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第三話 天下カロリー三分の計

「で、僕は何をすればいいの?」


「おっ、さっそく孔明軍師殿はやる気ムンムンだな!」


「諸葛亮と呼ばないで!」


「で諸葛亮よ、このように我々ダイエット部はまさに危機的状況にある。そこで軍師をまねいてこの部を復活させ、全国大会まで我々を連れて行ってほしい。軍師殿には軍の全権を渡そう。どうだ、頼まれてくれないか。部のため民のため天下のため」


劉備部長が真剣なのが怖かったが、僕は退屈よりはましだと思った。そしてノート返してほしかった。


僕は無理をして、ノリを合わせ、


「わかりました。この孔明、一命にかけましてその願い叶えてみせましょう」


と右拳に左手を被せ礼をした。


「ううん、ちょっとノリ違うかも……」


劉備部長が少し引いた。


「ええっ難っ」


しかし一方で、

「今のなんか本物っぽかった」


「逆に怖い」


周瑜先輩が笑う。


関羽先輩だけが感動していた。


「うおお……軍師……!」


単純だなこの人。


劉備部長は急に真顔になると、ホワイトボードの前に立った。


「では孔明。まずは現状分析を頼む」


「現状分析?」


「うむ。我が軍の問題点を洗い出してほしい」


なんで急にガチ会議みたいになるんだ。


でも。


僕は少しだけワクワクしていた。


退屈な授業中、脳内帝国を作っていた時と似ている。


架空の国家運営。


資源管理。


兵站。


外交。


それを現実のダイエット部に当てはめれば――。


「……わかりました」


僕はホワイトボードに近づいた。


マーカーを取る。


すると全員が妙に真剣な顔でこちらを見る。


なんだこの空気。


「まず、問題は三つあります」


おおっ、と部室がざわつく。


いやそんな大したこと言ってないけど。


僕はホワイトボードへ書いた。


一、食事

二、運動

三、モチベーション


「おお〜〜」


「なんか軍師っぽい!」


「普通のことしか言ってなくない?」


周瑜先輩だけ冷静だった。


僕は続けた。


「まず食事ですが……皆さん、何食べてるんですか?」


静寂。


嫌な予感。


関羽先輩が重い口を開く。


「朝はカツ丼」


「重い」


「昼は唐揚げ弁当特盛」


「重い」


「夜はラーメン」


「重い!」


「あと寝る前にアイス」


「攻城兵器かよ」


劉備部長も負けていなかった。


「私は最近、タピオカを主食にしている」


「なんで?」


「飲み物だからゼロカロリー理論」


「違います」


周瑜先輩が頭を抱えた。


「やっぱ終わってるわこの部」


さらに趙雲――田中先輩。


「僕は一日一食」


「おっ、意識高い」


「その代わり夜に二郎系を食う」


「台無し!」


僕は理解した。


この部には。


知識がない。


というより。


極端なのだ。


「なるほど……」


僕はホワイトボードに新たに書いた。


『蜀漢ダイエット部 基本戦略』


その瞬間。


部室の空気が変わった。


劉備部長がゴクリと唾を飲む。


関羽先輩が姿勢を正す。


周瑜先輩までちょっと真面目な顔になった。


えっ何この空気。


僕、今そんな重要人物?


「ダイエットは戦争です」


自分で言ってちょっと恥ずかしくなった。


でも止まらない。


「兵站を軽視した軍は滅びる」


「おおお……」


「つまり皆さんは補給線が崩壊しています」


「補給線……!」


「あと食べ過ぎです」


「急に現実!」


関羽先輩がダメージを受けていた。


僕は続けた。


「まず必要なのは、急激な減量ではありません」


ホワイトボードに大きく書く。


『継続』


「短期間で痩せようとするから失敗するんです」


「た、確かに……」


劉備部長が動揺する。


「人は習慣で太る。だから習慣で痩せるしかない」


おお〜〜、と部室がどよめく。


なんだろう。


気持ちいい。


僕は今、確かに軍師だった。


その時だった。


ガラッ!!


部室の扉が勢いよく開いた。


「ほう」


現れたのは曹操会長だった。


でかい。


圧がある。


そして後ろには生徒会役員らしき連中までいる。


「面白いことを言うな、山田阿斗」


空気が張り詰める。


曹操会長はホワイトボードを見る。


『継続』


彼は少し笑った。


「だが理想論だけでは脂肪は落ちん」


「……」


「来月、校内合同スポーツ測定会がある」


嫌な予感。


「そこで結果を出せなければ、ダイエット部は廃部だ」


うわあ。


ベタだけど燃えるやつ来た。


劉備部長が叫ぶ。


「望むところだ曹操!」


「その時までに貴様らを“標準体型”へ導いてみせる!」


「無理だろ」


周瑜先輩が即答した。


曹操会長は僕を見た。


「軍師」


「はい?」


「お前の策、見せてもらおう」


そう言って去っていく。


静寂。


数秒後。


関羽先輩が震える声で言った。


「……ラーメン、食ってる場合じゃなくね?」


「気づくの遅い!」


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