第二十一話 5gの奇跡
計量日。
朝。
空気は妙に静かだった。
十日間。
ウォーキング。
低糖質。
サウナ。
モルック。
レモン汁。
鶏胸肉。
そして。
たまに泣きながらサラダチキンを食べる関羽先輩。
僕たちは本当に頑張った。
*
計量会場。
全国高校ダイエット甲子園・関東予選。
巨大ホール。
体重計。
医療スタッフ。
緊張感。
なんなんだこの大会。
「……」
僕は列に並びながら深呼吸した。
周囲を見る。
どの学校も仕上がっていた。
『東北細澤高校』
なんか全員頬がこけてる。表情だけなら細澤になっている。
怖い。
『鹿児島実践学院』
顧問が泣きながらプロテイン配ってる。
地獄だ。
*
「次、織冠高校ー」
呼ばれる。
僕たちは前へ出た。
一人ずつ計量。
ピッ。
ピッ。
数字が記録される。
「……」
誰も喋らない。
関羽先輩なんて祈っていた。
「頼む……!」
どこへ。
全員終了。
集計。
待機。
長い。
長すぎる。
その時。
劉備部長が小声で言った。
「なぁ孔明」
「はい?」
「もし博多行けたら」
「はい」
「ラーメン食おうな」
「絶対太るやつ」
でも。
ちょっと笑ってしまった。
その時だった。
モニター点灯。
ざわっ、と空気が揺れる。
高島政伸が叫ぶ。
「それでは結果発表ぉぉぉ!!!」
会場静止。
「関東予選――」
ドラムロール。
長い。
無駄に長い。
「東京エリア第一位!!」
ゴクリ。
「飯能高校!!!」
うおおおおお!!
拍手。
飯の高校なのに一位!
強かった。そして最初からデブが多かった。飲水疑惑まである。
そして。
残るは一校。
「東京エリア第二位はぁぁぁ!!!」
僕たちは息を止める。
劉備部長。
周瑜先輩。
関羽先輩。
石嶺先輩。
曹操会長。
みんなモニターを見ていた。
「――織冠高校ダイエット・モルック戦略研究部!!!おめでとう!!!」
…………。
「え?」
数秒。
誰も動かなかった。
そして。
「うおおおおおおおお!!!」
爆発。
関羽先輩が泣きながら飛び上がる。
「博多ぁぁぁぁ!!」
劉備小桃が僕へ抱きついてきた。
「孔明ぃぃぃ!!」
「ぐえっ」
周瑜先輩まで笑っていた。
石嶺先輩が拍手している。
そして。
モニターへ数字が表示される。
第一位
飯能高校
減少総重量 17.532kg
第二位
織冠高校ダイエット・モルック戦略研究部
減少総重量 16.435kg
第三位
小手指商業高校
減少総重量 16.430kg
「……え?」
僕は二度見した。
「5グラム差?」
静寂。
そして。
会場がどよめいた。
「マジかよ!!」
「紙一重!!」
「奇跡だろ!」
劉備小桃がこちらを見る。
そして。
苦笑した。
「5gかよ」
その時。
曹操会長が静かに言った。
「関羽」
「はい?」
「昨日、サウナ後に水を一口我慢したな?」
静寂。
全員が関羽先輩を見る。
関羽先輩が固まる。
「……あ」
「まさか」
「5gって」
関羽先輩は震えながら言った。
「俺の……唾液……?」
「スケール小さっ!!」
会場が爆笑に包まれた。
*
夕方。
会場外。
風。
オレンジ色の空。
僕たちはベンチに座っていた。
疲れた。
でも。
嬉しかった。
本当に。
「博多かぁ……」
関羽先輩が呟く。
「ラーメン……」
「まずそこか」
その時。
劉備小桃が静かに言った。
「なぁ」
「?」
「ここまで来れたの、ほんとお前のおかげだな」
僕を見る。
少し照れくさい笑顔。
その瞬間。
また思った。
……女子だ。
最近ほんと危ない。あれからさらに痩せてちょっとスレンダーの部類に入ってきている。
なんか意識してしまう。
「いや、みんな頑張ったからです」
「孔明」
「はい?」
「顔赤いぞ」
「夕日です!!」
「今日まだ外明るいぞ」
周瑜先輩が笑った。
その時。
スマホが震える。
聖マリア学園グループLINE。
『全国大会出場おめでとう!』
その一文。
僕たちは顔を見合わせた。
そして。
笑った。
夏は。
まだ終わらない。




