最終決戦なのにピンチです
決戦の時が来た。
…何事かって思うかもだが、本当なんだよ。
私、勇者なっさんが最後の戦いを挑むべく、魔王城へと乗り込んでいるのだ。
これを決戦と言わずしてなんという!
長かった冒険の旅の終着点。
戦いの日々も、これで終わりだ。
必ず勝利をこの手に収め、故郷へと凱旋するぞ!
と、意気込んだはいいものの…
「うっ…!」
どうした盗賊とんずらー!?
さっきから城内のモンスターにボコられっぱなしじゃないか!?
いつもの身かわし脚はどうした!?
素早さと器用さを活かして華麗に回避し、敵から一撃も浴びせられることなく戦うのがおまえのスタイルだったのに!
今日はまるで動きに精彩がない。
普段ボコられ慣れてないから、ダメージへの耐性も低くて。
晴れて恋仲となった戦士おいっすの肩を借りてやっとで立っている有り様だ。
「悪い…勇者。実は俺…」
なんだ!?
何か問題があるなら早く言ってくれ!
ずっと共に冒険の旅をしてきた仲間じゃないか!
今更何を遠慮することがあろう!?
「………めっちゃ腰が痛くて」
………。
………うん?
ごめん、よく聞き取れなかった。
なんだって?
「昨夜、ちょっと………燃え上がりすぎちゃった」
おいっすの方をチラ見して、目と目を交わし合って頬をポッと染めている。
オイこら。
「熱い一夜だった。夢のようなひとときだった…!」
うるさいおいっす。聞いてない。
「実は、俺も…」
だから聞いてないって…!
…いや待て!?
俺も、ってなんだ!?
「昨夜、全精力を出し尽くしてしまった。あまり寝てもいないので、回復もしておらず…」
ああ、うん。
そういやおまえもさっきから苦戦しっぱなしだもんな。
いくら魔王城のモンスターがレベル高くて強いからって、いつものおまえなら余裕で勝てるだろうにらしくない。
おかしいなー?とは思ってたんだ私も。
ははは…
そうか、そうかー。
…おまえらマジでいい加減にしろよ!?
そこに直れ!
魔王との最終決戦をなんと心得る!?
「いやー、うっかりだったぜ。めんごめんごー」
「悪かったとは思うが、もう過ぎてしまったことは仕方がない。これからのことを考えよう」
こいつら…!
全然悪びれもしていない!
また私をよそに二人で見つめ合って色ボケムーブかましてるし!
…ダメだ!
このままでは色ボケのとばっちりで私まで巻き添えにパーティ全滅してしまう!?
一旦引いて出直すべきか…!
と思って進んできた回廊を振り返ってみたのだが。
通路がなくなって空間が歪んでる!?
なんで!?
「あ、そーいや町の人たちが噂してたっけ。魔王城に一度足を踏み入れたら魔王を倒すまでもう外には出られないとかなんとか」
おいいいいいいッ!!?
そんな重要な情報を何故今まで共有しなかった!?
「悪い……俺、他のことに夢中で…」
「大丈夫だ、おまえは悪くない…」
悪いよ!?
やっと恋人になれたからってとんずらーを甘やかすなおいっす!
くっ…!
しかし事ここに至っては、こいつらに文句を言ってもしょうがない…!
このまま、魔王のところまで行くぞ!
「あ、俺たち逆に足を引っ張りそうだから、魔王との戦いは勇者に任せるぜ」
「おまえならきっと一人でも魔王に勝てる。俺たちはそう信じているぞ」
それしかないよなぁチクショウ!?
…なんとか魔王のところまで辿り着いた。
最上階の玉座の間、か?
故郷の王城とも似たような造りだが、漂う雰囲気が明らかに異なる。
なんという禍々しき気配…!
最奥の深淵。
闇のわだかまりとでも言うべき漆黒の中心に、そいつは悠然と待ち構えていた。
「くっくっく…よくぞここまで来たな。勇者とその一味よ」
一見して、普通の人にも見える。
長身痩躯、整った容貌の美青年と。
だが、勇者である私には分かる。
貴様が魔王だな!
「いかにも。勇者などすぐにも返り討ちにしてくれようと思っていたが……足手まといのお荷物を抱えてここまで辿り着いた、その手腕は惜しい」
本当にな!
魔王にまで言われちゃったよ!
戦士おいっすも盗賊とんずらーも途中でとうとう体力魔力が尽きてただのお荷物になりやがって!
仲間を死なせるわけにもいかないから私が最低限の回復魔法をかけて、一緒にここまで連れて来たけどさぁ!?
おかげで私の魔力もかなりピンチだぞまったく!
とんずらーの防御力を上げておいたのがここに来て功を奏したけどな。元のペラッペラの防御力だったらマジでやばかった。
そして今は、玉座の間の隅っこの方で二人して手に手に小さな旗とか打ち振って、「頑張れー」なんてほざいてる。
本当に魔王を私一人に押し付ける気だ…!
