第二話 新しい部員 呂布
「このままではまずい」
放課後。
旧校舎第三準備室。
劉備部長は深刻な顔で言った。
「部室が狭い」
「はい」
「人が多い」
「はい」
「あと明らかに石嶺先輩目的が多い」
「はい」
部室外。
「石嶺先輩いますか〜!」
「低糖質スイーツ教わりたいです!」
「関羽先輩もかっこいいです!」
「えっ俺!?」
関羽先輩がまた赤くなっていた。
慣れてない。
*
現在。
入部希望者。
四十七名。
多すぎる。
完全にバブルだった。
「選別が必要だ」
周瑜先輩が腕を組む。
「だがどうする?」
「面接?」
「絶対カオスになる」
「モルック実技?」
「ただの球技大会になる」
その時だった。
劉備部長が立ち上がる。
嫌な予感。
「やはり――」
来た。
「三国志研究会らしく」
嫌な方向だ。
「三国志筆記試験だ!!!」
「終わった」
*
翌日。
教室。
静まり返る空気。
配られる問題用紙。
『織冠高校ダイエット部(三国志研究会)入部試験』
怖い。
しかも。
作問者。
劉備部長&周瑜先輩。
終わっていた。
*
問題例。
『問題1
蜀漢南征時、藤甲兵を率いた武将の名を答えよ』
「知らねぇよ!!」
一年生が叫ぶ。
『問題2
馬謖が街亭で行った致命的失策を簡潔に述べよ』
『問題3
次のうち実在した武将を選べ
A・張苞
B・兀突骨
C・胡烈
D・全部』
「兀突骨って何!?」
「骨!?」
「人類!?」
教室がざわつく。
僕も普通にわからなかった。
「……」
ちなみに。
僕も受けさせられていた。
劉備部長曰く、
「孔明なら満点だろ!」
とのことだったが。
無理だった。
僕の三国志知識、
完全に“なんとなく”だった。
「赤壁で燃やした人たち」
くらいしか知らない。
*
そして。
結果発表。
静寂。
劉備部長が答案を見つめる。
周瑜先輩も固まっていた。
「……」
「……」
「全滅だな」
「全滅ですね」
四十七人。
全滅。
平均点、
9点。
しかも、名前を漢字で書けば5点というボーナスがついての9点。実質4点。
低すぎる。
「おかしい……」
劉備部長が震える。
「なぜだ……」
「問題だろ」
僕は即答した。
その時。
周瑜先輩が一枚の答案を持ち上げる。
「……いや」
「?」
「一人だけいる」
静寂。
全員が振り向く。
答案。
九十八点。
「!?」
「化け物か?」
名前欄。
『一年 武田猛』
「誰?」
*
数分後。
部室。
ガラッ。
床が少し揺れた。
「失礼します……」
でかかった。
めちゃくちゃ。
一年生。
130kg超え。
汗。
メガネ。
三国志Tシャツ。
しかも。
柄が董卓だった。
怖い。
「武田猛です……」
声は小さい。
だが。
目だけ異様に輝いていた。
「試験、すごかったな!」
劉備部長が感動している。
「兀突骨まで答えるとは!」
武田は少し照れた。
「南蛮編好きなので……」
ガチ勢だった。
その時。
僕は気づいた。
この人。
モルックにもダイエットにも全く興味なさそう。
実際。
周瑜先輩が聞いた。
「ちなみに何目的で入部を?」
武田は即答した。
「石嶺先輩です」
「終わった」
さらに。
「ABEMAで見て……」
「はい」
「低糖質蒸しパンの回で好きになりました……」
「キモい!」
劉備部長が叫ぶ。
武田はしゅんとした。
だが。
その巨体。
その怪力。
そして。
後に“呂布”と呼ばれ、
モルック部史上最強のエースとなり。
大学卒業後、
日本初のプロモルッカーとして世界大会へ挑むことを。
この時、
まだ誰も知らなかった。
*
一方その頃。
部室奥。
「お前の問題だろ!」
「いや兀突骨は常識!」
「常識じゃねぇ!!」
劉備部長と周瑜先輩が責任のなすりつけ合いをしていた。
「そもそもなんで藤甲兵出した!」
「お前が南蛮編推したんだろ!」
「孔明!」
急に振られた。
「はい?」
「お前なら解けたよな!?」
静寂。
僕は目を逸らした。
「……」
「孔明?」
「僕、32点でした」
「低っ!!実質27点じゃん!」
部室が揺れるほど笑いが起きた。
その時。
武田が静かに呟いた。
「……街亭で山に布陣したのは、正直ありえないと思います」
空気が止まった。
「あっ」
周瑜先輩が言う。
「こいつ本物だ」




