表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/74

第二十二話 石嶺先輩の秘密

放課後。


ダイエット部兼モルック戦略研究会件サウナ部の部室には、エアコンのぬるい風と、関羽のポテチを噛む音だけが響いていた。


「……そういえばさ」


劉備がふと思い出したように顔を上げた。


「石嶺先輩って、下の名前なんなんですか?」


空気が止まった。


呂布の手が止まる。


周律がスマホから顔を上げる。


関羽が静かに振り返る。


「……確かに」


誰も知らなかった。


一年以上一緒にいるのに。


皆、


「石嶺先輩」


「石嶺さん」


「先輩」


それだけで済ませていた。


そこへ、自販機から戻ってきた石嶺先輩が入ってくる。


「何の話?」


劉備が軽い調子で聞く。


「先輩の下の名前って何なんですか?」


一瞬。


ほんの一瞬だけ、石嶺先輩の表情が固まった。


「……あー」


視線が泳ぐ。


「まあ、その……」


珍しく歯切れが悪い。


「なんでもよくない?」


「えっ」


「ほら、モルックやろう」


露骨に話題を変えた。


その瞬間。


部員たちの中で何かが始まった。



翌日。


石嶺先輩、欠席。


「怪しい」


呂布が断言した。


「絶対なんかある」


「下の名前を隠す理由……」


関羽が腕を組む。


「戸籍を消した過去」


「逃亡犯」


「北条埋蔵金の在処を示す暗号」


「なんで埋蔵金系になるんだよ」


周律だけが冷静だった。


「卒業アルバム見ればよくね?」


静寂。


「……天才か?」



図書館。


古い卒業アルバムが机に積まれる。


埃っぽい空気。


「いた!」


中山が叫ぶ。


『石嶺つくね』


沈黙。


「……つくね?」


「かわいい名前だな」


「写真もなんかかわいい」


「え、これモテるタイプじゃん」


「やめろって!」


中山が勝手にスマホで撮影する。


「待て待て待て!」


ちょうどその瞬間、石嶺先輩が図書館に現れた。


「なんでいるんですか!?」


「部室行ったら誰もいなくて、ちょうど誰かがダイエット部図書館にいると聞いたから、、」


皆が見ている卒業アルバム。


そして石嶺つくねねクラスの写真。


「あっ!」


顔が赤い。


耳まで赤い。


「削除します! 今すぐ削除!」


中山が逃げる。


石嶺先輩が追う。


図書館なのに妙に足音がうるさい。


その騒ぎの中。


中山がふとアルバムをめくりながら言った。


「関羽先輩」


「ん?」


「留年すると卒アルって毎年もらえるんですか?」


空気が凍った。


関羽が静かに顔を伏せる。


沈黙。


窓の外でカラスが鳴いた。


劉備が小声で言う。


「……聞いてあげるな」


「え、なんでですか?」


「なんとなく察しろ」


関羽は何も言わない。


ただ静かに遠くを見ていた。


どこか、三国時代みたいな目だった。



数日後。


放課後。


モルックの片付け中。


劉備が、なんとなく。


本当に何となく。


言ってしまった。


「つくね先輩、それ取ってください」


石嶺先輩の動きが止まる。


耳まで真っ赤になる。


「……」


部室が静まり返る。


「……その名前で呼ぶなァ!!」


怒声。


窓ガラスが震えた。


呂布が笑い転げる。


中山が机を叩く。


関羽だけが真顔で言った。


「良い名前だと思います」


「うるさい!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