第97話
そして6日後。
2日目からの屋内実戦演習は熾烈であった。
ペイント弾とはいえ、もろに当たればずどんとくる。
閃光爆弾に目をやられた所に、何発も食らった時は、膝をついて動けなくなってしまった。
カオルがカーテンを巻きながら窓ガラスを割って飛び出、慌てて窓から飛び出たら、もう2階の窓から飛び込んでいる。
始まった瞬間に、巻いてあるロープがぱらりと落ちてしまってしまった時は、驚きを超えて呆れてしまった。
軍人達の連携も見事で、居ると気付けばドアが開き、ごろりと閃光爆弾が転がってくる。危ないと窓を飛び出たら、窓の外に待ち構えて居たりする。
機密書類を手に取った瞬間、爆弾がどかん! などという事もあった・・・
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「よおしクソ虫共! ウォーミングアップは終わったぞ! 少しはまともな顔になってきた! 結局、我に感心の声を上げさせる者は出なんだ! がっかりした! もううんざりだ! 殺戮の司祭まではまだまだ遠いが、そろそろハイハイの練習を始めてさっさと終わらせる!」
ぱしん、ぱしん、とイザベルが鞭を手に当てながら歩く。
「明朝よりこの訓練の仕上げに入る! 仕上げに2週間だ! 覚悟しろ! 最悪の2週間になる! この訓練に参加したことを後悔させてやる! 生まれた事を後悔させてやる! だが! しかし! この2週間を乗り越え! ハイハイが出来るようになった時!」
イザベルが足を止め、陸軍兵の頬に、ぺち、ぺち、と鞭を当てる。
「殺戮の神に1歩近付く・・・シャワーの代わりに血を浴び・・・ステーキの代わりに心臓を喰らう・・・地上で最悪の殺戮の神に近付くのだ! 味方にも恐れられ! 上官が扱いに困ってストレスで胃に穴を開けるほどの最強の兵に! だが!」
ざ! ざ! ざ! とイザベルが離れて、全員の顔を見回す。
「生きた殺戮兵器になれるのは選ばれし1人だ! それ以外はゴミだ! クソに紛れ込んだメロンの種以下だ! これまでの訓練を全て無駄にして終わる! 軍人共!」
「「「はい! 教官!」」」
「誰でも良い! 選ばれし1人になってみろ! 米衆軍に無距離戦闘術を広めてみろ! やってみせろ! 出来るな!」
「「「はい! 教官!」」」
「明朝0600! 訓練区域F入口前に集合!」
「「「はい! 教官!」」」
「解散!」
「「「ありがとうございました! 教官!」」」
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マサヒデとアルマダは宿舎に戻り、ロビーの壁に貼ってある基地地図を眺めていた。
「訓練区域Fって、ここ」
「『区域』、ね・・・山ですか」
「うん・・・次の訓練メニュー、大体分かりました。選ばれし1人って、ねえ」
「ええ。そういう事でしょうね」
「そういう事だろうな」
腕を組んだ陸軍兵が後ろに立つ。
「アーメイ一等陸尉」
「単に生き残れって話じゃないぞ。途中まで組んで行こうってのもありだ。だが、仲間はどこで裏切るかな」
「・・・」
「選ばれし1人。合格者は最後まで生き残った1名だ」
アルマダが眉を寄せる。
「殺し合いですか」
「そうだ。だが、単純すぎるな。まあ、装備は限定されるか、素っ裸で山に入れ、かな。食い物は現地調達。ここまでは予想出来るが・・・当然、別に何かある。一筋縄ではいかん、何かを条件に加えられる。それが何かで、難易度が跳ね上がる。俺の予想では、ううむ・・・恐らく、だが・・・」
「何らかの条件ですか」
「イザベル様が追い手になるか・・・だが、イザベル様では、君達には敵わん。君達が素手でも、フル装備のイザベル様には勝てると見た。それはイザベル様も承知だろう」
アルマダが少し考え、
「となると、どこかの部隊を借りてくる、とか」
「簡単に思い付くのはそうだが・・・君達は、トミヤス道場では、山でも稽古はしていたのか」
「はい」
「ふうむ・・・何が加えられるかな。どういうメニューになるかな・・・だが、私は、別の所に疑問が残る」
「というと」
「この訓練メニューは、無距離戦闘術に繋がるか、それとも、ただエイデン大佐やクレンナ中尉に加えてくれ、と言われたものなのか、だ」
マサヒデがにやりと笑って腕を組む。
