第四話 孔明の秘策
曹操会長、しかして本名は桑田慶介。
この織冠高校(蜀漢ではない!)の生徒会長なのに、魏陣営の曹操を名乗るのか学校の七不思議のひとつだ。
しかし彼もノリがよいことは間違いない。
だから本気でこの部を潰そうというより、何か他の目的があるに違いない。
謎の多い奴だ。
しかし彼が戦いを仕掛けてきたからには、軍師として応じなければならない。
翌日。
僕は部活が始まると、期待する皆の前でホワイトボードにこう書いた。
『バナナダイエット』
沈黙。
風が吹いた。
旧校舎の窓がカタカタ鳴る。
「……は?」
最初に口を開いたのは周瑜先輩だった。
「いや待て軍師」
「はい」
「策ってそれ?」
「はい」
「もっとこう……兵法とかないの?」
「兵法です」
「バナナが?」
劉備部長が腕を組む。
「ふむ……」
真面目に考えるな。
「確かにバナナは完全栄養食とも言われる……」
「いや完全ではないです」
「さすが孔明、謙虚だ」
話を聞いてほしい。
関羽先輩が恐る恐る手を挙げた。
「あの……バナナだけ食うの?」
「違います」
部室に安堵が広がった。
「朝食をバナナに置き換えるだけです」
「おおー」
「あと間食禁止」
静まり返る。
関羽先輩の顔色が変わった。
「……間食?」
「はい」
「ポテチも?」
「はい」
「チョコも?」
「はい」
「夜中のカップ焼きそばは」
「それはもう食事です」
「助かった……」
助かってない。
僕はホワイトボードに円グラフを書いた。
『摂取カロリー>消費カロリー』
「太る理由は基本これです」
「シンプルだな」
周瑜先輩が感心する。
「人間、急に変わるのは無理です。だからまず“朝だけ”変える」
僕は説明を続けた。
「バナナは安い、準備いらない、腹持ちも悪くない」
「軍師……!」
劉備部長が目を輝かせる。
「まさに兵站を意識した策!」
「まあ、はい」
なんか全部軍略に変換されるな。
その時。
関羽先輩が深刻そうな顔で聞いた。
「……チョコバナナは?」
「ダメです」
「バナナクレープは?」
「ダメです」
「バナナパフェ」
「むしろ敵です」
関羽先輩は静かに天を仰いだ。
「俺は……何を信じればいい……」
大げさだな。
その時だった。
ガラッ。
部室の扉が開く。
現れたのは曹操会長だった。
今日もデカい。
後光すら見える。
「ほう」
会長はホワイトボードを見た。
『バナナダイエット』
数秒の沈黙。
「……地味だな」
「うっ」
図星だった。
もっとこう、
“赤壁大作戦”とか名前付けた方がよかったかもしれない。
だが曹操会長は少し笑った。
「だが嫌いではない」
「えっ」
「人は派手な策に飛びつく。しかし継続できねば意味がない」
意外だった。
もっとバカにされると思ったのに。
曹操会長は腕を組む。
「だがそれだけでは勝てんぞ軍師」
「……どういう意味ですか」
「ダイエット最大の敵は空腹ではない」
彼は静かに言った。
「誘惑だ」
その瞬間。
コンコン、と部室の扉がノックされた。
失礼しまーす、と入ってきたのは女子生徒だった。
ショートボブ。
小柄。
エプロン姿。
そして。
めちゃくちゃいい匂い。
「生徒会から差し入れです♪」
机に置かれたのは――
大量のシュークリームだった。
うわ。
空気が揺れた。
関羽先輩の瞳孔が開く。
劉備部長の喉が鳴る。
周瑜先輩が「うわ最低」と呟いた。
曹操会長は静かに言う。
「これが戦だ、孔明」
絶対楽しんでるだろこの人。




