表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/50

第46話


 マスダがすっ飛んで帰った後、皆は溜め息をついて、朝の支度にかかった。


 カオルとイザベルが食料を厳しく管理しており、日にどのくらいまでと調節して出してくれる。一度シズクの摘み食いがバレて、お説教された事もあり、クレールも我慢しているし、たまに隼を使って狩りも行い、肉を増やす事もある。大食漢の魔族が3人もいるので、やはり食料管理が大変だ。


 マサヒデ達で枯れ草や枯れ枝を拾い、焚火を作り、火を作っておしまい。後は焼くだけなので、準備が終わるまでは馬の餌やり。


 新しくルチルという馬を拾ったので、小さな馬車を引かせ、そちらに飼葉を積むようにしたので、随分と荷物も楽になった。


 マサヒデは馬達の前に飼葉を置いていきながら、先程シズクが言っていた事をアルマダに尋ねてみた。


「私って、こないだマスダさんと立ち会った時、おかしかったですか?」


 は? とアルマダが少し驚いた顔を上げた。


「自覚なかったんですか?」


「自覚も何も、初心に戻ったというか」


「初心?」


 アルマダが手を止めて、飼葉の塊をファルコンの前に置き、立ち上がる。

 マサヒデは飼葉を掴んでは黒嵐の前に落としていく。


「こないだ、ロウさんに注意されてたでしょう。私、目に頼り過ぎてるって」


「ええ」


「前までは、目に頼らずに出来てたんですよ。カオルさんが来たばかりの頃、まだ見えなかったですからね。肌で感じるっていうか・・・何と言うか。そんな感じのが」


「ふむ」


 マサヒデがばさっと飼葉の塊を置き、ぱたぱたと手をはたき、アルマダに向き直る。


「アルマダさん、分かりますよね。私が言ってる、何と言うか、そういう感じ」


「勿論」


「いつの間にか、見えるようになってしまって、慣れてたんですね。自分では気付いてなかったですけど、それで目に頼るようになってしまった。じゃあ、あの頃みたいに、肌で感じるようにしてみよう。そう気を付けていたら、マスダさんは見えました。危ない所もありましたが」


「ほおう・・・傍から見ていた私には、恐怖しか感じませんでしたよ」


「ええ?」


 アルマダは腕を組んで、マスダと対した時のマサヒデを思い出す。あの動きは、まるでロウの動きそっくりだった。それに無願想流まで混ぜていたから、速い中に緩急もあって、とても目に捉えられるものではなかった。


「なるほど・・・なるほど。目。目か・・・」


「どうかしました?」


「いいえ。私も気を付けましょう。そう言えば、いつの間にか、カオルさんの速さにはついていけるようになっていた・・・もう、大抵の方の動きは見える。私も目に頼ってしまっているのか」


