顔を上げる。
関羽が静かに振り返る。
「……確かに」
誰も知らなかった。
一年以上一緒にいるのに。
皆、
「石嶺先輩」
「石嶺さん」
「先輩」
それだけで済ませていた。
そこへ、自販機から戻ってきた石嶺先輩が入ってくる。
「何の話?」
劉備が軽い調子で聞く。
「先輩の下の名前って何なんですか?」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、石嶺先輩の表情が固まった。
「……あー」
視線が泳ぐ。
「まあ、その……」
珍しく歯切れが悪い。
「なんでもよくない?」
「えっ」
「ほら、モルックやろう」
露骨に話題を変えた。
その瞬間。
部員たちの中で何かが始まった。
⸻
翌日。
石嶺先輩、欠席。
「怪しい」
呂布が断言した。
「絶対なんかある」
「下の名前を隠す理由……」
関羽が腕を組む。
「戸籍を消した過去」
「逃亡犯」
「北条埋蔵金の在処を示す暗号」
「なんで埋蔵金系になるんだよ」
周律だけが冷静だった。
「卒業アルバム見ればよくね?」
静寂。
「……天才か?」
⸻
図書館。
古い卒業アルバムが机に積まれる。
埃っぽい空気。
「いた!」
中山が叫ぶ。
『石嶺つくね』
沈黙。
「……つくね?」
「かわいい名前だな」
「写真もなんかかわいい」
「え、これモテるタイプじゃん」
「やめろって!」
中山が勝手にスマホで撮影する。
「待て待て待て!」
ちょうどその瞬間、石嶺先輩が図書館に現れた。
「なんでいるんですか!?」
「部室行ったら誰もいなくて、ちょうど誰かがダイエット部図書館にいると聞いたから、、」
皆が見ている卒業アルバム。
そして石嶺つくねねクラスの写真。
「あっ!」
顔が赤い。
耳まで赤い。
「削除します! 今すぐ削除!」
中山が逃げる。
石嶺先輩が追う。
図書館なのに妙に足音がうるさい。
その騒ぎの中。
中山がふとアルバムをめくりながら言った。
「関羽先輩」
「ん?」
「留年すると卒アルって毎年もらえるんですか?」
空気が凍った。
関羽が静かに顔を伏せる。
沈黙。
窓の外でカラスが鳴いた。
劉備が小声で言う。
「……聞いてあげるな」
「え、なんでですか?」
「なんとなく察しろ」
関羽は何も言わない。
ただ静かに遠くを見ていた。
どこか、三国時代みたいな目だった。
⸻
数日後。
放課後。
モルックの片付け中。
劉備が、なんとなく。
本当に何となく。
言ってしまった。
「つくね先輩、それ取ってください」
石嶺先輩の動きが止まる。
耳まで真っ赤になる。
「……」
部室が静まり返る。
「……その名前で呼ぶなァ!!」
怒声。
窓ガラスが震えた。
呂布が笑い転げる。
中山が机を叩く。
関羽だけが真顔で言った。
「良い名前だと思います」
「うるさい!!」




