第十四話 劉備小桃への気持ち
十二月某日。
雪こそ降っていなかったが。
空気は完全に冬だった。
そして僕――山田阿斗は。
今。
とんでもない場所へ向かっていた。
*
『誕生日会やるから来い!』
劉備小桃からのLINE。
軽かった。
だが。
その下。
『許嫁も来る』
重かった。
「……」
駅から続く坂道を歩きながら、
僕は深いため息をついた。
なんで高校生で許嫁イベント発生してるんだ。
時代設定がおかしい。
ラノベか!
*
劉備家。
否、佐藤家。
合宿の時も見たが、やっぱりでかかった。
門。
庭。
松。
城みたいだった。
「金持ちだ……」
僕が震えていると。
「孔明ー!」
劉備小桃が走ってきた。
そして。
僕は止まった。
「……え」
かわいかった。
かなり。
ニット。
髪。
少しだけ化粧。
冬の空気。
最近、
どんどん女の子っぽくなっていた。
まずい。
心臓が。
「どうした孔明?」
「いや別に!」
「顔赤いぞ?」
「寒いんです!」
「暖房効いてるけど?」
逃げ場がなかった。
*
その時。
「君が孔明くん?」
声。
振り向く。
許嫁だった。
「……」
なんか。
普通にイケメンだった。
長身。
爽やか。
しかも。
妙にノリが軽い。
「いや〜聞いてるよ!」
笑顔。
「孔明!軍師!モルック!」
「どこまで伝わってるんですか」
「全部!」
最悪だった。
*
そのまま。
なぜか。
会食になった。
豪華だった。
刺身。
鍋。
寿司。
関羽先輩いたら泣いてる。
その時。
許嫁が笑った。
「じゃあさ」
嫌な予感。
「三国志知識勝負しない?」
静寂。
「……」
「……」
「……」
無理。
僕、
ふわっとしか知らない。
街亭すら怪しい。
その時。
劉備小桃が小声で言った。
「頑張れ孔明!」
「無茶言うな」
だが。
僕は閃いた。
「……いいですよ」
「おっ」
「ただし」
僕は言った。
「モルック勝負で」
静寂。
許嫁が笑う。
「モルック?」
「はい」
「面白い」
余裕だった。
完全に。
だが。
次の瞬間。
「実は俺」
許嫁が笑う。
「ボウリング、奥多摩地区高校チャンピオンなんだよね」
「なんで奥多摩限定なんですか」
でも。
嫌な予感がした。
投擲系。
強い。
*
数十分後。
劉備家の庭。
なぜか簡易モルックコートが作られていた。
広すぎるだろこの家。
*
勝負開始。
許嫁。
フォーム綺麗。
うまい。
「ほう」
周囲がざわつく。
だが。
甘かった。
「……」
僕は静かに構える。
冬の空気。
ナイター。
そして。
カコン。
完璧。
「……!」
さらに。
カコン。
連続命中。
「えっ」
許嫁が固まる。
最近の僕。
普通に強かった。
そこそこ練習してるので。
*
そして。
最後。
僕は静かに50点を決めた。
静寂。
「……負けた」
許嫁が笑う。
爽やかだった。
「いや〜本職は違うな」
その時。
許嫁がふと聞いた。
「でもさ」
「?」
「なんでそんな必死なの?」
風。
冬の空。
そして。
僕の口が勝手に動いた。
「……僕は」
心臓。
熱い。
「僕は小桃が好きです」
静寂。
「……」
「……」
「……」
自分で驚いた。
声。
強かった。
こんな声、
出せたんだ。
*
劉備小桃が止まっていた。
頬が赤い。
「……孔明」
その顔は。
今まで見たことないくらい、
女の子だった。
*
その時。
許嫁が小さく笑った。
「やっぱりか」
「え?」
「実は最初からわかってた」
静かな声。
「そして、芝居だって」
「……」
「でもさ」
許嫁は劉備小桃を見る。
「見てたらわかった、芝居だけど本気の芝居なんだ」
冬の風。
「小桃って昔から変だったじゃん?」
「おい」
「でも」
笑う。
「孔明くんの前だと、ちゃんと女の子なんだよね」
静寂。
劉備小桃が真っ赤になる。
「なっ……!」
「僕が小桃を小さいころから知ってると思ってたけど、何もしらなかったみたいだ」
許嫁は俯いて
「でも、諦めないよ、許嫁とかそういうのではなく、僕は待ってるよ」
こいつ意外といいやつだ。
*
少し離れた縁側。
劉備父が、
静かにその様子を見ていた。
「……」
昔から。
娘は男の子みたいだった。
走り回って。
騒いで。
天下統一とか言って。
でも今。
笑う顔が違う。
少し寂しい。
遠くへ行ってしまう気もする。
だが。
同時に。
嬉しかった。
*
誕生日会は。
穏やかに終わった。
帰り道。
冬の夜。
門の前。
「山田くん」
劉備父だった。
「……はい」
父は少し笑った。
そして。
静かに言った。
「娘をよろしく」
静寂。
僕は何も言えなかった。
不自然な苦笑いと、会釈を返した。
ただ。
冬の空気だけが、
静かに白かった。