「そこ。そうですって」


 ちら、とマサヒデが黒嵐の陰から、焚火で忙しく干し肉やら何やらを並べているカオルも見て、声を潜める。


「実は私、以前、カオルさんに同じ注意してたんです。目に頼るなって。カオルさん、異常に目が良いから」


「ふ」


 くす、とアルマダが笑う。

 し、とマサヒデが小さく口を鳴らす。


「カオルさんには言わないで下さいよ」


「言いませんよ。しかし、マサヒデさんが目に頼るようになってしまったのは、ただカオルさんに慣れただけではないです。私が見るに、無願想流が大きいです」


「というと?」


「あなたが速く動けるようになった、と言う事です。カオルさんも速いから、それで余裕があって、目に頼るようになる。同じでしょう?」


 ああ、とマサヒデが感心して頷く。


「気を付けないと。ここ、心法って所ですよね。所謂、驕っているという。そういう動きですよ。技が先走って中途半端になってたんだ」


「マサヒデさん。そうですよ、多分ですが。私はそう見ます」


 ううむ、とマサヒデが唸って、顔を両手で覆い、ずーっと滑らせていく。


「それ、無願想流の振りに気付いた時、一番気をつけないといけないって考えてた所ですよ。技だけで心法がないと、まあ、使える人に会ったら、死にますよね」


「ええ。気付いていなかったら、マサヒデさんの顔、マスダさんに紙風船のように潰されていたでしょう。あのロウという方には感謝してもしきれませんね」


「ですね・・・じゃ、行きますか」


「はい」


 頷いて、2人は焚火へと歩いて行く。

 煙に干し肉の焼ける良い匂いがしてきて、じわ、と口に唾が湧いた。



----------



 いつも通り、ぽくぽくと馬を進め、後ろからはがらがらと馬車の音。

 このまま順調に・・・と思っていた矢先である。


「おうい! マサヒデ!」


 トモヤの声がして、マサヒデが振り向く。


「どうした!」


「止まってくれい!」


 まだ休憩の時間には早い。何事か、とマサヒデ達が馬を止め、馬車の御者台に集まってくる。マサヒデが菅笠を上げて、


「どうしたんだ」


「黒影がやけに疲れおるわ。なんぞおかしいと思うたが、今、止まった時に分かったわい」


 トモヤが御者台に立って、後ろを向く。


「よう見ぬと分からぬが、ずっと緩い坂になっておるのじゃ」


「ああ」


 ほんの少しの坂でも、馬車を引く馬にはぐっと重さが掛かってしまう。それで疲れてしまったのだ。イザベルの馬が離れて行き、ルチルの様子を見て、マサヒデに首を振る。

 マサヒデは、カオル、アルマダと見て、


「私達の馬は馬車を引いてませんから、気付きませんでしたが。黒影達がバテると大変だ。早めに休憩を挟んで行きましょうか」


 アルマダも頷き、カオルも頷いて、2人が街道を少し外れた脇で馬を止める。

 マサヒデは馬車の後ろに回ると、寝転がっていたシズクが身を起こした。


「聞こえたよ。押してくかい?」


「いけますか」


 ふふん、とシズクが笑って、ぐいと力こぶを作る。


「寝てばっかだったからね! 少しゃあ歩くさ! 足は少し遅くしてよね」


「じゃあ、まずは馬を休めさせますから、押して脇に避けて下さい」


「はーい」


 どすん! とシズクが飛び降りて、ぽん、と馬車の裏に手を当てる。


「トモヤー! 押すから! 動かしてー!」


「ほいきた!」


 ばしん! と鞭が入ると、ぐおっと馬車が押され、ふが! と黒影が息を吹き、慌ててトモヤが声を上げた。


「これシズク殿! 押し過ぎじゃ!」


「うわごめん!」



----------



 休憩しながら、カオルが右手の遠くに見える山脈を指差す。

 ずーっと長く続いていて、遠くの方は上が白くなっているのが見える。


「あれが拳闘士山脈。米衆を縦に並んでおり、西部と中央部を分ける目印の山脈。見てお分かりの通り、雪が積もっております。ここからでは遠すぎて分からないと思いますが、高い所は標高は1里(4km)を超えます」


「おお!」


 マサヒデ、トモヤが驚いて声を上げる。

 日輪国で最も高い山でも、標高1里はない。

 カオルは皆の驚きの声を聞きながら、左手にも見える山脈を指差す。


「あちらも同じく拳闘士山脈。我々は、今、この拳闘士山脈の間の、物凄く大きな崖を通っている、という感じですね。気付かぬうちに少しづつ登っていたのです。あまりに広く、緩い坂なので、よく分かりませんでした。低いですが、ここも山脈です」


 ああ、とトモヤが手庇して、ゆっくりと左右の山脈に目を細める。


「なるほどのう・・・どでかい崖か。そう言えば、草が見えて来ておるの。向こうの方は砂漠ではないのう。木も見える」


「はい。ここから街道をまっすぐ。しばらくは草原地帯になり、途中、排斥派の領地があるのでそこを避けて南下。また砂漠地帯に入り、街道に戻る頃には岩だらけの荒れ地」


「もう砂はたくさんじゃて。さらに次は岩だらけの荒れ地とくるか」


 嫌な顔をするトモヤに、アルマダが苦笑して、手に肩を置く。


「トモヤさん、仕方ないですよ。米衆の南は砂地と荒れ地だらけです。それでも町があるので助かりますよ。本格的な砂漠など、こんなものではないはずです。で、カオルさん。次の町へは?」


