第八話 周瑜、マリア学園のモルック部の一番かわいい子とつきあってる説
「……これは黒だな」
十月下旬。
放課後。
旧校舎第三準備室。
劉備小桃が真顔で言った。
ホワイトボード。
そこには。
『周瑜恋愛疑惑』
怖い。
「なんなんですかこの部活」
僕は頭を抱えた。
だが。
確かに最近、
周瑜先輩は怪しかった。
*
まず。
スマホを見る回数が増えた。
しかも。
ニヤけている。
怖い。
さらに。
「今日ちょっと先帰るわ」
が増えた。
そして決定的だったのは。
聖マリア学園モルック部。
その中でも。
一番かわいいと言われている。
長身。
黒髪。
クール系。
名前は確か、
橘さん。
周瑜先輩と。
普通に距離が近い。
「……」
「……」
「……付き合ってるだろ」
劉備小桃が断言した。
*
「いやでも」
僕は言う。
「周瑜先輩ってそういうの隠しそうじゃないですか」
「だから怪しい」
「探偵に向いてない思考だな部長」
だが。
劉備小桃は燃えていた。
「尾行するぞ孔明!」
「嫌です」
「天下のため!」
「絶対違う」
*
翌土曜日。
立川駅北口。
人混み。
秋空。
僕は死んだ目をしていた。
「なんで僕まで」
「二人だと自然だからだ!」
「尾行に自然も何もないだろ」
その時。
「あっ!」
劉備小桃が僕の腕を掴む。
近い。
「周瑜いた!」
「やはりな、我が視力3.0の目で、やつの携帯を盗み見た結果、土曜日、立川北口10:00という文字が見えた、あやしいとおもったのだ」
「マサイ族?」
柱の陰。
見る。
周瑜先輩。
私服。
なんか普通にかっこよかった。
悔しい。
そして。
数分後。
来た。
聖マリアの橘さん。
「うわ」
「うわって言うな」
普通にかわいかった。
映画のポスターみたいだった。
*
「……追うぞ」
「刑事ドラマみたいに言わないでください」
だが。
気づけば僕たちは尾行していた。
立川モノレール。
ららぽーと。
カフェ。
雑貨屋。
完全にデートだった。
「黒だな」
劉備小桃が頷く。
「黒ですね」
でも。
そのうち。
なんか。
おかしくなってきた。
「これ食べる?」
「え、あ、ありがとうございます」
気づけば。
僕と劉備小桃も、
普通にクレープ食べていた。
「……」
「……」
なんだこれ。
*
昭和記念公園。
秋の風。
少し冷たい。
富士山が少しだけ見える。
前方では、
周瑜先輩と橘さんが歩いている。
後方では。
僕と劉備小桃が歩いていた。
「……」
「……」
妙に静かだった。
その時。
劉備小桃が言った。
「なぁ孔明」
「はい?」
「最近さ」
風。
髪。
夕陽。
「なんか変わったよな」
「……」
「前はもっと、うさんくさかったけど」
ドクン。
「今は」
少し笑う。
「ちゃんと頼りがいがある」
その瞬間。
なんか。
胸が苦しくなった。
その時だった。
前方。
周瑜先輩が振り返る。
静止。
目が合う。
「……」
「……」
「……お前ら何してんの?」
終わった。
*
数分後。
池の横。
公開処刑。
「尾行?」
周瑜先輩が呆れていた。
橘さんは笑いを堪えている。
「いやこれはですね」
「劉備が全部言い出した」
「孔明裏切ったな!?」
その時。
橘さんが笑った。
「付き合ってないよ?」
静寂。
「え?」
「普通にモルック用品と公園のモルック練習場見に来ただけ」
「……」
「……」
「……」
最悪だった。
だが。
その時。
橘さんが周瑜先輩を見る。
「でも」
少し笑う。
「そう見えた?」
周瑜先輩が珍しく固まった。
「……」
「あっ」
僕と劉備小桃が同時に言った。
これは。
まだ始まっている途中だ。
池越しの風が吹く。
夏とは違う空気。
関係は少しずつ変わり始めていた。
「黒?」
「限りなく透明に近い黒」
僕と劉備小桃はうなずきあった。




