第十話 劉備と孔明の修学旅行
十一月。
秋はかなり深まっていた。
木々は色づき。
空気は澄み。
そして。
修学旅行の季節だった。
*
「京都奈良だぁぁぁ!!」
劉備小桃が新幹線ホームで叫ぶ。
「テンション高いですね」
「修学旅行だぞ!?」
「知ってます」
「青春最大イベントの一つだぞ!?」
「文化祭でも同じこと言ってましたよね」
その時。
周囲の男子たちの視線がこちらへ向く。
「……」
「……」
「山田、やっぱ許せねぇ」
怖い。
最近本当に怖い。
*
ちなみに。
ダイエット部(三国志研究会)の二年生は、
僕と劉備小桃しかいなかった。
つまり。
修学旅行期間。
この二人だけ。
嫌な予感しかしなかった。
そして僕らにはクラスに仲の良い友達なんかいない。
*
新幹線。
座席。
当然のように隣。
富士山の見えるE席を奪い合う。
押しくらまんじゅうのように。
いろいろ当たる。
周りの生暖かい目。
*
だが。
修学旅行というものは恐ろしい。
普段と違う空気。
非日常。
ホテル。
夜。
京都。
青春補正。
全部危険だった。
*
京都到着。
清水寺。
紅葉。
観光客。
そして。
「うおおおお!!」
劉備小桃、
めちゃくちゃはしゃいでいた。
「孔明見ろ!」
「はい?」
「鹿!!」
「奈良じゃないですよ」
「先行配備かもしれん!」
意味不明だった。
*
その時。
女子グループ。
「ねぇ見て」
「ダイエット部の二人じゃん」
「やっぱ付き合ってるのかな」
「お似合いじゃね?」
「……」
「……」
劉備小桃と僕は、
同時に変な咳をした。
「ゲホッ」
「ゴホッ」
空気が終わった。
*
夕方。
自由行動。
なぜか。
僕と劉備小桃、
二人だけになっていた。
「……」
「……」
なんで?
さっきまで班いたよね?
「孔明」
「はい?」
「これ迷子では?」
終わった。
*
京都の裏道。
夕暮れ。
赤い葉。
石畳。
観光地の喧騒が少し遠い。
「……」
「……」
なんか。
急に静かだった。
その時。
劉備小桃が言った。
「なぁ」
「はい?」
「最近さ」
風。
髪。
秋の匂い。
「石嶺先輩と仲良いよな」
ドクン。
「え?」
「いや別に普通ですよ」
「ふーん」
なんか。
機嫌悪い?
その時。
「あっ」
劉備小桃が段差で滑る。
危ない。
僕は反射的に腕を掴んだ。
静止。
近い。
顔。
距離。
紅葉。
夕暮れ。
「……」
「……」
「……」
その瞬間。
通りすがりのおばちゃん。
「まぁ〜青春ねぇ〜」
「違います!!」
即否定した。
だが。
劉備小桃は、
なぜか少しだけ不満そうだった。
*
夜。
旅館。
自由時間。
男子部屋。
地獄だった。
「山田ぁ」
「なんですか」
「お前さ」
また始まった。
「劉備部長と何もないの?」
「ないです」
「でも修学旅行ずっと一緒じゃん」
「班だから!」
「……」
「……」
「……爆発しろ」
「理不尽!!」
*
その頃。
女子部屋。
「小桃ってさー」
「ん?」
「山田くん好きなの?」
「はぁ!?」
布団が飛んだ。
*
翌朝。
眠い。
寒い。
京都の朝。
ロビー集合。
そして。
「おはよ孔明」
劉備小桃が来た。
なんか。
少しだけ。
昨日より距離が近い気がした。
「……」
「……」
妙にお互い目を合わせづらい。
その時。
先生が叫ぶ。
「はい班ごと並べー!」
救世主だった。
*
だが。
修学旅行が終わる頃。
僕は少し気づき始めていた。
劉備小桃といる時間が。
前より。
特別になり始めていることに。




