第九話 呂布キレる
十月末。
空気は冷たくなり始めていた。
文化祭も終わり。
少し浮ついた空気が、
学校から抜け始めていた頃。
事件は起きた。
*
放課後。
旧校舎第三準備室。
「いやだからさー」
劉備小桃が笑う。
「赤壁って結局ノリだよな!」
「絶対違います」
周瑜先輩が突っ込む。
関羽先輩は、
低糖質プリンを食べていた。
石嶺先輩は新作おからクッキーを焼いている。
僕はホワイトボードに、
『モルック冬季布陣案』
とかいう意味不明なものを書いていた。
平和だった。
その時。
ドン。
静寂。
呂布だった。
武田猛。
130kg超。
最近少し痩せた。
だが。
今日は様子がおかしかった。
俯いている。
震えている。
「……呂布?」
劉備小桃が言う。
その瞬間だった。
「なんなんですかこの部活はぁぁぁぁ!!!」
部室が揺れた。
全員固まる。
窓ガラス震えてる。
*
「三国志研究会なのに!!」
ドン!!
机。
「誰も三国志勉強しないし!!」
「すみません」
僕は即謝った。
「モルック部なのに!!」
ドン!!
「誰も真剣に練習しないし!!」
「いやしてるだろ!?」
関羽先輩が言う。
「関羽先輩この前焼き芋食べながら投げてたじゃないですか!!」
「バレてた」
*
呂布は止まらなかった。
「孔明先輩!!」
「はい!」
「諸葛亮なのに街亭の布陣説明できないじゃないですか!!」
「だから僕ふわっとしか知らないんですって!」
「劉備部長!!」
「はい!」
「“三顧の礼”を“三回くらいお願いしたやつ”って説明してましたよね!?」
「だいたい合ってる!」
「合ってません!!!」
部室崩壊寸前だった。
*
数分後。
なぜか。
反省会になっていた。
「……」
全員正座。
怖い。
呂布が腕を組む。
完全に鬼教官だった。
「このままではダメです」
「はい……」
「部活には規律が必要です」
「はい……」
「まず朝五時ランニング」
「早い」
「その後三国志武将百人暗記」
「多い」
「さらに放課後モルック千本ノック」
「ブラック部活!」
だが。
圧がすごかった。
呂布。
本気だった。
劉備小桃が震えながら言う。
「……わ、わかった!」
「部長!?」
「やろう!」
「なんで!?」
「天下統一には犠牲が必要だ!」
「絶対違う!」
*
翌日。
朝五時。
河川敷。
「……」
「……」
「……帰りたい」
誰も喋らなかった。
寒い。
暗い。
眠い。
呂布だけ元気だった。
「走りますよ!!!」
「うおおおお!!」
怖い。
*
三日後。
誰も来なくなった。
*
放課後。
部室。
死屍累々。
関羽先輩が机へ突っ伏している。
「無理……」
「朝五時は人類には早い……」
周瑜先輩も死んでいた。
「武将百人暗記ってなんだよ……」
劉備小桃は魂が抜けていた。
「天下統一って大変なんだな……」
「だから違いますって」
だが。
呂布だけは普通だった。
いや。
むしろ輝いていた。
*
その時。
石嶺先輩が部室へ入ってきた。
「あれ?みんな顔死んでる」
「呂布が……」
関羽先輩が震える。
石嶺先輩は状況を聞き。
そして。
呂布を見た。
「武田くん」
「は、はい!」
瞬間で姿勢が良くなる。
「頑張るのはすごく良いと思う」
「……!」
「でもね」
少し笑う。
「楽しくないと、続かないよ?」
静寂。
呂布が固まる。
数秒後。
「……はい」
めちゃくちゃ素直だった。
しかも。
笑顔。
怖いくらい笑顔。
「すみませんでした」
「解決した!?」
石嶺先輩、
最強だった。
*
だが。
呂布自身は変わらなかった。
朝ラン。
筋トレ。
三国志暗記。
モルック練習。
全部続けた。ストイックに。
一人だけ。
そして。
十一月。
「……あれ?」
周瑜先輩が言う。
「呂布、痩せてね?」
痩せていた。
-10kg。




