第五話 ダイエット部の文化祭 こちらには石嶺先輩というキラーコンテンツがある
十月。
空が高かった。
風は冷たくなり始め。
放課後の校舎には、
少しだけ冬の匂いが混じっていた。
そして。
文化祭が近づいていた。
*
「文化祭だぁぁぁ!!」
劉備小桃が部室で叫ぶ。
「青春最大イベント!!」
「去年文化祭で部室にこもって三国志人狼やってた人が何言ってるんですか」
「今年は違う!」
バン!!
ホワイトボード。
『モルック体験会&低糖質カフェ』
「また石嶺先輩頼りか」
「勝てる戦しかしない」
劉備小桃は真顔だった。
*
現在。
ダイエット部(三国志研究会)は、
完全に学校の人気部活になっていた。
文化祭パンフ。
『全国優勝校!
ABEMAで話題!』
なんか恥ずかしい。
しかも。
石嶺先輩が表紙横に載っていた。
『低糖質スイーツ監修』
芸能人だった。
完全に。
「石嶺先輩目当ての客、絶対多いですよね」
僕が言うと。
周瑜先輩が頷く。
「八割そうだろ」
「残り二割は?」
「関羽」
「えっ俺?」
最近、
関羽先輩の人気がおかしかった。
特に女子。
「関羽先輩って優しそう」
「なんか安心感ある」
「大型犬っぽい」
「大型犬……」
本人は少し嬉しそうだった。
*
一方。
呂布。
本名・武田猛。
一年。
130kg超。
石嶺先輩ガチ勢。
彼は最近、
異様にモルックがうまくなっていた。
「……」
放課後。
校庭。
無言。
構える。
投げる。
ドゴォッ!!
「!?」
12番。
一直線。
会場静止。
「……え?」
関羽先輩が固まる。
もう一投。
ドゴッ!!
また命中。
「嘘だろ」
周瑜先輩まで引いていた。
呂布は静かに言う。
「……モルック、楽しいです」
怖い。
なんか。
怪物が目覚め始めていた。
*
その時。
校庭端。
女子グループ。
「呂布くんすごーい!」
「かっこいい!」
「えっ」
呂布が止まる。
初めて女子に話しかけられたのだろう。
顔が真っ赤だった。
「……あっ……」
そして。
勢いよくお茶を吹いた。
「汚っ!!」
劉備小桃が叫ぶ。
でも。
なんか少しだけ。
微笑ましかった。
*
夕方。
部室。
文化祭準備。
模造紙。
装飾。
低糖質メニュー会議。
そして。
「……」
僕は窓際で空を見ていた。
秋だった。
完全に。
夏は終わっていた。
その時。
「孔明くん」
石嶺先輩だった。
「はい?」
「これ、味見して」
小さな紙皿。
低糖質チーズケーキ。
「……うま」
「ほんと?」
先輩が笑う。
その瞬間。
なんか。
胸がざわついた。
最近。
石嶺先輩と話すと変だ。
緊張する。びりびりするというか、ざわざわするというか、
距離感がわからない。
その時。
「あーっ!!」
劉備小桃がこちらを見ていた。
「孔明だけ先に食べてる!」
「いや味見で」
「ずるい!」
なぜかこちらへ来る。
近い。
距離。
匂い。
「私も食べる!」
「いやそれ僕の」
「あーん」
「なんで!?」
部室が静止した。
関羽先輩、
口を開けたまま固まっている。
周瑜先輩が天を仰ぐ。
呂布は静かにメモしていた。
『劉備と孔明、距離近い』
やめろ。
*
帰り道。
夕暮れ。
秋の空。
少し冷たい風。
僕はふと思った。
なんか。
もう。
退屈だった頃へ、
戻れない気がする。
それは嬉しくて。
少しだけ怖かった。




