第一話 二学期 凱旋
二学期初日。
まだ少し夏の匂いが残る朝。
僕――山田阿斗は、
校門前で立ち尽くしていた。
「……」
でかでかと横断幕。
『祝!!
全国高校ダイエット甲子園優勝!!
織冠高校ダイエット部(三国志研究会)』
「三国志研究会!?」
僕は思わず叫んだ。
周囲の登校生徒が振り向く。
恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「うおおお!!」
「全国優勝だ!」
「孔明いる!」
「諸葛亮だ!」
「だからその呼び方やめて!!」
朝から最悪だった。
*
その時。
「おはよう孔明!」
劉備部長が現れた。
元気だった。
夏休み明けなのに元気すぎる。
「おはようございます……」
「見たか横断幕!」
「見ましたよ!」
「学校側が作ってくれた!」
「なんで三国志研究会なんですか!」
すると。
劉備部長は真顔になった。
「……実はな」
嫌な予感。
「我々の正式名称」
やめろ。
「モルック部でも」
うん。
「ダイエット部でもなかった」
「え?」
静寂。
風。
セミ。
劉備部長は小さく言った。
「正式には」
ゴクリ。
「三国志研究会だった」
「ええええええええ!?」
衝撃だった。
「なんで!?」
「部活申請通す時、“ダイエット部”だと却下された」
「まあわかる」
「だから昔の先輩が適当に“三国志研究会”で通した」
「適当すぎる!!」
周瑜先輩が後ろから来た。
「ちなみに活動内容欄」
嫌な予感。
「『三国志を通じて心身を鍛える』」
「無理あるだろ」
だが。
思い返すと。
妙に納得感もあった。
*
その時だった。
「石嶺先輩きた!!」
女子の黄色い歓声。男子の低いどよめき。
ざわっ。
振り向く。
石嶺先輩だった。
そして。
人だかりだった。
「……え?」
完全に芸能人だった。
「イミダゾールジペプチドの子だ!」
「ABEMAの!」
「低糖質蒸しパンの!」
「かわいい〜!」
スマホ向けられてる。
写真撮られてる。
石嶺先輩、
完全に困っていた。
「えぇぇぇ……」
その瞬間。
さらに恐ろしいものが見えた。
部室前。
長蛇の列。
「……なんだあれ」
周瑜先輩が呟く。
『ダイエット部(三国志研究会)入部希望受付』
人。
人。
人。
めちゃくちゃいる。
「嘘だろ……」
関羽先輩が震えていた。
その時。
女子たちの声。
「石嶺先輩いますか!?」
「料理教わりたいです!」
「あと関羽先輩も!」
「えっ俺!?」
関羽先輩、
完全に固まる。
さらに。
「ABEMA見ました!」
「モルックかっこよかったです!」
「泣いてるの感動しました!」
「……」
関羽先輩はゆっくり空を見上げた。
「……モテ期?」
「多分そうですね」
本人が一番信じられていなかった。
*
放課後。
旧校舎第三準備室。
完全に戦場だった。
「失礼します!」
「入部希望です!」
「モルック興味あります!」
「石嶺先輩いますか!?」
「関羽先輩って彼女いますか!?」
「えっ」
関羽先輩が赤くなる。
「いやその俺は別に……」
「動揺しすぎだろ」
僕は頭を抱えていた。
人、多すぎる。
狭い。
暑い。
カオス。
劉備部長も困惑していた。
「おかしい……」
「はい」
「こんな青春っぽくなる予定では……」
「元々青春でしたよ」
その時。
部室後方。
誰かがそっとドアを開けた。
五虎将軍Tシャツ。
コンビニ袋。
趙雲だった。
「……」
久しぶりに勇気を出して来た。
だが。
部室内は人で埋まっていた。
石嶺先輩は女子に囲まれ。
関羽先輩はモテていた。
孔明は書類整理していた。
誰もこちらを見ていない。
「……」
趙雲は静かにドアを閉めた。
そして帰った。
誰にも気づかれなかった。




