第66話
マサヒデ達と立ち会いたいと、わざわざ白露帝国から米衆連合まで追いかけて来た、白露の軍人達。
1本目、マサヒデ。
2本目、カオル。
どちらも簡単に終わってしまった。
カオルは笑いながら戻ってきたが、アルマダは難しい顔で腕を組んでいる。
これだけか?
あまりに実力が違いすぎる。
査定、と言っていたが、ただの査定ではないはずだ。
何かなければ、わざわざ自分達を追ってくるはずがない。
(査定)
日々の訓練の成果。その査定、と言っていた。
おかしい。
武術家と立ち会わせたいというだけなら、わざわざ米衆まで来ることはない。
日輪国なら、すぐ隣ではないか・・・
「これ、何かありますよ」
小さくアルマダが言うと、マサヒデも頷いた。
「ですよね。ここまで追ってきたんですから」
「と言うと?」
カオルが怪訝な顔をアルマダに向ける。
「なんでマサヒデさん達なんです。日輪国なら、武術家は腐る程いるではありませんか」
「むっ・・・確かに」
「有名だから、なんて理由ではないでしょう。勇者祭に参加してる。ならこっちも参加すれば断れない、それも理由だとは思います。が、それで敵対国の米衆連合にまで来ますか? しかも軍人ですよ」
うんうん、とマサヒデが頷いて、叱られている猫族の男と、叱っている曹長に、鋭い目を向ける。
「ですよね。絶対、何かあります」
カオルも目を鋭くして、周りを見渡す。
「アナスターシャ王女絡みでしょうか」(ゾエ編:47話~)
むう、とアルマダが小さく唸り、顎に手を当てる。
「今の所、思い当たるのはそれしかないです、が・・・私達、離れてかなり経ちますよ。もうアナスターシャ様がどうなったかも分かりません。そんなの、向こうも承知のはずです」
「分かりませんね。なんででしょう? マスダさんみたいに、私達のファンって事でもなさそうです」
ぷ! とカオルが吹き出した。
「ふふふ。軍にも人気のマサヒデ=トミヤスですか」
「まさか」
はあ? とアルマダが驚いて、マサヒデを見る。
「マサヒデさんは居ないと思ってるんですか? 私は居ると思いますよ。当然です」
「ええ? 居るんですか・・・」
などと話していると、曹長が歩いて来た。
「情けない兵で申し訳ない」
口では言いながら、顔はにやにや笑っている。
やはり何かある。
「次は、兵ではなく、私達の訓練の成果を査定したい」
「私達?」
「うむ。では、次はシズク殿。頼めるかな? 素手で殴り合いといこう」
「おうさ!」
と、待ってましたと言わんばかりの笑顔で、シズクが鉄棒を置いた。
が・・・起き上がったシズクは、急に不安そうな顔に変わっている。
「何か武器隠してるとかしない?」
「しない。では条件として加えよう。あなたとの立ち会いで、こちらの者は武器を使わない。素手のみで勝負する。反した時は総掛かりで殺してもらって構わない。何なら、服も脱がせて、裸でも良い」
流石に、皆が危険な匂いを感じた。
シズクはこの危険を感じ取って、急に不安になったのか。
残った2人を見る。犬族、猫族。
「私の相手、どっち? 犬族の方?」
「そうだ」
「犬族に見えて、狼族とかない? 見分けつかないもん」
「いいや。正真正銘の犬族だ」
狼族ならともかく、犬族で、素手で鬼族と殴り合い?
確かに訓練を積んでいるのは分かるが、それ程の達者にも見えない。
これはあり得ない。
「なるほど。普通の犬族ではない、という事ですね。試したい、と。それで、鬼族が居るここまで来たのですね」
カオルが言うと、曹長が頷いた。
「あちらの猫族の方も」
「そういう事だ。レイシクラン。異常な魔力を持つ一族。だが、大貴族だ。普通なら目通りも叶わないが、勇者祭に参加しているとなると、話は別。それも、このような旅の最中ではな」
「なるほど。先の2人は、普通に訓練した者で、そこそこ優秀、という所ですか」
「そこそこではない。特級クラスだが、まあ、本物の武術家には全くだな。情けない事だ。次は、少しは期待に応えられると思う」
どんな相手であろうと、戦うのを避けるには、降参しかない。
そうすれば、勇者祭からは脱落だ。やるしかない。
逃げるのもありだが、このだだっ広い平野で、獣人族。
簡単に追いつかれるのは目に見えている。
マサヒデが険しい顔のシズクを見る。
「シズクさん。行きなさい。気を付けて」
「ん」
のし、とシズクが足を踏み出すと、曹長が満足気に頷いた。
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シズクの前に、犬族の男が立った。
カオルは険しい目で2人を見て、きり、と歯を鳴らす。
「ご主人様。ハワード様。あれは恐らく、薬物か、魔術で身体をいじられた者です」
「え」
「薬物なら、匂いがしましょう。イザベル様が気付かないので、恐らく魔術。米衆連合は、鉄砲などのからくり技術が発達しております。そして、白露は医療技術などの方で」
ばかん! と凄い音が響き、マサヒデ達の目の前まで犬族の男が転がって来た。
は! として転がって来た男を見ると、首が明らかに折れている。
曲がった首の真ん中から、骨が突き出しているではないか。
「ラっ」
ラディを呼ぼうとして、マサヒデが喉を詰まらせた。
むっくりと犬族の男が身を起こし、こめかみと折れた首に手を当てる。
「うっ!?」
アルマダが驚いて声を上げた。
ごぎん!
