第十二話 関帝廟建立
十一月下旬。
空気は冷たかった。
吐く息も白い。
そして。
僕の心も、
わりと白く燃え尽きていた。
*
放課後。
旧校舎裏。
僕は呼び出していた。
石嶺先輩を。
「……」
緊張。
やばい。
逃げたい。
でも。
聞かなきゃいけない気がした。
その時。
「お待たせ」
石嶺先輩が来た。
マフラー。
吐く白い息。
なんか。
冬だった。
*
「……どうしたの?」
「いや、その」
言葉が出ない。
心臓うるさい。
だが。
僕はなんとか聞いた。
「石嶺先輩って」
「うん?」
「本当に関羽先輩のこと好きなんですか?」
静寂。
風。
遠くの運動部の声。
石嶺先輩は少しだけ驚いて。
それから。
困ったように笑った。
「……うーん」
「……」
「わからない」
「えっ」
「なんか勢いで」
軽い。
いや重い。
どっちだ。
*
石嶺先輩は少し空を見る。
「私ね」
静かな声。
「今まで男の子と付き合ったことないんだ」
「……」
「だから」
少し笑う。
「知らない人とか無理で」
「……」
「関羽くんなら安心かなって」
大型犬理論だった。
その時。
僕の口が勝手に動いた。
「……じゃあ」
「?」
「じゃあ僕が告白してたら」
言ってしまった。
終わった。
人生。
だが。
石嶺先輩は。
普通に言った。
「もちろんOKだったよ?」
静寂。
「……え?」
脳停止。
「え?」
「え?」
「え?」
「えええええええええええ」
「早いもの勝ちだったの!?」
思わず叫んだ。
石嶺先輩が吹き出す。
「なにそれ」
「いやだって!」
ショックだった。
めちゃくちゃ。
僕は頭を抱えた。
「うわぁ……」
「そんな落ち込む?」
「落ち込みますよ!」
人生最大レベルで。
その時だった。
石嶺先輩が。
少し笑った。
でも。
それは。
今まで見たことない笑い方だった。
少し。
悪戯っぽくて。
ずるくて。
なにか企んでるみたいな。
「……」
僕はなぜか。
その顔から目を逸らせなかった。
*
翌日。
部室。
空気が重かった。
関羽先輩が震えている。
石嶺先輩が正座していた。
嫌な予感。
「……昨日」
石嶺先輩が小さく言う。
「事務所の人に言われて」
「……」
「恋愛禁止だから、やっぱり付き合えないって」
静寂。
「……」
「……」
「……」
関羽先輩が止まった。
完全に。
魂が抜けていた。
「……そうか」
小さい声。
「うん……ごめんね」
「いや」
笑う。
無理やり。
「石嶺先輩が悪いわけじゃ……」
いや、同学年だけど、、、
その笑顔が逆にきつかった。
*
その日から。
関羽先輩は、
少し壊れた。
夕陽を見て泣く。
焼き芋見て泣く。
サザン聞いて泣く。
「TSUNAMIが刺さる……」
「今その曲危険ですよ」
*
数日後。
校庭の隅。
「……何してるんですか」
僕は呆然とした。
曹操会長だった。
スコップ持ってる。
そして。
小さな塚。
「関羽の怨念が強すぎる」
「なに言ってるんですか」
「鎮めねばならん」
真顔だった。
怖い。
その横。
関羽先輩が体育座りしている。
魂抜けてる。
*
曹操会長は静かに言った。
「ここを」
土を盛る。
「関帝廟とする」
「やめてください」
だが。
なぜか。
数日後には。
そこへ缶コーヒーや肉まんが供えられ始めた。
女子まで来ていた。
「関羽先輩元気出してください!」
「泣かないで……!」
「大型犬系男子つらい……!」
なんなんだこの学校。
*
夕方。
冬の空。
僕は校庭の隅を見る。
関帝廟。
意味不明だった。
でも。
その横で。
石嶺先輩が小さく笑っていた。
そして。
ふと。
僕を見る。
「……」
「……」
なんだろう。
最近。
石嶺先輩の視線が。
少しだけ。
前と違う気がしていた。




