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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第66話


 マサヒデ達と立ち会いたいと、わざわざ白露帝国から米衆連合まで追いかけて来た、白露の軍人達。


 1本目、マサヒデ。

 2本目、カオル。


 どちらも簡単に終わってしまった。

 カオルは笑いながら戻ってきたが、アルマダは難しい顔で腕を組んでいる。


 これだけか?


 あまりに実力が違いすぎる。

 査定、と言っていたが、ただの査定ではないはずだ。

 何かなければ、わざわざ自分達を追ってくるはずがない。


(査定)


 日々の訓練の成果。その査定、と言っていた。

 おかしい。

 武術家と立ち会わせたいというだけなら、わざわざ米衆まで来ることはない。

 日輪国なら、すぐ隣ではないか・・・


「これ、何かありますよ」


 小さくアルマダが言うと、マサヒデも頷いた。


「ですよね。ここまで追ってきたんですから」


「と言うと?」


 カオルが怪訝な顔をアルマダに向ける。


「なんでマサヒデさん達なんです。日輪国なら、武術家は腐る程いるではありませんか」


「むっ・・・確かに」


「有名だから、なんて理由ではないでしょう。勇者祭に参加してる。ならこっちも参加すれば断れない、それも理由だとは思います。が、それで敵対国の米衆連合にまで来ますか? しかも軍人ですよ」


 うんうん、とマサヒデが頷いて、叱られている猫族の男と、叱っている曹長に、鋭い目を向ける。


「ですよね。絶対、何かあります」


 カオルも目を鋭くして、周りを見渡す。


「アナスターシャ王女絡みでしょうか」(ゾエ編:47話~)


 むう、とアルマダが小さく唸り、顎に手を当てる。


「今の所、思い当たるのはそれしかないです、が・・・私達、離れてかなり経ちますよ。もうアナスターシャ様がどうなったかも分かりません。そんなの、向こうも承知のはずです」


「分かりませんね。なんででしょう? マスダさんみたいに、私達のファンって事でもなさそうです」


 ぷ! とカオルが吹き出した。


「ふふふ。軍にも人気のマサヒデ=トミヤスですか」


「まさか」


 はあ? とアルマダが驚いて、マサヒデを見る。


「マサヒデさんは居ないと思ってるんですか? 私は居ると思いますよ。当然です」


「ええ? 居るんですか・・・」


 などと話していると、曹長が歩いて来た。


「情けない兵で申し訳ない」


 口では言いながら、顔はにやにや笑っている。

 やはり何かある。


「次は、兵ではなく、私達の訓練の成果を査定したい」


「私達?」


「うむ。では、次はシズク殿。頼めるかな? 素手で殴り合いといこう」


「おうさ!」


 と、待ってましたと言わんばかりの笑顔で、シズクが鉄棒を置いた。

 が・・・起き上がったシズクは、急に不安そうな顔に変わっている。


「何か武器隠してるとかしない?」


「しない。では条件として加えよう。あなたとの立ち会いで、こちらの者は武器を使わない。素手のみで勝負する。反した時は総掛かりで殺してもらって構わない。何なら、服も脱がせて、裸でも良い」


 流石に、皆が危険な匂いを感じた。

 シズクはこの危険を感じ取って、急に不安になったのか。

 残った2人を見る。犬族、猫族。


「私の相手、どっち? 犬族の方?」


「そうだ」


「犬族に見えて、狼族とかない? 見分けつかないもん」


「いいや。正真正銘の犬族だ」


 狼族ならともかく、犬族で、素手で鬼族と殴り合い?

 確かに訓練を積んでいるのは分かるが、それ程の達者にも見えない。

 これはあり得ない。


「なるほど。普通の犬族ではない、という事ですね。試したい、と。それで、鬼族が居るここまで来たのですね」


 カオルが言うと、曹長が頷いた。


「あちらの猫族の方も」


「そういう事だ。レイシクラン。異常な魔力を持つ一族。だが、大貴族だ。普通なら目通りも叶わないが、勇者祭に参加しているとなると、話は別。それも、このような旅の最中ではな」


「なるほど。先の2人は、普通に訓練した者で、そこそこ優秀、という所ですか」


「そこそこではない。特級クラスだが、まあ、本物の武術家には全くだな。情けない事だ。次は、少しは期待に応えられると思う」


 どんな相手であろうと、戦うのを避けるには、降参しかない。

 そうすれば、勇者祭からは脱落だ。やるしかない。


 逃げるのもありだが、このだだっ広い平野で、獣人族。

 簡単に追いつかれるのは目に見えている。

 マサヒデが険しい顔のシズクを見る。


「シズクさん。行きなさい。気を付けて」


「ん」


 のし、とシズクが足を踏み出すと、曹長が満足気に頷いた。



----------



 シズクの前に、犬族の男が立った。

 カオルは険しい目で2人を見て、きり、と歯を鳴らす。


「ご主人様。ハワード様。あれは恐らく、薬物か、魔術で身体をいじられた者です」


「え」


「薬物なら、匂いがしましょう。イザベル様が気付かないので、恐らく魔術。米衆連合は、鉄砲などのからくり技術が発達しております。そして、白露は医療技術などの方で」


 ばかん! と凄い音が響き、マサヒデ達の目の前まで犬族の男が転がって来た。

 は! として転がって来た男を見ると、首が明らかに折れている。

 曲がった首の真ん中から、骨が突き出しているではないか。


「ラっ」


 ラディを呼ぼうとして、マサヒデが喉を詰まらせた。

 むっくりと犬族の男が身を起こし、こめかみと折れた首に手を当てる。


「うっ!?」


 アルマダが驚いて声を上げた。

 ごぎん! 

