第十四話 VS 黒龍工業 軍師として
大会二回戦直前。
昼下がりの芝生。
少し強くなった風。
そして。
妙に静かな僕たち。
「どうしたんですか」
僕が聞く。
周瑜先輩はゆっくり顔を上げた。
「次の相手……」
嫌な間。
「黒龍工業」
その瞬間。
曹操会長が珍しく表情を変えた。
「……マジか」
えっ。
そんなヤバいの?
周瑜先輩がスマホ画面を見せる。
『前回全国大会ベスト8』
「!?」
空気が凍った。
そこには、
黒いユニフォーム姿の男たち。
腕組み。
真顔。
なんかスポーツ雑誌の写真みたいな雰囲気。
怖い。
高校生だよな?モルックだよな?
「全国……ベスト8……」
関羽先輩の顔色が変わる。
「ガチ勢じゃねぇか……」
劉備部長も珍しく黙っていた。
その時。
遠くから見えた。
黒龍工業。
全員デカい。
坊主。
無口。
木製ピンを並べる動作まで様になってる。
なんか圧が違う。
「うわぁ……」
僕まで緊張してきた。
そして。
試合開始。
――最悪だった。
カコン。
「あっ」
劉備部長、ミス。
続く周瑜先輩。
まさかの場外。
「は?」
本人が一番驚いていた。
関羽先輩に至っては、
ブォン!!
「危なぁぁぁ!!」
完全に明後日の方向へ飛んでいった。
終わってる。
僕もダメだった。
指先が震える。
力加減がおかしい。
全然集中できない。
対する黒龍工業。
静か。
正確。
淡々。
まるで機械。
「……っ」
点差が開いていく。
空気が重い。
その時。
ふと。
僕はみんなの顔を見た。
劉備部長。
青ざめてる。
関羽先輩。
呼吸浅い。
周瑜先輩ですら焦っている。
違う。
これ。
僕たち、勝負しようとしすぎてる。
その瞬間。
脳内で何かが繋がった。
「……石嶺先輩!」
僕は叫んだ。
ベンチで応援していた石嶺先輩がこちらを向く。
「えっ?」
「レモンとはちみつ入りダイエットコーラお願いします!」
「えっ今!?」
「今です!」
数分後。
紙コップが配られる。
シュワシュワと炭酸が鳴る。
レモンの香り。
少し甘い匂い。
僕は深呼吸した。
そして。
みんなを見る。
「……みんな」
静かに言う。
「僕たち、何部でしたっけ」
沈黙。
劉備部長が答える。
「……ダイエット部」
「そうです」
僕は笑った。
「別に日本代表目指してるわけじゃない」
「……」
「全国制覇したいわけでもない」
「いやちょっとはしたい」
劉備部長が言った。
「今は黙ってください」
「はい」
珍しく素直だった。
僕は続ける。
「僕たち、最初は痩せるために始めたんですよ」
関羽先輩がコーラを見る。
「……」
「運動を楽しく続けるために」
風が吹く。
芝生が揺れる。
遠くで子供の声。
休日の公園。
「だから」
僕はコップを掲げた。
「勝負っていうより――」
シュワッ。
炭酸が弾ける。
「運動を楽しみましょう」
静寂。
数秒後。
「……ぷっ」
周瑜先輩が吹き出した。
「なんだそれ」
「軍師っぽくないですね」
石嶺先輩も笑う。
劉備部長が空を見上げた。
そして。
「……そうだな!」
立ち上がる。
「我らは蜀漢高校ダイエット部!」
「織冠高校です」
「楽しむぞぉぉぉ!!」
「天下統一」
「蒼天すでに死す!」
それはちょっとちがう…
しかし、その瞬間。
空気が変わった。
本当に。
重かった何かが消えた。
関羽先輩が笑う。
「よし!」
周瑜先輩が肩を回す。
「やるか」
曹操会長が静かに呟く。
「……ようやく戻ったな」
そして。
次の一投。
カコン!!
劉備部長が綺麗に9番を落とす。
「おおっ!!」
歓声。
続く周瑜先輩。
カコン。
正確。
関羽先輩。
ドゴォッ!!
「うるせぇ!!」
でも決まった。
僕も笑っていた。
緊張はまだある。
相手は強い。
でも。
それでも。
楽しかった。
その時だった。
黒龍工業の主将らしき坊主が、小さく笑った。
「……いいな」
「え?」
「お前ら」
坊主は言った。
「モルック、ちゃんと楽しんでる」
その瞬間。
なんだろう。
負けたくないって、心から思った。




