第84話
こちら、セント=エントーニョイ基地、射撃訓練場。
ラディも貸与された米衆陸軍の服に着替え、射撃訓練中である。
「構え!」
号令と共に、全員が拳銃を構える。
「射撃開始!」
ぱん! ぱぱん! ぱん! ぱん!
乾いた拳銃の音が響く。
素人とはいえ、ラディも使い方はイザベルやマツモト(オリネオ冒険者ギルドの元上級冒険者、鉄砲使い。現在は部長)から教わっている。
「やめ!」
全員が拳銃を置く。
「イヤープロテクターを取れ!」
全員が耳当てを取り、手前の机に置く。
「3番! 新米にしては中々の腕だ! 褒めてやる!」
「ありがとうございます!」
「1番! 貴様は何をしている! 折角の実弾射撃訓練を無駄にするな!」
「申し訳ございません!」
「国民の血税を無駄にするな! 1発1発が税金から買われているのだぞ!」
「申し訳ございません!」
「国民に謝るのだ!」
「申し訳ございません!」
「よし! おい! 10番!」
10番。ラディの番号。
「ははい!?」
「・・・」
かつかつかつかつ!
早足でブーツを鳴らし、教官が歩いて来る。
「的が見えているのか!? 5発も撃って1発しか当たっておらんぞ!」
ミナミ新型拳銃は、5発弾倉の小型のリボルバーである。
「す、すみません」
さ! と教官がラディのミナミ新型拳銃を取り、スイングアウトしてエジェクターを押し、かららん! と空薬莢を落として、弾薬を5発手に並べる。
「5発中1発しか当たらんだと!? ならば数を打て! リボルバーをリロードする時は、まず拳銃はこの角度!」
ぐ! と教官がシリンダーを出したままのミナミ新型拳銃をラディに見せる。
銃口を下に向け、45度くらい。
「はい」
「とろくさいリロードをしておっては数が撃てん! こうだ!」
左手に綺麗に並んだ弾薬。
シリンダーの上に持って来て、くるりと回すと、かちゃちゃ、と弾が入る。
(嘘!?)
1、2も数えず、新しい弾薬が入ってしまった。
驚いて目を丸くしていると、教官が声を上げる。
「何を驚く! 私はリボルバーの扱いは苦手な方だぞ! 最初からやる! 良く見て頭に叩き込め!」
「は、はい!」
かしゃん! と弾倉を入れ直し、教官が銃を構える。
「撃ち切った! リロード!」
シリンダーをスイングアウト。
エジェクターを押し込み、弾薬が落ちる。
「左手に5発並べる!」
教官が適当に弾薬を取り、ラディに見せると、既に綺麗に並んでいる。
「こうだ! 弾薬の尻が中指で並ぶように!」
「はい」
「銃の角度は銃口を下に向け45度だ!」
「はい」
「左手! 一番先の弾薬! これが・・・」
す、と教官の手がシリンダーに。
「ここ! 時計の4時近くの所だ!」
「はい」
「後は逆時計回りに回しながら落とすだけだ!」
きりりん。
綺麗に弾薬が装填される。
「たったこれだけだ! やってみろ!」
かしゃん! とシリンダーを入れて、教官がラディの拳銃を置く。
実は超上級のリロード方法。
「はい」
拳銃を取り、シリンダーをスイングアウト。
エジェクターで弾薬を出して・・・
「ん、ん」
弾薬を取って、左手に並べる。
銃口を下に向けて・・・
「45度だ!」
「はい」
4時辺りの所に、先頭の弾薬の先を・・・
「ん、ん、ん」
かちん、ころころり、ころり、ころり。
最初の1発しか入らなかった。
「あっ、あっ」
「ああ、全く・・・」
教官が呆れ顔で額に手を当てて首を振る。
「本当に素人だな! 姿勢が出来ているからと、少しは期待した俺が馬鹿だった! 各自射撃用意! マガジンふたつ分は自由に射撃して良し! 俺はこいつにリロードの仕方を教えねばならん! 忌々しい事に客だからな!」
「「「イエッサ!」」」
ぱんぱん! ぱん!
