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諸葛亮と呼ばないで〜陰キャ高校生ダイエット部の軍師になり無双  作者: 座山食空
第二章 勝ち得たもの、失われていくもの
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第十三話 交杯

十二月。


冬だった。


空気は冷たく。


日が落ちるのも早くなっていた。


そして。


部室の空気も、

どこか静かだった。



「……」


劉備小桃が元気ない。


これはかなり異常事態だった。


普段なら。


「天下統一ぃぃぃ!!」


とか言いながら部室へ突撃してくる。


でも今日は。


静か。


ぼーっと窓を見ている。


「……」


僕は少し気になっていた。



一方。


石嶺先輩は不在。


最近。


ファッション誌のモデルまで始めてしまった。


『冬のゆるニット特集』


とかいう撮影らしい。


意味がわからない。


関羽先輩は。


目下失恋中。


「……TSUNAMIって深いな」


「まだ聴いてるんですか」


「沁みる……」


大型犬がずっと湿っていた。



周瑜先輩も。


「ちょっとヤボ用」


そう言って。


マリア学園方面へ消えていった。


黒だった。


完全に。



そんな空気に。


呂布が吠えた。


「こんなんじゃダメです!!!」


ドン!!


机。


「覇気がない!!!」


「……」


「走りましょう!!!」


「寒い」


「武将暗記を!!!」


「嫌だ」


「モルック百本!!!」


「日暮れる」


呂布は悲しそうだった。


だが。


今日は誰も元気がなかった。


結果。


かなり早く部活は終わった。



一方その頃。


趙雲子龍――田中浩介は。


駅前を歩いていた。


手には小箱。


「……」


緊張していた。


実は。


そろそろ劉備小桃の誕生日だった。


だから。


買った。


プレゼント。


一対の馬上杯。


武将が酒を飲む時の、

ちょっと高そうな杯だった。


酒を飲み干すために机には置けない形状になっている。


趣味が渋い。


だが。


趙雲なりに真剣だった。


「……渡せるかな」


そして。


勇気を出して部室へ向かった。



ガラッ。


「……」


誰もいなかった。


静か。


冬の夕陽。


冷えた空気。


「……帰った後か、今日は早いな…」


タイミングが悪い。


いつものことだった。


趙雲は少し困って。


そして。


机へ小箱を置いた。


「……まあ、いっか」


そのまま帰った。


誰にも気づかれずに。



その頃。


帰り道。


僕は偶然、

劉備小桃を見つけた。


公園。


ブランコ。


夕暮れ。


冬の空。


「部長?」


「……孔明か」


元気がない。


かなり。


僕は隣へ座った。


「どうしたんですか」


静寂。


そして。


劉備小桃は小さく言った。


「……実はさ」


風。


白い息。


「うち、ちょっと古い家で」


「はい」


「許嫁いるんだ」


「……え?」


「今度顔合わせある」


静寂。


脳停止。


「いや」


僕は思わず言った。


「戦国時代ですか?」


「私もそう思う!!」


劉備小桃が叫ぶ。


「今令和だぞ!?」


「ほんとですよ!」


「自由恋愛だろ普通!!」


完全同意だった。



劉備小桃は頭を抱える。


「親同士がノリで決めた感じだけど、でも先方がやけに乗り気で……」


「……」


その時。


僕の脳内軍議が始まった。


そして。


閃いた。


「部長」


「ん?」


「付き合ってることにしましょう」


静寂。


「……え?」


「僕と部長が」


「……」


「恋人ってことにして」


「……」


「許嫁側に諦めてもらう」


風。


白い息。


沈黙。


そして。


「……孔明」


「はい?」


「お前、時々すごい策出すな」


「たまに悪手ですけどね」



その時。


「あっ」


劉備小桃が言った。


「忘れ物した」


部室だった。



旧校舎第三準備室。


夕暮れ。


薄暗い。


静か。


そして。


机の上。


小箱。


「……?」


劉備小桃が開ける。


中。


馬上杯。


二つ。


「……なんだこれ」


「誰かのプレゼント?」


「なんか怖い」


「神とかいるの?」


「曹操会長じゃね?」


「ほんと、気味悪いね」



劉備小桃は少し笑った。


「でも、せっかくだし使うか」


「え?」


「なんか、ちょうどいいし、孔明に相談したのも、孔明が付き合ってるふりしようって言ってくれたことも、なんか大きな歴史の流れというか」


「壮大」



そして。


部室の冷蔵庫から、

周瑜先輩の炭酸水を取り出す。


馬上杯へ注ぐ。そこへレモンを絞る。


「孔明」


「はい?」


「乾杯だ」


劉備小桃は杯を持った手を僕の杯を持った手に絡めて、それからレモン炭酸水を酒豪みたいに飲み干す。


僕もそれを真似してレモン炭酸水を飲み干す。


劉備小桃の顔が近い。


劉備小桃の瞳孔の輝き。


夕陽。


冬の光。


「許嫁問題、なんとかしような」


「はい」


僕も笑った。


なんか。


少し楽しかった。


その時。


劉備小桃が言った。


「これ、なんか武将っぽいな」


「ですね」


だが。


この時。


僕たちは知らなかった。


“交杯”


それは。


武将同士の友情の儀ではなく。


結婚の誓いだったことを。


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