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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第85話


「私が教えて頂いたのは、ええと・・・教官さん、失礼します」


「む」


「お相手役を。そこで立って頂いておられれば」


「うむ」


 たっぷりと射撃訓練をした後、何か教えてもらっていないか、と射撃訓練の教官に願われたラディは、新兵達の前で、イザベルに教えてもらった拳銃の撃ち方を披露することになったのである。


「ええと・・・実際に、乱戦とかになりますと、中々鉄砲などは使えず。室内とかですと、跳弾が味方にも当たってしまうかもしれませんし」


「ふむ」


 てくてくとラディが教官の前に立つ。

 距離は2間(3m半)程。


「実際、このくらい」


「待て」


 教官が横に向き、新兵達に見えるよう、ラディも横に。


「全員集合! どうやら貴重な話が聞けそうだぞ!」


「「「イエッサ!」」」


 大きな返事を上げ、新兵達がぞろぞろと集まってくる。


「良いか! これは屋内戦闘や急に鉢合わせた際など、色々と使える技術だ! 汚い耳をかっぽじって、よく聞いておけ!」


「「「イエッサ!」」」


「これはファッテンベルク様直伝のお教えだ! 全員、心して聞くように!」


「「「イエッサ!」」」


 教官は真剣な顔の新兵達を見て、む、と頷き、緊張した顔のラディを見る。


「ラディスラヴァが言うに、拳銃を使うのはこの距離だそうだ! 剣やカタナの距離と変わらんぞ! これは一体どういう事だ!? よし、ラディスラヴァ。続けろ」


「は、はい。え、ええと、それで、構え方ですけど」


 ラディは自分の拳銃から弾薬を抜き、ポケットに入れて、シリンダーを見せ、弾が入っていない事を教官にも見せた後、両手で持って向ける。


「こういう構えではいけないと、注意されました」


「何故だ」


「ええと、あの教官、持って、私に向けて下さい」


「うむ」


 教官がラディの拳銃を受け取り、両手で持って前に出して構える。


「これは基本中の基本の構えだが、何故これがいけない」


「あ、あの、失礼します!」


 すぱん! とラディが教官の手の拳銃を左右からはたく。

 これも随分と練習させられた。


「む・・・」


「おおー・・・」


 ぱちぱち、と数人の新兵から、感心の声と拍手が上がった。

 はたかれた拳銃は、教官の手から飛んで、ごとん、と落ちてしまったのだ。


「むう、見事だ。分かったか! 近間では、しっかり構えて狙いをつけて、などやっておれんのだ!」


 教官が言いながら、落とされた拳銃を拾って、ラディの手に乗せる。


「本題はここからだな。では、どうするのだ」


「こうします」


 ラディは半身になって、左手を前に出し、右手だけで、腹にぴたりとつける。


「ふむ。変わった構えだな」


「拳銃が、お腹についていますから、横から叩かれません」


「なるほど。しかし、お前のような素人が、片手では上手く狙いは定められまい。顔の前にない。これでは、照門も覗けない。しかも敵は目の前。どうするのだ」


「適当です」


「適当とは」


「ええと、下腹辺りに向けたら、何も考えず3回引き金を引け、と」


「ほう! きちんと狙わずとも良い!」


「はい。下に向いています。撃つと、こう跳ね上がります」


 がちん、と空の銃の引き金を引く。

 ひょい、とラディが銃口をみぞおちに向ける。


「もう一度引くと、また跳ね上がって」


 がちん。

 次は頭に銃口が向けられる。


「こうなります。下腹に向けたら3回引く。何処かには当たります。近いので、鎧を着ている人でも、がつんときます」


「なるほど・・・ふむ。で。この左手は?」


 ぐ、と教官が前に伸ばされた左手の手首を取る。


「相手に向けて伸ばしておいては、こうして簡単に取られてしまうぞ」


「右手だけ動けば、銃口は相手に向けられますから、左手は取られてしまっても、何かされたりする前に・・・あ、あ! そう! もうひとつあります!」


「なんだ」


「一度、手を放して頂いて」


 ぱ、と教官が手を放し、ラディが手を下げる。


「ええと、これは人の本能というか、神経の反射です。ぱっと手の平を向けられると、誰でも、ほんの一瞬、止まってしまうので」


「ふむ!」


「ですので、最初の1発目を撃つ為の、一瞬を稼ぐ為で」


 ぱ! とラディが左手を教官の顔に向け、


「こう、目の前の相手に、左の手の平を、ぱっと向ける」


「むう! 研究されている・・・」


 教官が唸り、顎に手を当てる。


「で、あと、何処かには当たると言いましたけど、最悪、当たらなくても良いです。勿論、当たれば一番良いんですけど」


「当たらずとも良い! 聞いたか! 当たらずとも良いそうだ! こんな近い所で外したら終わりではないのか!? ラディスラヴァ、それは何故だ」


「ええと、こんなに近い所で、何回も撃たれたら・・・その、絶対に、驚きます。隙は十分に作れます。ですので、撃ったら、すぐ離れるか、逃げます」


