表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9話


 夕刻になったが、まだロストエンジェル市を抜けられない。町が大きすぎるのだ。


(くそ、まだ先か)


 マサヒデがじりじりしながら馬を進める。早く出たいが、町中で馬を飛ばしては捕まってしまう・・・馬にも伝わっているのか、今にも駆け出しそうな気配だ。

 カオルが察したのか、マサヒデの後ろから馬を並べてきて、


「この速さなら、あと1刻(2時間)程です」


「ううむ」


「ご主人様、大丈夫です。この町は夜も明るいですから」


「いや、カオルさん、それって逆に危険なのでは」


「・・・」


「気を付けましょう。あの明るさ、ぼんやりした明るさ。屋根の上。細い路地の暗闇。全く見えませんよ。まだ町の外の暗闇の方が良い」


「は・・・」


「急ぎましょう」


「は!」



----------



 マサヒデ達が真剣な顔で馬を進めている時、馬車の中では―――


 ごりごりごり・・・


「あっ! シズクさん! 何か食べてますね!」


「うん」


 ごりごりごり・・・


「摘み食いはいけませんよ!」


 シズクが手を止め、


「いや、これは誰も食べないと思うな。絶対」


 ばき! と大きなパンの塊をシズクが指で折り、クレールに差し出して、


「ほら、クレール様も食べてみなよ」


「むん!」


 ぱし! と奪うように受け取り、口に運んだが・・・


「え、う、うむむ」


 ぎ! ぎ! と歯を立てるが、食い込みもしない。削れた表面は味もほとんどしない。見た目はパンだが、茶色っぽく、小麦ではない。これは一体なんだ!?


「ういぎぎぎ・・・」


 尖った所をばり、ばり、と小さく砕き、何とか口に入れる。


「ばあー・・・」


 ぱりぱりに口の中が乾く。これは酷い・・・

 シズクが手を出して、


「ほら。これ舐めて、唾出して。舐めるんだよ。口に入れちゃ駄目だよ」


 クレールが手を出すと、ころりと氷砂糖が落とされた。


「らい」


 ぺろぺろぺろ・・・

 口の湿り気がまだまだ足りない。

 魔術を使い、ぽ、と水球を出して、口を尖らせて、ずーっと啜る。


「ぶへー・・・何ですかこれは!?」


「乾パン」


「食べられた物ではありません! 本当に食べ物なんですか!?」


 シズクがにやにや笑い、


「そうだよ。固いでしょー。服のボタンが取れちゃったら、これを使うんだぞ」


「ええっ!?」


「凄い食べ物でしょ? ボタン代わりになるんだ! 便利だよねー。あははは!」


「ええー・・・」


 ぐいぐい。割れない。

 隣のラディが手を出して、


「クレール様、私にも味見をさせてもらえませんか」


「うえー! するんですか!?」


「試しに」


「じゃあ、どうぞ」


 ラディが受け取って、しげしげと眺め、ぐいぐいと手で曲げてみるが、曲がりもしない。まるで板。


「ううん、見た目はパンですが、これは固いです」


 かり。かり・・・


「げふっ!?」


 粉っぽさで口が一瞬で乾き、喉に粉が張り付いて、思い切りむせる。


「ごほっ、ごほっ」


 クレールが水球を出すと、目に涙を浮かべながら、ラディが口を突っ込む。


「はー・・・助かりました」


 クレールが顔をしかめて、


「シズクさん、これ、どうやって食べるんですか?」


「私はかじれるからそのまま食べちゃう。騎士さん達に聞いてみたら?」


 まじまじと乾パンを見つめて、首を傾げる。

 しばらく考えて、ぽん、と手を叩き、


「ああ! こうすれば」


 乾パンを水球に突っ込む。


「わあっ!?」「ああっ!」


 クレールとラディが驚いて目を丸くする。

 ぶぶぶ、と細かな泡がわき、凄い勢いで水が吸われていく!


「わあ! 凄いですよこれ!」


 取り出してみると、しんなりして、水の重さがある。ぱくり・・・ごくん。


「ううん・・・ねちゃねちゃしますけど、食べられますね。スープに浸けたら・・・ううん? でも、このパン自体が美味しくないですし・・・どうでしょうか」


 眼鏡を拭いていたラディがはっとして、


「あっ! クレール様、良い事を思い付きました。ちょっと立っていただけますか」


 声を上げ、クレールが立ち上がると、座っていた長椅子の蓋を開ける。

 中には湿気対策に炒った米を入れてあるのだが、それを指差し、


「これです。この代わりになりませんでしょうか。雨など降った後は湿気もこもります。ここに足したら良いかも」


「おおー! ラディさん、それは良さそうですよ!」


「物凄い勢いで水を吸っていました。きっと使えます」


 シズクが喜ぶ2人を見ながら苦笑して、また「ごり!」と乾パンを齧る。



----------



 夜も更けて、やっと町を離れられた。既に子の刻(0時)は過ぎている。

 マサヒデは後ろを振り返り、


「もう少し離れた方が良いでしょうか」


 アルマダが首を傾げ、


「いや、そろそろ良いでしょう。これ以上は明日に差し支えますよ」


「そうですね」


 マサヒデが馬を止めると、馬車も止まり、カオルとイザベルが寄ってきた。


「ここらで街道を外れて野営しましょう。もう少し離れたいですが、明日に差し支えます。1日、馬を進めるのですから」


 カオルが頷き、


「私達はともかく、クレール様とラディさんが持ちません。良いご判断かと」


 マサヒデが頷いて、馬車のトモヤに向き、


「よし。街道を外れろ。野営だ」


 野営と聞いて、がっくりとトモヤが肩を落とし、


「やっとかあ! ああ、疲れた! 疲れたのう!」


「早くしろ」


「おおう」


 がらがらと馬車が街道を外れ、闇の中に消えていく。

 マサヒデは周りを見渡し、


「これは参りましたね。見える明かりはロストエンジェルの町の明かりと、私達の松明だけだ。ここに居ますよって教えているようなものです」


 アルマダも渋い顔で頷く。


「ええ・・・クレール様に、壁を作って囲って頂きましょうか。弓鉄砲で狙い放題です」


「それが良いでしょうね。ふう。米衆連合って大変ですね」


「全くですよ・・・勇者祭も、野盗、山賊も来放題です。明かりに蛾が寄ってくるようなものでしょう。まだ町が見える範囲ですから、大丈夫でしょうが。と、思いたいですがね」


「あと、意外と夜は寒いですね」


 マサヒデは途中で鞍袋から引っ張り出した蓑を着て、上に薄っぺらい皮のローブも被っている。アルマダは全身鎧を着ているので、意外と平気そうだ。


「ええ。雪こそ降っていませが、気温は低そうです。火がないと・・・」


 イザベルが近付いて来て、鼻を鳴らし、


「マサヒデ様、ハワード様、動物もおります。それほど危険な物はおりませんが、虫がおります。さそりか蛇か、毒らしき臭いがぷんぷんと。この寒さでは動きはしないでしょうが、火の周りにおると動き出すやもしれませぬ」


「ううむ、米衆は野営も大変ですね・・・」


 はあ、と3人が溜め息をつく。

 これから毎日、こんな野営が続くのだ。

 マサヒデがゆっくり馬を進め出すと、皆もとぼとぼと後について来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