 音が響いた。

 ぐっと横から折れた首の骨を押し込んでしまったのだ。

 そして、何事もなかったかのように、犬族の男が立ち上がる。


「ううむ、流石にきくな」


 首の様子を見るように、左右にかくん、かくん、と傾け、左肩に手を当てて、ぐるぐる回しながら、シズクの所にすたすた歩いて行く。

 マサヒデが震える手で、その背中に指を向ける。


「なっ・・・なんです、あれ・・・カオルさん」


「分かりません・・・なん、なのでしょう」


「異常ですよ、あれ・・・」


 アルマダも目を見開いて、歩いて行く男を見送る。

 どすん! とシズクの重い蹴りが入った。

 5、6間は吹っ飛んだか。


 普通なら、臓物がいくつも破れたはずだ。間違いなく即死。

 が・・・


 犬族の男は立ち上がり、両手で水をすくうような形を作った。

 そこに、ぶは! と血が吐かれたが、なんと、吐いた血をごくっと飲み直したのだ。

 袖で口の周りの血を拭くと、ぽん、と腹を叩いて、歩き出す。


「嘘・・・」


 クレールが顔を真っ青にして、口に手を当てる。

 目には、はっきりと恐怖が浮かんでいる。

 ち、とマサヒデが舌打ちする。


「あんなの、素手で、どうやって勝てってんです」


 ううん、とカオルが唸る。


「シズクさんでしたら、頭を潰すか、心臓か肺を引き抜くか、手足を引き千切るしかないでしょう。流石に、身体に無い物までは治せますまい。そうであってほしい、ですが・・・」


「そうであってほしいって」


「あの異常な回復力です。引き千切っても生えてくる・・・やも、しれませぬ」


「う・・・む」


 同じ考えに至ったのか、シズクが犬族の男を膝で押さえつけ、ばつん! と腕を引き千切った。血がマサヒデの所まで飛んで来て、服に当たり、ぱん、と音を立てる。


 放り投げられた腕は、遠くに飛んでいって、見えなくなってしまった。


「どうだあ!」


 シズクの声が響き、立ち上がった。

 が・・・

 犬族の男は平気な顔で起き上がり、引き千切られた上腕の所を撫でて、袖を捲くる。


「むう・・・」


「流石に生えてはこないようですね」


 普通なら、大量に血が流れるはずだが、普通ではない。

 もう血が止まっている。


「そこまでだ!」


 曹長の声が上がった。


「降参であります!」


 犬族の男もにっこり笑って、シズクに頭を下げた。

 曹長は満足そうな顔で頷いていた。


 曹長が腕が飛んで行った方を指差すと、犬族の男はそちらに駆けて行った。

 腕を拾いに行くのだ。

 マサヒデが顔をしかめて、走って行く犬族の背中を見つめる。


「あれ、多分、拾ってきたらくっつきますね」


「恐らく」


「でしょうね」


 クレールが真っ青な顔を上げる。


「私の相手も・・・」


「どう、ですかね・・・同じような相手だったら、かまいたちの術で」


「首、ですか・・・」


 マサヒデが頷く。


「多分、燃やしても意味ないですよ。燃えてく側から治っていくから。相手、多分魔術師ですから、穴掘って落とすのも通らない。毒もおそらく利かないから、虫は意味ないです。同じような身体をしてるなら、ですが」


「う・・・」


「首斬ったら、即、石当てて落としなさい。乗ったままだと、くっついてしまうかもしれませんよ」


「は、はい」


「申し訳ありませんが、腹、決めて下さい。もう、1対1でやるって条件は飲んでしまいました。魔術師であの回復力があるなら、手足斬っても意味ないです。首を落として殺すしかないです」


「殺すん、です、ね・・・」


 曹長が胸ポケットにメモ帳を入れながら、笑顔で歩いて来た。

 マサヒデの口が止まり、皆も歩いて来る曹長を見つめる。


「聞こえておりました。レイシクラン様」


 この男も獣人族、耳が良い。話が聞こえていたか。


「はい」


「ま、殺しに掛かられたならともかく、流石にただの査定ではきついですか」


「ん・・・はい。甘いとは自覚しております」


 クレールが肩を落とすと、うんうん、と曹長が頷く。


「大丈夫です。次の者は簡単に死にます。先程の者とは違う。出来る限り、寸止めで頼みますが・・・ああ、そうですな。こうしましょう。単純に魔力勝負では」


「魔力勝負ですか?」


「大きな火球を作り、長く作っていられた方が勝ち。火の魔術は魔力を使う。すぐに決着が付く。如何でしょう。杖はなし」


「それで良いのですか?」


「はい。結構です。高い所に作って下さい。我々が熱さで死んでしまいますからな」


「それだけですか」


「それだけです。被害も出ず、安全でしょう」


 マサヒデ達が顔を見合わせる。

 苦い顔をした、血まみれのシズクが歩いて来る。

 あんな姿にならなくて良いのならば・・・

 クレールが頷いた。


「分かりました。それでお請けします」


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