第一話 新規部員募集
新年度初日。
旧校舎三階、ダイエット部兼モルック部兼三国志同好会の部室には、朝から重い空気が流れていた。
壁には去年から貼られっぱなしの紙。
⸻
「脂肪は裏切る、仲間は裏切らない」
⸻
誰が書いたのかは、もう誰も覚えていない。
ホワイトボードの前で、劉備が腕を組んでいた。
劉備
「問題は、部員募集だ」
孔明が即答する。
孔明
「前回みたいな混乱は避けるべきです」
部室の隅。
関羽が腕を組んでいる。
関羽
なお、留年している。
「前回は異常だった」
「石嶺先輩目当てが九割だったからな」
石嶺先輩。
卒業済み。
現在大学一年。
今日は午後から授業があるため、今ここにいる。何故かいる。にこにこしている。
だが問題は、彼女の存在そのものだった。
孔明がホワイトボードに書く。
⸻
・石嶺先輩週二できます ← 削除
⸻
劉備が即座に反論。
「石嶺先輩がなければ、我々に何が残る」
「言い方!」
石嶺先輩が爆笑する。
その横で、椅子がミシッと鳴る。
呂布(武田猛)
かなり痩せたとはいえ、まだ存在感は大きい。
呂布が静かに言った。
「ですが」
「その煽り文句がなければ」
「僕も来ませんでした」
全員が黙る。
呂布は続ける。
「僕のような優秀な人材を逃すことになりますよ」
劉備と孔明。
「むぅぅぅ……」
関羽がぼそっと言う。
「最近こいつ、自分好きになってきたな」
「健全な自己肯定感です」
孔明がため息をついた。
「でも去年、本当に大変だったじゃないですか」
回想。
「石嶺先輩いますか!?」
「今日来ますか!?」
「何曜日ですか!?」
「会えますか!?」
「調理部にもいるって本当ですか!?」
一気に入部希望が増えて、呂布以外のすべてを断わざるを得なかった。
その時。
劉備が突然立ち上がる。
「逆転の発想だ」
嫌な予感。
数分後。
新ポスター完成。
⸻
ダイエット部兼モルック部兼三国志同好会
・初心者歓迎
・痩せたい人歓迎
・全国大会出場経験あり
・石嶺先輩週二で来ません
⸻
孔明が頭を抱える。
「意味がわからない」
「人は禁止されると求める」
「なんの理論ですか」
その日の放課後。
体育館。
新入生歓迎部活説明会。
野球部。
サッカー部。
吹奏楽部。
強豪たちが並ぶ中、一番端にいたのは。
妙に圧のある集団。
劉備、孔明、関羽、呂布。
司会が少し困惑しながら読み上げる。
「続いて……ダイエット部兼モルック部兼三国志同好会です」
微妙にざわつく体育館。
劉備が壇上へ向かう。
マイクを握る。
沈黙。
「人は」
静まる会場。
「変われます」
なぜか拍手。
劉備は続ける。
「我々は」
「モルック」
「ダイエット」
「そして三国志を通じ」
「己の限界へ挑戦しています」
後ろで孔明が小声。
「三国志そんなメインでしたっけ」
最後に劉備。
「詳しいことは」
「我が軍師、諸葛亮から説明します」
孔明が立ち上がる。
「だから諸葛亮と呼ばないでください」
体育館が少し笑う。
孔明は咳払いし、説明を始めた。
「えー、活動内容ですが」
「基本はモルックです」
新入生たち。
「モルック?」
「なにそれ」
「フィンランド発祥のスポーツです」
関羽が後ろで低く言う。
「戦争だ」
「違います」
さらに孔明。
「ダイエット活動」
「サウナ研究」
「三国志読書会などを──」
女子。
「サウナ!?」
男子。
「石嶺先輩って本当にいるの!?」
体育館の空気が変わる。
孔明が嫌な汗をかく。
説明会終了。
翌日。
朝。
部室前。
異常事態だった。
入部届の列。
階段まで続いている。
劉備たちが固まる。
「……なんでだ」
孔明が震える声で言う。
「昨日、石嶺先輩来てないですよね?」
「来てない」
「なのに……」
列の新入生たち。
「逆に気になる」
「来ないってどういうこと?」
「モルックも気になる」
「サウナあるんでしょ?」
さらに問題が起きていた。
調理部にも長蛇。
生徒会にも長蛇。
理由は単純。
「石嶺先輩がどこかに現れるかもしれない」
という、一縷の望み。
校内全体が軽く狂っていた。
最終的に。
入部届。
六十三枚。
沈黙。
関羽。
「黄巾の乱だな」
「スケール大きくしないでください」
孔明が机に突っ伏す。
「もう無理です……」
劉備は静かに立ち上がった。
「選別するしかない」
呂布がうなずく。
「強い者だけを残す」
「部活で使う言葉じゃないんですよ」
その時。
関羽が段ボールを持ってきた。
中には大量の割り箸。
「くじ引きだ」
ざわつく新入生たち。
「えっ」
「部活なのに!?」
「アイドルオーディション?」
劉備が真顔で言った。
「我々も生き残るのに必死なんだ」
そして。
運命のくじ引きが始まった。




