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第十六話 ダイエット甲子園への1ヵ月

七月。


本格的な夏が始まりかけていた。


教室の窓から入る風はぬるく、

体育の後の男子は全員なんか汗臭い。


そして。


僕は退屈していなかった。



「諸君!!!」


旧校舎第三準備室。


劉備部長がホワイトボードを叩く。


最近テンションがずっと高い。


『ダイエット甲子園』


と大きく書かれていた。


「ついに来たぞ!」


「何がですか」


「全国高校ダイエット甲子園!」


「本当にあったんだ……」


僕は少し引いた。


いや冗談イベントだと思ってた。


だが周瑜先輩がスマホを見せる。


「マジである」


そこには。


『全国高校健康促進選手権』


通称・ダイエット甲子園。


・体脂肪改善率

・持久力

・健康知識

・団体競技


を競うらしい。


なんだその大会。


「しかも!」


劉備部長が叫ぶ。


「優勝校はテレビ出演!」


「急に俗っぽい」


「副賞・高級低糖質和牛セット!」


「めちゃくちゃ欲しい……」


関羽先輩が即反応した。


この人もう食欲隠さなくなってきたな。


しかし。


僕はふと気づいた。


「……あれ?」


「?」


「モルックは?」


静寂。


風が吹く。


誰も喋らない。


「……」


「……」


「……」


周瑜先輩が小さく言った。


「そういや最近やってねぇな」


「モルック部では?」


石嶺先輩が笑いながら言う。


確かに。


黒龍工業戦以降、

なんか燃え尽きた感があった。


いや楽しいんだけど。


でも。


「我々の原点は!」


劉備部長が叫ぶ。


「ダイエットだ!!」


「急に初心に帰った」


その時。


曹操会長が静かに言った。


「だがモルックも捨てるな」


「会長?」


「お前たちを変えたのは、モルックだろう」


沈黙。


確かにそうだった。


モルックがあったから、

運動が続いた。


笑えた。


仲良くなれた。


女子ともLINE交換できた。


「……」


なんか。


青春だった。


その時。


関羽先輩が静かに立ち上がる。


「なら――」


全員が見る。


「両方やればいい」


「脳筋回答来た」


だが。


意外と正しかった。



こうして。


織冠高校ダイエット・モルック戦略研究部(長い)は、


夏に向けて本格始動した。


朝。


ウォーキング。


昼。


低糖質弁当。


放課後。


筋トレ。


モルック。


そして。


健康知識勉強会。


「糖質とは!」


劉備部長が叫ぶ。


「敵です!」


「違います」


「脂質は!」


「敵ではないです」


「では誰が敵なのだ孔明!」


「極端思考です」


最近、

部長の知識がYouTubeショート経由なので危険だった。



夏はすぐ来た。


蝉。


青空。


汗。


校庭。


そして。


「暑っっっ!!」


関羽先輩が地面へ倒れる。


「人類って夏に活動する生き物じゃなくない?」


「毎年言ってますよねそれ」


僕たちは校庭でモルック練習をしていた。


汗だく。


でも。


誰も前みたいにすぐサボらなくなっていた。


それが少し不思議だった。


石嶺先輩がスポドリを配る。


「はい、塩分もちゃんとねー」


「石嶺先輩マジ女神……」


関羽先輩が泣きそうな顔してる。


その時。


周瑜先輩がスマホを見て固まった。


「……は?」


「どうしたんですか」


周瑜先輩はゆっくり顔を上げた。


「ダイエット甲子園予選会場」


嫌な予感。


「聖マリアいる」


「!!!!」


空気が変わる。


関羽先輩が即座に髪を整え始めた。


「急に姿勢良くするな」


さらに。


「黒龍工業もいる」


「うわぁぁぁ!!」


熱い夏が。


本当に始まろうとしていた。

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