「ふうむ! 確かに! 離れて、相手が慌てている間に、狙いを定めて・・・と、いう事も出来る。素晴らしい。相手の心理状態も奪ってしまうわけだ」


「は、はい」


「・・・なるほど。ふむ・・・」


 教官は何か思う所でもあるのか、しばし黙り込んだが、新兵達に顔を向けた。


「全員、聞いていたな!」


「「「イエッサ!」」」


「これは貴重な話である! 覚えておけ! これが鍛え抜かれた魔王軍のエリート、ファッテンベルク様のお教えだ! うむ、ラディスラヴァ、感謝する」


「い、いえ。あの、ご参考になりましたでしょうか」


「うむ、十分だ」


 ぱんぱん! と教官が手を叩く。


「よし! 貴様ら! 貴重な休み時間を奪ったが、それ以上に良い話が聞けたぞ! 今の話、貴様ら全員の10年分の休み時間と天秤にかけても、釣り合う話だった! しっかり覚えておけ! 解散!」


 ぺこりとラディが頭を下げると、教官はその頭に手を置き、


「次にこの射撃場に来る時は、VIP待遇にするぞ。疲れたろう。もう帰って休め。ミナミ新型は頑丈だが、今日は使い込んだ。きっちりメンテナンスはしておけ」


「はい」


 くるりと教官は振り返り、顎に手を当てて、ぶつぶつ言いながら出て行った。

 ラディも射撃をしていた10番の机に戻り、転がった薬莢を箱に片付けていると、新兵が歩いて来て、


「ホルニコヴァさん」


「あ、はい。何でしょうか」


「他にも何かありませんか?」


「え? あ、ううん、ありますが、ちょっと」


「やはり! あるのですね!」


「あの、ありますけど、一応、魔王軍の訓練というか、稽古の方法ですから、おおっぴらに話しても良いものか分かりませんし。イザベル様に確かめませんと」


「ううむ、それはそうですね・・・」


「今のも、本当は話しても良いのか、ちょっと迷ったんですが。私、皆さんの訓練のお邪魔でしたけど、それでも教官は、しっかり教えてくれましたので、お礼と言いますか、そんな感じで」


 んん、と小さく新兵が息をつき、諦めたように頷いた。


「そうでしたか・・・ですが、一応、その、ファッテンベルク様にお尋ねするだけでも。良ければ、という事で」


「あ、はい。分かりました。聞くだけは聞いてみます」


「お願いします。いや、今日は貴重なお話をありがとうございました」


 新兵はにっこり笑って去って行った。

 聞くだけは・・・



----------



 その夜―――


「愚か者があ!」


「ひえっ!?」


 イザベルの怒声と、ラディの悲鳴が宿舎に響いた。


「お前に教えたのは、一般兵の技術ではないのだぞ!? 特殊部隊の技術だぞ! 分かっておるのか!? 教えろと言われて、はいはいと話すでないわ!」


「すみません!」


 ぎりぎりとイザベルが歯ぎしりして、拳をぶんぶん振る。


「く、くく・・・我が苦労して教えまいとしておるのに・・・お前の! せいで! 水の泡ではないか!」


「すみません! すみません!」


「ええい、もう良い! もう一切話すな! 見せるな! 良いな!」


「はい!」


「口を閉じておれ! 大人しく実弾射撃だけしておれば良い!」


「はい!」


「貴様が訓練兵であったら、蛙となめくじを口に放り込ませたまま、特濃ミルクを鼻から流し込んでやった所だ!」


「すみません!」


「ちっ・・・忌々しい・・・」


 毒づいて、イザベルが乱暴に固いベッドに座る。


「あ、あの!」


「何だっ!」


「射撃場の教官の方が、教えてくれたから、次からVIP待遇にしてくれると」


「足りぬわ! お前、その技術の価値が分かっておるのか!? 新しい鉄砲や爆弾の技術と同じ価値と思え! そのひとつの技術からどれだけ・・・もう良い!」


 ふー・・・とイザベルが息をつく。


「熱くなりすぎたな。良いか、ラディ。お前がうっかり話した事で、死者が大勢出るかもしれんという事は覚えておけ。たったひとつの技術が、何人も人を殺すかもしれんぞ。良いか。ここは軍。居るのは兵士。殺しを仕事にする者なのだ。国の為に働いたのに、殺人者というレッテルを貼られ、クソを投げつけられるのが兵士だ。分かるか」


「はい」


「防衛だ、民の為だ、平和の為だ、などというお題目はあれど、最終的には引き金を引き、爆弾を投げ、誰かを殺す。そういう汚れ役を引き受けるのが兵という者だ。教えるなら、お前の医療技術だけにしろ。治癒魔術も当然・・・いや、魔術全般、決して教えるな。お前はクレール様から教えを受けているからな。教えていまいな?」


「教えていません」


 ふう、と溜息をつき、イザベルが立ち上がった。


「よし。念の為、もう一度言うぞ。お前に教えた技術は、誰にも教えない。魔術も決して教えない。お前が教えても良いのは、医療技術だけ。覚えたか。分かったか」


「はい」


「我は訓練兵の見回りに行く。今夜は出たり入ったりするが、気にせず寝ておれ」


「はい」


 ぱたん、とドアが閉じられた。

 後には、正座でしょんぼりと肩を落としたラディが残されていた。


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