第四話 孔明学校で嫌われる
九月中旬。
秋はまだ浅い。
けれど。
風だけは、
少し変わり始めていた。
*
「おはようございます!」
「石嶺先輩、本物だ、ほんとに存在していたんだ!」
「関羽先輩、マジ関羽だ!?」
「えっ俺!?」
朝。
校門前。
もう完全に芸能人だった。
石嶺先輩は女子人気まで高かった。
料理。
優しい。
かわいい。
知識ある。
そりゃ強い。
関羽先輩は、
なぜか男子人気もあった。
「泣いてるの良かったです!」
「応援したくなる!」
「ありがとうございます……?」
本人が一番困惑していた。
そして。
劉備小桃。
「おーい孔明ー!」
元気に手を振る。
その瞬間。
周囲の男子たちの視線が、
僕へ突き刺さった。
「……」
「……」
「……」
怖い。
なんだこの空気。
*
教室。
僕は席へ座った。
すると。
後ろから声。
「なぁ山田」
振り向く。
クラスの男子。
普段そんな喋らない奴。
「……はい?」
「お前さ」
嫌な予感。
「佐藤(劉備)と付き合ってんの?」
「は?」
教室が静かになる。
聞き耳立ててる。
「いや違うけど」
「でも毎日一緒じゃん」
「部活だから」
「石嶺先輩とも仲良いし」
「部活だから!」
なんなんだ。
急に。
その時。
「山田って最近調子乗ってね?ラノベの主人公か!」
誰かが小さく言った。
静寂。
笑い。
でも。
半分本気だった。
「……」
僕は少し黙った。
*
昼休み。
屋上。
風。
少し冷たい。
「……なるほどな」
周瑜先輩が炭酸水を飲みながら言う。
「嫉妬され始めたか」
「そんな漫画みたいなことあります?」
「あるんだよ、だっておかしいだろ学校の美人ランキング上位二人と仲いいなんて」
他人事みたいに言う。
「そしてお前」
周瑜先輩が笑う。
「夏前まで完全なる陰キャだったのに、パーフェクト陰キャ」
「はい」
何故パーフェクトを英語に?
「今、学校トップクラスの女子二人と毎日一緒にいるからな」
「……」
言語化されると怖かった。
その時。
「孔明ー!」
劉備小桃が屋上へ来た。
「モルック練習行くぞ!」
「はい」
その瞬間。
屋上入口付近にいた男子グループが、
露骨にこちらを見た。
「……」
「……」
「……爆発しろ」
聞こえてる。
*
放課後。
部室。
新入部員たち。
呂布こと武田猛。
モルック練習。
秋の光。
でも。
なんとなく。
前と違った。
人が増えた。
視線も増えた。
外側から見られるようになった。
その時。
石嶺先輩が隣へ来た。
「元気ない?」
「え?」
「最近ちょっと疲れてそう」
ドクン。
近い。
距離。
匂い。
まずい。
「いや別に」
「ほんと?」
先輩は少し心配そうだった。
その瞬間。
部室入口。
男子たち。
「……」
「……」
「あいつ今石嶺さんとめっちゃ距離近くね?」
終わった。
完全に。
*
帰り道。
夕暮れ。
秋の空。
少し長くなった影。
僕はふと思った。
人気って。
怖い。
夏までは、
ただ楽しかった。
でも今は。
誰かに見られている。
比べられている。
嫉妬されている。
その時。
「孔明」
隣。
劉備小桃だった。
「元気ないぞ?」
「……」
部長は少し笑った。
「まあ、わかるけどな」
「え?」
「人気者になると大変なんだよ」
「部長が言うと腹立ちますね」
「なんだと!」
でも。
その横顔は。
夕暮れのせいか。
少しだけ大人っぽく見えた。
「……」
なんだろう。
最近。
僕は。
二人を見る時、
少し困るようになってきた。
秋の風が吹く。
夏は、
確実に終っていた。