「良いか。素人向けのリロードの仕方はこうだ」
教官がちゃらりと適当に弾を取ると、何故か5発が綺麗に指に並ぶ。
「中指に弾薬の尻が来るように持つ。これが基本1」
「はい」
「銃口は下に向け、45度だ。基本2」
「はい」
「素人は時計回りに1発ずつ入れるんだ。この時は、時計の9時、10時辺り。ここだ。1つ入れてみるぞ」
教官が、かち、と入れると、ころん、とシリンダーが回った。
「分かるな? 回った。そして、空いた所がすぐ下にきた。次を入れる」
ころん、と入れた弾薬の重さで、シリンダーが回る。
「なるほど・・・」
「3つ目」
今度は回らない。下が重くなり、回らなくなってしまった。
「もう回らない。だが、手元にあるのはあと2発。簡単に空いた所に入れる」
かちんかちん。
かしゃん! と弾倉を入れ、ラディに押し付ける。
「やれ」
「はい」
弾倉を出して、エジェクターを押して、弾を出して。
並んでいる弾を5つ、左手で取る。
綺麗に並んでいないので、もじもじ指を動かして並べる。
「薬指で引っ掛けて取るようにするんだ。自然と中指の上に弾の尻が並ぶ」
「あ、なるほど。もう一度やります」
弾を置いて、薬指をちょっと上に出っ張らせて、もう一度手に取る。一度手を縦にして見てみる。押さえている親指を、ほんの少し浮かせて・・・
「どうでしょうか」
「む。ど素人にしてはまあまあだ。弾込めしろ。ゆっくりで良い。速さより確実に入れる事が大事だ。弾を落とすと心が乱れる。思いの外に焦ってしまうぞ。敵の近くで浮つくと致命的だ。もたついたら死。ひとつ落としたら死ぬと思え」
「はい」
「弾頭の先を穴に引っ掛けて、親指で落とすだけだ。慣れれば自然に早くなる」
「はい」
こちん、こちん、こちん・・・
「良し! イヤープロテクターをつけろ!」
「はい」
「構え! ・・・撃て!」
ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん!
「良し! 2発当たったな! 上出来だ!」
「はい!」
「撃ちまくれ! リロードをしまくれ! 熱で弾倉から空薬莢が取り出せなくなるまで、きっちり練習していけ!」
「はい!」
シリンダーをスイングアウトして・・・
かち、かち、かち、かち、かち。
かしゃん!
「んー・・・」
ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん! ・・・ぱん!
「7番! 銃口が下がっている! 構え直せ!」
「イエッサ!」
かちん、かちん・・・
(意地悪な事を言うけど、悪い人じゃない)
リロードしながら、ラディはそんな事を思った。
かしゃん!
ぱん! ぱん! ぱん・・・
最初に見せてくれたリロードも、この素人向けの弾込めが上手くなれば、出来るようになっているだろうか?
よし、もっと練習しよう。
イザベルは撃ち方は教えてくれたが、まだリロードは習っていない。
基本的に逃げる為に使う、という方針だから、撃ち切った後はまだ習っていない。
帰ったら、綺麗に掃除して、教えてくれたリロードを練習してみよう・・・
そんな事を考えながら射撃をしているうちに、訓練時間は終わった。
「そこまで!」
がたがた、と皆が拳銃を置く。
ラディも拳銃を置いて、教官の方を向いた。
「今日の射撃訓練はここまで! 10番! ラディスラヴァ=ホルニコヴァ!」
びく! とラディが肩を跳ね上げる。
「え!? はい!」
「ファッテンベルク様から、何か習っていないか! 面白いものがあれば見せろ!」
「あの、習ってはいますが、大した事ではなく」
「よし! 何か見せろ!」
どうしよう!? 見せて良いものなのか!?
しかし、イザベルにいちいち許可を取りに行って、戻って来るのも申し訳ない気が・・・
(よし)
口は悪いけど、丁寧に教えてくれたし、これから1ヶ月間、ここでの訓練に参加し放題にしてくれた。ひとつくらいは良いか?
「あ、あの、では、ええと・・・ええと・・・拳銃の、撃ち方で、良いでしょうか」
「面白い撃ち方があるのだな」
「素人に教えてくれた事ですし、本職の皆様に、面白いかどうかは分かりませんが」
「構わん。よし、こっちに来い」
「はい」




