第十一話 関羽先輩うっかり石嶺先輩に告白する。石嶺先輩「OK」
修学旅行最終日。
京都駅。
お土産屋。
人混み。
八ツ橋。
木刀。
そして。
「孔明!」
劉備小桃が満面の笑みで走ってきた。
嫌な予感。
「見ろ!」
白い扇子。
二本。
達筆で文字が書かれている。
一本には。
『魚』
もう一本には。
『水』
「……」
「……なにこれ」
「水魚の交わりだ!!」
テンションが高い。
「水が孔明!」
「魚が劉備」
そして。
劉備小桃は満面の笑みで、
『水』と書かれた扇子を僕へ渡した。
「やる!」
「え?」
「我ら、一蓮托生!」
「重い」
だが。
なんか。
少し嬉しかった。
帰りもE席を劉備小桃にとられたが、結局名古屋あたりから劉備小桃は眠り始め、肝心の赤富士の光景を見ることができなかった。
僕は劉備小桃越しに、夕日の富士山を堪能した。神々しい富士山が、くすぐったく思えた。
*
修学旅行翌日、僕と劉備部長が部室でお土産を配っている。
誠と書かれた鉢巻を劉備小桃は皆に配っている。
曹操会長よく似合う。
斎藤一感あり。
呂布は芹沢鴨と言っていた。
それから劉備小桃が水魚の交わりセンスを自慢する。
周瑜先輩が視線を外して、ふっと笑う。
後方。
石嶺先輩。
「……」
なんか。
微妙な顔をしていた。
「石嶺先輩?」
「あ、ううん!」
笑う。
でも。
少しだけ。
笑顔が遅れた。
*
十一月中旬。
学校。
空気はかなり冬に近づいていた。
そして。
石嶺先輩は。
忙しくなっていた。
*
「えっ」
僕はスマホを見た。
『イミダゾール石嶺の
ゆるっと低糖質生活』
ABEMA。
新番組。
しかも。
冠番組。
「……」
画面の中。
石嶺先輩が笑っている。
『今日はオートミール使います♪』
コメント欄。
『かわいい』
『癒し』
『嫁にしたい』
『関羽泣くな』
なんでだよ。
*
そして。
石嶺先輩は、
小さな芸能事務所へ所属したらしかった。
学校でも。
普通に有名人だった。
「石嶺先輩テレビ出てた!」
「サインください!」
「写真いいですか!?」
でも。
部活へ来る回数は減った。
放課後。
空席。
なんとなく。
部室の空気が少し変わった。
*
その日も。
石嶺先輩は久しぶりだった。
「お疲れ様です」
少し疲れて見えた。
笑ってる。
でも。
前みたいな、
ふわっとした感じが少し薄い。
その時。
関羽先輩が立ち上がった。
「石嶺先輩!」
同学年だろ!
「はい?」
「最近元気ないですよね!?」
直球だった。
「えっ」
石嶺先輩が驚く。
「俺、心配で……!」
「元気出してくださいっ」
と言いたかった。
部室が静まる。
関羽先輩、
顔真っ赤。
なんでだろう、違う思いがこみ上げてくる、止まれ。
まだ戻れる。
だが。
止まらなかった。
「す、好きです!!」
静寂。
「えっ」
僕の脳も止まった。
部室の時間が止まった。
関羽先輩自身も止まっていた。
「あっ」
本人も今気づいた顔してる。
「いや違っ」
「違わなくない?」
周瑜先輩が小声で言った。
終わった。
完全に。
*
だが。
次の瞬間。
石嶺先輩は少し驚いて。
そして。
笑った。
「……うん」
静寂。
「え?」
関羽先輩が止まる。
「つ、つきあってください」
ふり絞った声で関羽先輩は言った。
石嶺先輩は少し照れながら言った。
「よろしくお願いします」
「えええええええ!?」
部室崩壊。
劉備小桃が机を倒した。
呂布が麦茶吹いた。
周瑜先輩が天を仰ぐ。
関羽先輩本人が一番混乱していた。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
大型犬がパニック起こしていた。
*
そして。
僕は。
笑えなかった。
「……」
なんだろう。
胸の奥。
変な感じだった。
重い。
苦しい。
その時。
劉備小桃がこちらを見る。
「孔明?」
「……」
僕は初めて理解した。
ああ。
僕。
石嶺先輩のこと、
好きだったんだ。
気づくのが。
遅すぎた。
*
帰り道。
夜風。
冷たい。
自販機の光。
関羽先輩はまだ混乱していた。
「俺……彼女……?」
「そうですね」
「えっ」
「聞くの三十五回目ですよ」
だが。
その後ろで。
僕はずっと、
白い扇子を見ていた。
『水』
秋は終わり始めていた。
そして。
何かが、
確実に変わってしまった気がした。




