第三話 九月の湘南 遅すぎた夏(水着回)
時は少し遡って、八月某日。
「海だぁぁぁ!!!」
劉備部長がグループLINEで暴れていた。
『湘南!!』
『焼きそば!!』
『ラーメン!!』
『天下統一!!』
しかし。
問題があった。
部活で海に行く日の天気予報。
降水確率80%。
「……終わった」
関羽先輩が呟く。
「俺の夏が……」
「まだ降ると決まったわけじゃ」
僕が言いかけた時。
劉備部長がこちらを向いた。
嫌な予感。
「孔明」
「はい?」
「なんとかしろ」
「無理です」
「赤壁でも風向きかえただろ」
「多分あれ作り話です」
だが。
なぜか。
その場の空気が、
“孔明ならなんとかする”
みたいになっていた。
なんで。
*
そして僕は。
やってしまった。
「……」
深夜。
自室。
僕は祈祷を行っていた。
やり方はわからない。
でも。
なんか。
やらなきゃいけない気がした。
机。
ろうそく。
レモン汁。
モルック棒。
そして。
「天候よ……」
何やってんだろう俺。
「どうか晴れてください……」
翌日。
台風が来た。
「なんでだよぉぉぉぉ!!!」
劉備部長から電話が来た。
「孔明ぃぃぃ!!!」
「僕のせいじゃないですよ!!」
「お前祈祷しただろ!!」
「しましたけど!!」
「赤壁を超える東風吹かせてどうする!!」
*
結果。
海イベント。
中止。
関羽先輩は三日くらい口数が減った。
周瑜先輩からは、
「お前もう二度と天候いじるな」
と言われた。
石嶺先輩だけは笑っていた。
「でも逆にすごいね」
「よくない方向にですけどね」
*
そして。
九月。
リベンジ開催。
場所。
藤沢。
江ノ島近辺。
空は高く、うろこ雲。
夏の終わりみたいな風が吹いていた。
「……人少ないな」
周瑜先輩が海を見る。
「九月だからな」
でも。
僕は少し好きだった。
秋の海。
静かで。
少し寂しくて。
青春の終わりみたいで。
*
「おまたせー!」
振り向く。
石嶺先輩だった。
白いパーカー。
帽子。
そして。
水着。
「……」
関羽先輩が停止した。
完全に。
その横。
「どうだ孔明!」
劉備部長――劉備小桃も笑う。
スポーティな水着。
ショートパンツ。
健康的。
普通にかわいい。
「……」
なんか急に直視できなくなった。
「どうした孔明?」
「いや別に!」
「顔赤いぞ?」
「日差しです!!」
「九月だけど?」
周瑜先輩が笑った。
*
海。
砂浜。
波。
そして。
秋の日差し。
強すぎない。
でも透明感がある。
「うおおおお!!」
関羽先輩が海へ突撃する。
「冷たっ!!」
「そりゃ九月ですから」
その時だった。
風。
Tシャツ。
ぺらっ。
「あ」
静寂。
石嶺先輩が止まる。
劉備部長も見る。
周瑜先輩まで黙る。
「……孔明」
劉備部長が呟く。
「お前」
僕も気づいた。
腹筋。
割れていた。
うっすら。
でも。
ちゃんと。
「えっ」
僕が一番驚いた。
いつの間に。
ダイエット。
ウォーキング。
モルック。
サウナ。
色々やってたら。
割れていた。
「……マジか」
周瑜先輩が引いている。
「孔明が陰キャ細マッチョに進化してる」
「進化系おかしいだろ」
その時。
石嶺先輩が小さく言った。
「……なんか」
少し視線を逸らす。
「ちゃんとかっこよくなったね」
ドクン。
波の音。
秋の海風。
遠くのカモメ。
「……」
僕は急に何を喋ればいいかわからなくなった。
その時。
「うおおおお!!」
関羽先輩が叫ぶ。
「浮き輪ぃぃぃ!!」
沖へ流されていた。
ありがとう関羽先輩。
空気が戻った。
*
夕方。
海辺。
コンビニ肉まん。
少し冷える風。
江ノ島の灯り。
僕たちは砂浜へ座っていた。
「……夏終わったなぁ」
劉備部長が呟く。
「ですね」
今年の夏。
退屈じゃなかった。
全国優勝して。
ABEMA出て。
石嶺先輩がバズって。
僕は天候を壊し。
そして。
腹筋が割れていた。
意味がわからない。
でも。
その意味不明さが。
少しだけ、
愛おしくなっていた。




