第十六話 石嶺先輩を元気づける英雄会
十二月下旬。
冬は深くなっていた。
そして。
石嶺先輩は、
明らかに疲れていた。
*
最近。
部活へ来ても。
少し笑顔が弱い。
スマホを見ては、
ため息をつく。
撮影。
学校。
事務所。
ABEMA。
雑誌。
そして。
YouTube。
全部重なっていた。
「……」
その日も。
石嶺先輩は小さく呟いた。
「また変なコメント来てる」
「……」
僕たちは黙る。
最近、
アンチコメントが増えていた。
『あざとい』
『作ってる』
『痩せてない』
『彼氏いるだろ』
『またどうせオートミールだろ』
『作家ついてるだろ』
『イアモ二仕込んでるだろ』
『まあまあブス』
心が削られるやつだった。
*
しかも。
最近では。
石嶺先輩のスイーツ作りの役割を、
呂布が一部代行していた。
理由。
ヘビーユーザーだったから。
「……」
呂布は静かに言った。
「石嶺チャンネル、全話三周してます」
怖い。
でも。
その結果。
低カロリースイーツを作れるようになっていた。
意味がわからない。
*
その日。
呂布が持ってきた。
「クスクスの低糖質ティラミスです」
「クスクス!?」
なんで急に北アフリカ。
でも。
うまかった。
悔しいくらい。
「……」
石嶺先輩も少し笑った。
その時。
劉備小桃が立ち上がる。
「決めた!」
嫌な予感。
「石嶺先輩を元気づける英雄会を開催する!!」
「また始まった」
*
数日後。
旧校舎第三準備室。
飾り付け。
鍋。
お菓子。
なぜかステージ風空間。
『英雄会』
達筆だった。
出た、劉備の無駄な達筆(書道四段)。
*
「それでは!」
劉備小桃が叫ぶ。
「第一回!石嶺先輩を元気づける英雄会を開催する!!」
拍手。
石嶺先輩は困りながら笑っていた。
「なにこれぇ」
「英雄たちの宴だ!」
「絶対違う」
*
最初。
劉備小桃。
「では聞いてくれ!」
なぜか正座。
そして。
詩吟。
「吟じます――」
渋い。
高校生じゃなかった。
しかも妙に上手い。
「敦盛ぃぃぃ!!!」
「なんで!?」
部室爆笑。
石嶺先輩も笑い始める。
*
次。
関羽先輩。
「……失恋を踊ります」
意味不明だった。
そして。
突然始まる。
マイケル・ジャクソン。
「ポゥ!!」
ムーンウォーク。
無駄にうまい。
「なんで!?」
「中学時代やってました……」
初耳だった。
しかも途中で泣き始めた。
情緒終わってる。
石嶺先輩が笑いすぎて泣いていた。
*
次。
僕。
「……蜀武将暗唱やります」
「なんで?」
「流れです」
そして。
「関羽、張飛、趙雲、馬超、黄忠、魏延、陳登、呉蘭、法正、、」
途中からわからなくなった。
「えーと……馬騰……?」
「そこ違うだろ孔明!!」
呂布が立ち上がる。
怖い。
*
そのまま。
呂布ステージ。
「クスクスを使った低糖質パフェです」
なんで高校生がクスクス極めてるんだ。
でも。
めちゃくちゃうまい。
石嶺先輩が普通に感動していた。
「武田くん店出せるよ……」
呂布、
その場で赤くなる。
*
次。
周瑜先輩。
「では」
テーブルクロス引き。
地味。
だが。
成功。
拍手。
そして。
二回目。
失敗。
全部落ちた。
鍋も落ちた。
地獄だった。
*
最後。
静寂。
曹操会長。
「……」
アカペラ。
サザン。
『Ya Ya』
うますぎた。
普通に。
部室が静まる。
冬。
夕方。
少し寂しい空気。
そして。
石嶺先輩が笑う。
久しぶりに。
心から。
「……っふふ」
「……あははは!」
よかった。
ほんとに。
*
帰り道。
冬の夜。
白い息。
石嶺先輩と二人だった。
「今日はありがとね」
「いえ」
「元気出た」
その時。
石嶺先輩が僕を見る。
あの顔だった。
少し悪戯っぽい。
ずるい笑い方。
「……ねぇ孔明くん」
「はい?」
「恋愛禁止だけど」
風。
白い息。
そして。
「バレなければいいんだよ?」
静寂。
「……え?」
脳停止。
石嶺先輩は笑う。
楽しそうに。
そして。
そのまま歩いていく。
「ちょっ」
「おやすみ〜」
残された僕。
完全に混乱。
冬の空。
白い息。
心臓だけが、
めちゃくちゃうるさかった。




