バカップルに進展が…?
私は勇者なっさん。
魔王討伐の冒険の旅もいよいよ佳境。
そんな中、とある変化があった。
「好きだー!!!」
「はーい、ざ〜んね〜ん」
戦士おいっすが盗賊とんずらーの尻を今日も今日とて追いかけ回している。
…極まった突進のスキルをこんなことに使うなよ、と文句をつけたいが、今更だな…
相手を抱き締めようと、逞しい両腕を広げて文字通り猛烈アタックを仕掛けるわけだが。
とんずらーはひらりと軽く身をかわしてしまう。
こっちもこっちで、身かわし脚がスキルレベルカンストしてる上に、素早さがほぼ上限値まで行ってるからなぁ。
いくらおいっすの戦闘力が高くても、とんずらーを捕まえることは事実上ほぼ無理ゲーだろう。
なのに毎日果敢に挑み続ける不屈の闘志は見事だ。
…どーせならもっと別の方面で闘志を見せて欲しいものだけどな。ハァ。
内心で溜息をつきながら、いつものルーチンを傍観していた私。
いつも通りなら、かわされて逃げられてもおいっすはすぐ立ち上がり、再度ラブアタックを仕掛けるはずだった。
ところが、今日に限ってなかなか立ち上がってこようとしない。
突進をかわされた勢い余って地面に膝をついたまま、ずっと俯いている。
どうした?
とんずらーも不審に思ったようだ。
逃げていた先から引き返してきて、orzのポーズになっているおいっすにおずおずと声を掛けていた。
「なんだよ、追いかけてこねーのかよ?」
「………また、逃げられた…」
「そりゃそーだろー?大盗賊のメンツにかけてやすやすと捕まってたまるかっつの」
「もうすぐ冒険の旅も終わる……俺は、結局おまえを射止めることはできなかった……」
「なにそれ。諦めんの?」
「………」
「ダサ」
「…なんとでも言ってくれ。だが、できれば覚えていて欲しい。叶わぬ恋に血道を上げた哀れな男がいたことを…」
「もー………しょーがねえなー」
お?
とんずらーがさらにおいっすに近寄って…?
「ほら。捕まってやるよ」
「…えっ!?」
「勘違いするなよ。俺が本気だったらいくらでも逃げられるんだからな」
「それはもちろん分かっているが………では、何故!?」
「俺の心が………それを望んだから」
「………!!!」
「おまえになら捕まってもいいよ。いや、今すぐここで捕まえてくれ」
「…ああっ!!!」
ガバッとばかりに立ち上がり、その大きな体躯で包み込むようにとんずらーを抱き締めたおいっす。
いかつい顔に喜色を灯して、感無量といった様子だった。
とんずらーも彼の両腕の中で幸せそうに微笑んでおり……
…私は何を見せられているのだ、とは言わん。
勇者そっちのけで何してやがんだとか魔王討伐も果たしてないのに達成感を醸し出すなとか言いたいことはそれこそ無限にあったがな。
私は勇者。人の幸せを肯定する。
ふっ……ここに居てはお邪魔虫だな。空気の読める勇者はクールに去るぜ。
と、熱く包容し合う二人に背を向けて、ちょっとそのへんで時間を潰してこようとその場を離れていった。
ところが、
「…ギャー!!いだだだだだだだだだっ!!???」
「あああっ!?すまん!?」
なんだどうした!?
あたりをを劈くいきなりの大絶叫に、急いで取って返す私。
戻ってきてみれば、地面に崩れ落ちてピクピクしているとんずらーと、その傍でひたすらオロオロしているおいっすの姿が。
…マジでどーした!?
「お、俺は優しくギュッと抱き締めたつもりだったんだが…!」
「……全身の骨という骨が砕け散る音を聞いた…!」
ああー…
戦士おいっすは力のパラメーターが限界突破してるもんな…
とんずらーは素早さこそ高いものの、力や防御はそんなでもないし…
レベルが上がって、職業ごとのステータス割り振りの差がより極端になっていたからこそ、こんな悲劇が起こったのだろう。
一度上がったものを下げることはできない。
おいっすのパワーを弱めるのは無理だ。
二人が真に結ばれるには、とんずらーがもっとフィジカル鍛える必要があるってことだな。
「まさか強くなったことが裏目に出るとは!?抱き合うこともできないなんて!?」
「ううっ……俺、頑張って筋トレする…!」
「すまない、俺のために…!」
「バカ、俺たち二人のためだろ…?」
うーん、いい話だなあ。
互いを想い合って、幸せになるために努力する姿勢は素晴らしい。
…じゃないよ!
せっかく引き返してきた私だけどそっちのけにされて、なんか二人でピンク色の世界を作ってる。
疎外感がハンパないわ。
あと、これ一応魔王討伐の旅だからな?
本来の目的がないがしろにされすぎててそろそろ心配になるレベル。
…だが。
ふう。
しょうがない。
私は勇者。人の幸せを肯定するし、応援する。
それが旅の苦楽を共にしてきた仲間であれば、なおのこと。
私は盛り上がってる二人にそっと近寄り、崩れ落ちているとんずらーの肩に優しくポンと手を置いた。
…二人して、あれっいたの?みたいな顔で振り向いてくるのやめてくれませんかね。
こほんっ。
まあいい。
とんずらーよ、これを使うがいい。
「こ、これはっ…!」
「まもりの種!!」
あと防御力が爆上がりするアクセサリー系の装備品もおまえに譲ろう。
正直、身かわし脚で敵からの攻撃を回避できるとんずらーより、私自身で使いたかったが…
仲間の幸せには代えられん。
「ありがとう勇者!あんたマジ勇者だぜ!」
「これで………できる!!」
こんな時ばっかり持ち上げて礼を言うな。
おいっすよ。その欲望は私の前では仕舞っておいてくれ。できるって何がだ、とツッコみたくなるだろ。
大体想像がつくから聞かないけどな。
…本当に聞かないよ。というか聞きたくない!
二人して色ボケてからに!
魔王討伐もちゃんと最後まで付き合ってくれよな!?
それから魔王城の手前の、最後の町に辿り着いた私たち勇者一行。
最後の宿代は安く済んだ。
宿の人がまけてくれたとかじゃない。
いつもは一人一部屋取ってるんだけど、今回はあっちの二人が相部屋でいいって言うから…
二部屋分だけの料金で済んだ。
懐は痛まなかったが、頭が痛い。
私、隣部屋だからさ。
なんか壁一枚を隔てた向こうからの物音が一晩中気になってあんまり寝られなかった。
…ずっと追いかけっこしてたもんな。
そりゃ一刻も早く本懐を遂げたいのかもしれないが、あともう少し自重して欲しかったなぁ…!
明日から魔王城に乗り込むんだよ!?大丈夫!?
翌朝。
やけにツヤツヤした様子の二人と、少々ゲッソリした私は宿をチェックアウトした。
私、普通に一人部屋に泊まってただけなのに、
「いやあ昨夜はお楽しみでしたねっ!」
…妙ににこやかな宿の人に、パーティリーダーだからってそんなこと言われた。
ははは…
勇者って辛いなぁちくしょう!?
とっとと魔王を倒して、こんな勇者家業からはおさらばするぞ!




