第十五話 関帝廟勢力を拡大
十二月後半。
冬だった。
空気は冷たく。
吐く息は白く。
そして。
劉備小桃が、
少しだけ変わった。
*
「孔明!」
放課後。
部室。
「はい?」
「交杯だ!」
「また!?」
白い馬上杯。
レモン炭酸。
「それ俺の炭酸水だけど」
周瑜先輩が文句言う。
最近、
妙に交杯の頻度が高い。
よっぽど気に入っているみたいだ。
しかも。
前と違う。
以前の劉備小桃なら、
「うおおお天下統一ぃぃぃ!!」
みたいな勢いだった。
でも今は。
少しだけ。
照れている。
「……」
しかも。
時々はにかむ。
なんなんだこれ。
僕の心臓がもたない。
*
「孔明」
「はい?」
「我ら水魚の交わり!」
「それ最近お気に入りですね」
「うむ!」
でも。
最後だけ少し声が小さい。
そして。
腕を絡める。
カチン。
冬の夕陽。
部室。
なんか。
妙に距離が近い。
*
その時だった。
ガラッ。
「……」
曹操会長だった。
圧。
そして。
会長は数秒静止し。
ゆっくり言った。
「……お前ら」
嫌な予感。
「それ、中国の結婚式でやるやつだぞ」
静寂。
「……え?」
「……え?」
僕と劉備小桃が止まる。
会長は真顔だった。
「交杯酒」
「夫婦の儀式だ」
「……」
「……」
数秒後。
「えええええええ!?」
部室崩壊。
劉備小桃が馬上杯落としかける。
僕は咳き込む。
「し、知らなかった!!」
「俺もだ!!」
真っ赤だった。
二人とも。
*
周瑜先輩が呆れていた。
「お前らほんと危なっかしいな」
「先に言ってくださいよ!」
「面白かったから黙ってた」
最低だった。
*
その横。
呂布。
「……」
最近。
かなり小さくなっていた。
いや。
まだ大きい。
でも。
痩せた。
めちゃくちゃ。
「呂布……」
関羽先輩が震える。
「お前……」
「現在98kgです」
「二桁!?」
ついに。
100kgを切っていた。
しかも。
頬がシュッとしている。
目が鋭い。
完全に修行僧だった。
「最近女子から話しかけられる回数増えました」
「うおおおお!!」
劉備小桃が拍手する。
呂布は少し照れた。
だが。
その横。
関羽先輩。
「……」
巨大だった。
また。
膨らんでいた。
*
「関羽先輩」
僕は恐る恐る聞く。
「……何kgですか」
静寂。
「……」
「……」
「……120」
「30kg戻ってる!?」
やけ食いだった。
完全に。
「TSUNAMI聴きながら唐揚げ食べてたら……」
「食うな!!」
「失恋ってカロリー使うんだな……」
「逆です!!」
*
その時。
周瑜先輩がスマホを見ながら言った。
「そういや」
「?」
「マリア学園の校庭にも関帝廟できたらしい」
静寂。
「……は?」
「なんで?」
「失恋した関羽先輩かわいそうって女子たちが」
怖い。
なんなんだこの宗教。
*
さらに。
写真。
そこには。
石像みたいな石。
供物。
焼きそばパン。
シロツメクサ。
「神格化されてる!?」
関羽先輩本人が一番怯えていた。
「俺……死んだ……?」
「生きてください」
*
夕方。
冬の空。
部室。
僕はふと、
隣を見る。
劉備小桃。
笑っている。
でも。
前より少し静かだ。
時々。
僕を見る目が違う。
そして。
また。
「孔明」
「はい?」
「交杯するか」
「だから誤解招くんですよ!」
劉備小桃は笑った。
少し照れながら。
その顔を見て。
僕は最近。
ますます困るようになっていた。