「勿論。目に見えるように繋がってます」
「目に見えるように?」
「もしイザベルさんが追い手になるなら、ですけどね。追いかけてくる。やり合うんですよ。直に見る機会があるって事です」
あっ、とアーメイ一等陸尉が目を見開いた。
「む! 確かにそうだ。そうだな」
「私の技術を見たければ、捌いてみろ。そうなりますね。イザベルさん、戦闘技術は教えたくないなあ、なんて言ってましたが・・・ああ見えて優しいし、甘い所があるから、多分来ますよ」
「追い手になるか」
「でしょうね。でも、厳しいですよ。闘技場での試合、見てました?」
「いや」
「ええと・・・アルマダさん、相手、どこの人って言ってましたっけ? ラ、るん?」
「レンジャー」
「そうそう。そのレンジャーの人から選抜された人だったんですが、10秒くらい睨み合いした後、1発で終わりました。多分、あの人、何されたか分からなかったと思います。気付いたら医務室のベッド上って感じでしょう」
「ふむ。レンジャーの選抜がなあ」
「Dじゃあないのか、がっかりした、みたいな事を言ってましたね」
おや? とアルマダがマサヒデを見る。
「Dというのは覚えていましたか」
「何とか何とかって凄い長い名前でしたからね」
ううむ、とアーメイ一等陸尉が唸る。
「Dではないのか、がっかり、か・・・」
「イザベルさん、ただ狼族ってだけではなく、確かな技術はありますからね。ちゃんと使えてないってだけで」
このトミヤスという若者は、Dではないと不満を垂らし、レンジャーの選抜を1撃で倒す程の腕を、ちゃんと使えていないと言うのか。
「軍隊って、私達みたいに、何年も何年もひたすら稽古してってわけじゃあないですから・・・イザベルさんも、年齢は聞いた事ないですけど、かなり若いでしょう。人族にしたら、私と同じ・・・は、ないか。2歳3歳年上なくらいでは? 技術の伸びは凄く遅いはずです。それで、あの技術を身に着ける事が出来たわけです」
「むう・・・」
「軍で訓練してたのが何年か知りませんが、同じ人族で換算したら、少なくとも、私やアルマダさん程の稽古時間は全然なかったはずです」
「ふむ」
「確かにな」
「凄いですよ。あの戦闘技術。何よりも、常在戦場っていう身の置き方が、私達、武術家とはちょっと違う」
アルマダが眉を寄せる。
「どう違うんです」
「自ら動けないような体調を作って、それを日常とし、それで動けるようにって作った技術です。体調は常に万全に、危険からは素直に離れましょう、逃げをうつのも兵法です、そういうのじゃないんですよ。危険から逃げない。かと言って、それは無謀かと言うと、そうじゃない。何人もいる部隊同士とかだと、しっかり逃げるでしょう。でも、個人の格が違う。逃げる、襲う、逃げる、襲うが延々と繰り返される。こっちは疲弊してうんざりしてるのに、向こうはいつまで経っても元気一杯」
「ううむ」
「2週間もあるんです。10日も何も持たされず、放り出されていたら、動けますかね。山の訓練はしてますが。アルマダさん、イザベルさんが襲いかかって来る時、私達、まともに立ち会えるかどうか、分かりませんよ」
「ううむ」
アーメイ一等陸尉が頷く。
「そうだな。サバイバル訓練は、どこまで自分の体調をキープ出来るかが大事だ。いざ敵がと言う時、まともに動けないと終わりだ。時には隠れてやり過ごすというのもある。あるが・・・」
ち、とアーメイ一等陸尉が小さく舌打ち。
「イザベル様は狼族だ。で、私達は何日も山の中。隠れて気配など消しても無駄だ。あの鼻と耳と勘からは絶対に逃げられん。戦うしかない。イザベル様だけではない。私達同士も生き残りをかけてやり合う」
「厳しいですね」
「何日も付かず離れずついてこられ、プレッシャーをかけられ、こちらは隙を見せる事が出来ない。まともに食料調達なんかも出来ない。寝られない。そして、弱りに弱った所で・・・終わりだ」
「ううむ・・・」
「だが、何とかするしかないな。せっかく戦闘技術を見せてくれたが、何をされたか分からぬうちにノックダウンは御免だ。幸い、あの山は私達陸軍の訓練場。知り尽くしている。私の数少ないアドバンテージのひとつだな」
「2週間か。厳しいですね」
「ああ。これは厳しいぞ・・・」
それきり、3人は言葉なく、訓練区域Fの地図を睨む。