 カオルが街道の先の、山裾の少し上がっている所を指差す。


「あのなだらかに上がっている所の向こうになります。3日の予定でしたが、4日を見た方が良いでしょう。黒影は疲れさせたくありませんし、ここから先は、坂が少しずつ」


「なるほど。食料は」


 カオルとイザベルが顔を見合わせる。

 足りないのか、と聞くと、カオルが首を縦に振った。


「また、狩りをするか・・・輸送隊なりキャラバンなり。売ってもらえるなら、少し買いましょう」


「中々、予定通りには行きませんね」


 皆の声を聞きながら、イザベルは周りを見回ている。


「マサヒデ様、ハワード様、もう少し緑が増えてきましたら、狩りに参りたく」


「馬?」


「は」


 ううむ、とマサヒデが小さく唸り声を上げ、連れている馬を見る。

 イザベルは馬を捕らえるのを楽しみにしていたのだが・・・


 マサヒデの黒嵐。

 アルマダのファルコン。

 カオルの白百合。

 イザベルのシトリナ。

 騎士達4人の馬。

 馬車を引く黒影。

 荷馬のヤマボウシ。

 飼い葉の馬車を引くルチル。

 既に11頭もいる。


 最初はイザベルの馬を捕らえたいなあ、という話を聞き、それも楽しみですねえ、などと答えていたが、旅を続けていれば気付く。増え過ぎは大変だ。


「良い、ですが・・・近くの町に馬屋か冒険者ギルド、ありますかね。良い馬を見つけたからと、何日もぞろぞろ連れて行くのは大変です。ルチルが1頭増えたので、もう十分ですよ。売るには売れるでしょうが」


 イザベルも馬達を見て、少し俯き、思い切ったように顔を上げた。


「進言をお許し下さい」


「何ですか。畏まって」


「1頭だけ・・・大した馬がおらずとも、1頭。ヤマボウシと」


 ヤマボウシと。で、イザベルの言葉が途切れた。あれを売り、もっと若い、まともな馬に代えよう、と言いたいのだ。

 が、ヤマボウシはマサヒデが初めて捕まえた馬。マサヒデは当然、一緒に捕らえに行ったトモヤにも、あの年老い、骨ばった貧相な馬に、思い入れがある。イザベルもそれは知っているのだ。


 一瞬、マサヒデの目に拒否の色が見え、イザベルの目も気不味そうに少し泳いだ。が、マサヒデは感情抜きに、きちんと考えた。特に良いという馬でなくても、あのヤマボウシより下は居まい。怪我か病気で歩けない馬くらいだ。


 若い馬に換えれば荷も増やせる。随行の馬の足が早まり、進む早さも早くなる。

 イザベルの言う事はもっともで、反対する理由はない。

 俺は冷たいな、と思いつつ、マサヒデは頷いた。


「私は構いません。ですが、トモヤにも聞いて下さい。トモヤはヤマボウシとずっと居て、私よりもずっと情が移っているはずです。トモヤも良いと言うなら、あれより良い馬を捕らえたら・・・ええ。構いません」


 イザベルが黙って頭を下げ、真面目な顔を上げた。


「それと、もうひとつ。そろそろ蹄鉄も替えた方が良いかと。随分と走っておりますので、すり減っておりましょう」


「ああ、そりゃあそうですよね」


 確かにそうだ。オリネオで蹄鉄を着けてもらってから、ずっと替えていない。いくら金属で出来ているとはいえ、あの体重をずっと乗せて、野を歩いているのだ。すり減らない訳が無い。歩いている途中で外れてしまったりしたら、馬が転ぶ。


「鍛冶屋はどの町にもあるでしょうし、この米衆の広さは、馬がなきゃ、やっていけない」


「は」


「蹄鉄なんてどこでも着けれますよね。次の町で、皆の馬の蹄鉄を替えましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