音が響いた。
ぐっと横から折れた首の骨を押し込んでしまったのだ。
そして、何事もなかったかのように、犬族の男が立ち上がる。
「ううむ、流石にきくな」
首の様子を見るように、左右にかくん、かくん、と傾け、左肩に手を当てて、ぐるぐる回しながら、シズクの所にすたすた歩いて行く。
マサヒデが震える手で、その背中に指を向ける。
「なっ・・・なんです、あれ・・・カオルさん」
「分かりません・・・なん、なのでしょう」
「異常ですよ、あれ・・・」
アルマダも目を見開いて、歩いて行く男を見送る。
どすん! とシズクの重い蹴りが入った。
5、6間は吹っ飛んだか。
普通なら、臓物がいくつも破れたはずだ。間違いなく即死。
が・・・
犬族の男は立ち上がり、両手で水をすくうような形を作った。
そこに、ぶは! と血が吐かれたが、なんと、吐いた血をごくっと飲み直したのだ。
袖で口の周りの血を拭くと、ぽん、と腹を叩いて、歩き出す。
「嘘・・・」
クレールが顔を真っ青にして、口に手を当てる。
目には、はっきりと恐怖が浮かんでいる。
ち、とマサヒデが舌打ちする。
「あんなの、素手で、どうやって勝てってんです」
ううん、とカオルが唸る。
「シズクさんでしたら、頭を潰すか、心臓か肺を引き抜くか、手足を引き千切るしかないでしょう。流石に、身体に無い物までは治せますまい。そうであってほしい、ですが・・・」
「そうであってほしいって」
「あの異常な回復力です。引き千切っても生えてくる・・・やも、しれませぬ」
「う・・・む」
同じ考えに至ったのか、シズクが犬族の男を膝で押さえつけ、ばつん! と腕を引き千切った。血がマサヒデの所まで飛んで来て、服に当たり、ぱん、と音を立てる。
放り投げられた腕は、遠くに飛んでいって、見えなくなってしまった。
「どうだあ!」
シズクの声が響き、立ち上がった。
が・・・
犬族の男は平気な顔で起き上がり、引き千切られた上腕の所を撫でて、袖を捲くる。
「むう・・・」
「流石に生えてはこないようですね」
普通なら、大量に血が流れるはずだが、普通ではない。
もう血が止まっている。
「そこまでだ!」
曹長の声が上がった。
「降参であります!」
犬族の男もにっこり笑って、シズクに頭を下げた。
曹長は満足そうな顔で頷いていた。
曹長が腕が飛んで行った方を指差すと、犬族の男はそちらに駆けて行った。
腕を拾いに行くのだ。
マサヒデが顔をしかめて、走って行く犬族の背中を見つめる。
「あれ、多分、拾ってきたらくっつきますね」
「恐らく」
「でしょうね」
クレールが真っ青な顔を上げる。
「私の相手も・・・」
「どう、ですかね・・・同じような相手だったら、かまいたちの術で」
「首、ですか・・・」
マサヒデが頷く。
「多分、燃やしても意味ないですよ。燃えてく側から治っていくから。相手、多分魔術師ですから、穴掘って落とすのも通らない。毒もおそらく利かないから、虫は意味ないです。同じような身体をしてるなら、ですが」
「う・・・」
「首斬ったら、即、石当てて落としなさい。乗ったままだと、くっついてしまうかもしれませんよ」
「は、はい」
「申し訳ありませんが、腹、決めて下さい。もう、1対1でやるって条件は飲んでしまいました。魔術師であの回復力があるなら、手足斬っても意味ないです。首を落として殺すしかないです」
「殺すん、です、ね・・・」
曹長が胸ポケットにメモ帳を入れながら、笑顔で歩いて来た。
マサヒデの口が止まり、皆も歩いて来る曹長を見つめる。
「聞こえておりました。レイシクラン様」
この男も獣人族、耳が良い。話が聞こえていたか。
「はい」
「ま、殺しに掛かられたならともかく、流石にただの査定ではきついですか」
「ん・・・はい。甘いとは自覚しております」
クレールが肩を落とすと、うんうん、と曹長が頷く。
「大丈夫です。次の者は簡単に死にます。先程の者とは違う。出来る限り、寸止めで頼みますが・・・ああ、そうですな。こうしましょう。単純に魔力勝負では」
「魔力勝負ですか?」
「大きな火球を作り、長く作っていられた方が勝ち。火の魔術は魔力を使う。すぐに決着が付く。如何でしょう。杖はなし」
「それで良いのですか?」
「はい。結構です。高い所に作って下さい。我々が熱さで死んでしまいますからな」
「それだけですか」
「それだけです。被害も出ず、安全でしょう」
マサヒデ達が顔を見合わせる。
苦い顔をした、血まみれのシズクが歩いて来る。
あんな姿にならなくて良いのならば・・・
クレールが頷いた。
「分かりました。それでお請けします」