あいつらー!?
「どうだ、勇者よ。我と手を組まぬか?」
っと、頼りにならん仲間を睨みつけてる場合じゃなかった。
魔王に集中!
…なんだって?
「もし我の味方になれば、世界の半分をそなたにやろう。どうだ?」
どうだ、と言われてもな。
フッ…
見縊るなよ、魔王!
そこで「はい」とか答えてしまったらバッドエンドまっしぐら!
魔王と手を組めるわけがないだろうが!
私は勇者として断固!魔王と戦う!!
「おー!さっすが勇者。かっくいー」
「俺たちも及ばずながらここで応援しているぞ!」
うっさいバカップル!
外野は黙ってろ!
私は油断なく勇者の剣を正眼に構え、魔王を見据えた。
本性を現した魔王が今にも襲いかかってくるのだと思ったのだ。
しかし、
「…えっ?…ダメ?…じゃあ、世界の三分の二くらいではどうだ?」
魔王、何故かめっちゃキョドってる。
焦った様子で玉座から腰を上げて私のところまで二三歩歩み寄ってきて、なんか譲歩するようなことを…?
うん…?
よく分からないが、どっちにしろお断りだ。
半分だろうと三分の二だろうと、魔王なんかと手を組めるか。
「では四分の三!四分の三ではどうだ!?」
また譲歩した!?
だから、ダメだって…
「ええい、この欲張りのいやしんぼさんめ!ならば五分の四だ!これならば文句はあるまい!」
あ…あのなあ魔王!?
何割だったらいいって問題じゃないんだよ。
世界を支配して分け合おうとかって時点でアウト寄りのアウトだ。
貴様が魔王である限り、勇者として私は戦う!
「うぐぐぐぐっ!?…なんと頑迷な…!!」
ほら、分かったらふざけてないで。
とっとと始めようよ最終決戦。
「…だが、そこがいい!」
ん??
なんか、デジャブを感じるセリフ?
「それがそなたの望みというなら、我は魔王をやめる!」
な、なんだってー!?
「好きだ!惚れた!我のものになってくれ!」
ギャー!?
微妙に頬を染めた魔王(?)が一瞬で間合いを詰めて、私の手を取って…!?
え!?ナニコレ!?
私に何が起こっているの!?
「そなたが我がものとなってくれるのであれば、世界など要らぬ!我は、そなたさえいればいい!」
「おおー、魔王情熱的ー」
「分かる」
オイ外野!?
無責任に囃し立てるな!
ってゆーか、助けてくれ!
魔王に間近に迫られてて怖い!
命の危険はないと分かってるけど別の意味で超怖い!
敵意のない相手を攻撃なんてできないし…!
「勇者ってそーいうとこ難儀だよなー」
「この際、受け入れてやってはどうか?…俺には魔王の気持ちが分かる」
「おおっ、分かってくれるか!ちょこざいな人間の戦士よ!」
「ああ、ひと目見た時から惹かれてどうしょうもないということは、あるものだ…」
「だよな!貴様、話が分かるではないか!」
コラー!?
なに魔王と意気投合してるんだ、戦士おいっす!?
盗賊とんずらーもなんとか言ってやれよ!おまえのパートナーだろ!?
「…ちょ、やめろよ。照れるだろー?」
「ふっ、可愛い奴…」
…ダメだー!?
あいつ顔真っ赤にしてグニャグニャだ!?
おいっすのラブアタックから逃げ回っていた時はかなりドライな塩対応だったくせに!?
一旦くっついたらデレッデレではないか!
恋愛脳の腑抜けに成り下がってる!?
「ほら、そなたの仲間も同意してくれているぞ!」
ああああ魔王が!
魔王が私にさらにズズイッと迫って…!
「我のものとなれ、勇者よ!」
か…
「か?」
考えさせてくれーッ!!?
そんな急にグイグイこられたって困る!
簡単に返事できるもんか!
「チッ………分かった」
舌打ち!?
「では、我もそなたのパーティに加入して共に参ろう。旅の苦楽を共にしながら口説き落としてくれるわ」
えっ、なんで!?
経緯はともあれ、おまえはもう魔王をやめるんだろ!?
これで世界には平和が訪れるんじゃ…
「我の上司…いや元上司になー。大魔王がいるのだ」
なにぃぃぃぃぃッ!?
「大魔王がいる限り世界に平和は訪れん。勇者の冒険もまだまだこれからってところだな」
そ、そんな…
「なに、我が仲間となったからには千人力万人力よ。だからそなたは安心して早く我に身を委ねるがいい」
「元魔王さんが仲間かー。んじゃま、よろしくな?」
「確かにこれ以上はないという大戦力だな」
早くも打ち解けだしたバカップルと元魔王の会話を聞きながら。
私は意識が遠のきかけていた。
これでやっと、勇者から解放されると思ったのに…!
元魔王からは言い寄られてるし、私は一体どうなっちゃうの!?
冒険の旅は、終わらないっ!?




