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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第3話


 米衆連合ロストエンジェル市の港。


 入国審査でシズクがうっかり鉄棒を倒してしまい、破損事故。

 マサヒデ達一行は尋問室へ・・・


 そして、ここはカオルの部屋。


 ここには港の尋問官はおらず、書記官も部屋を追い出され、カオルとスーツの男が対面していた。男の後ろには、黒眼鏡の屈強な男が2人、左右に立っている。


 かち、かち、と時計の針が刻まれる音だけが響く。

 どちらも口を開かずに時が過ぎたが、男の方が小さく息をつき、


「カオル=サダマキ。日輪国情報省所属。つい先日、情報省から引退したと聞くが」


 カオルは涼しい顔でそっぽを向き、


「私の事ですか? 同姓同名の別のお方では?」


「では仮に。仮にだ。貴女がその情報省の某であっても、今どうこうする、という話ではない。我々は貴女に対し、何の疑いも持ってはいないし、何もするつもりもない。今の所は、だが」


「分かりません。私が何か疑いを持たれるような事をしましたか?」


「いいえ」


「将来するかも、と?」


「私は超能力者ではないので、先の事は分かりかねる」


「でしょうね」


「そうだ」


「では、此度は私に何用で?」


 男は米衆連合の対外情報部の者。

 その対外情報部の者を、通称『灰蘭』と呼ぶ。

 マサヒデ達の母国、日輪国にも当然潜んではいる。

 当人達は潜んでいるつもりだが、日輪国の情報省の忍にはバレバレである。


「先日、とある筋から連絡があったそうだ。君達に出来る限りで良いので便宜をと」


「私達に? どなたが?」


「下っ端役人の私には知る所ではない」


 ふ、とカオルが鼻で笑う。


「役人! ああ、そうでしたか。お役人様で。何処のお役人様でございましょう」


 ち、と男が目を逸らす。


「答えかねる」


「答えられないお役所と。そうですか・・・」


「・・・」


「あ、そうそう。そう言えば、ゾエに滞在の際の話なのですが」


「何か」


「日輪国、ゾエの地の主要港湾都市、ウスケシなる町の教会には、幽霊が出るという噂が『立ちそうになっている』と聞きました。ああ、今にも何処かでその噂が立ちそうです」


 日輪国のゾエという港湾都市の協会には、灰蘭の潜入工作員が居るのだ。


「教会に幽霊。それは怖ろしい」


「噂。そう。特に怖い話とは、大きく膨れ上がるものです。総じて怪談話とは、民には尾ひれがついて広まるもの」


「そうだな」


「まことにもって怖ろしい話です」


「・・・」


 カオルはにやにや笑いながら、


「マサヒデ様は日輪国国王、ヒラマツ陛下ともご懇意。レイシクラン家、ファッテンベルク家も同行しておられます。何処かから便宜をという話は、全く不自然ではございません」


「そうだな」


「で、それを何故、この私に? それは私にではなく、マサヒデ様、クレール様、イザベル様にお話し下さいませ」


「いや、全くその通りだ。上の考える事は全く分かりかねる」


「ふふ。上には宜しくとお伝え下さい。次からはお伝え先の間違いのないように。無能な上司の下では、苦労も絶えないでしょう」


「・・・では」


 男が静かに立つと、カオルが引き止め、


「あ、何かポケットからはみ出ております。ちゃんとしまっておいた方が」


「?」


 男が自分の服を見て、ぴしっと固まった。

 いつの間にか、胸ポケットに封筒が入っている。

 これはカオルがゾエを出る際、灰蘭の潜入工作員から書いてもらった手紙だ。


 は! と左右の男達が懐に手を入れ、これもぎくっと固まった。


「あ、こんな所に落とし物が」


 ごと。ごと。

 拳銃が2丁、机の上に置かれる。

 カオルが指を立て、すっと拳銃を押し、


「お気を付け下さいませ。こんな物を落としては物騒です。私が凶悪犯でなくて良かった」


 カオルとは机を挟んでいたし、前には話していた男がいたし、立ち上がりもしなかった。腕も動かしてはいなかったのに・・・

 カオルが仰天して固まっている左右の男達を見て、にやりと笑う。


「ふふふ・・・改めまして、上には宜しく、とお伝え願います」


「・・・」


 拳銃をスり取られた男達が拳銃を取り、話していた男もポケットに封筒をねじ込んで、部屋を出て行った。


「やれやれ。お使い程度では、こんなものか」


 少し大きめの声で独り言。

 どうせ聞かれているだろうとは分かっているのだ―――



----------



 こちら、イザベルの部屋。


「イザベル=エッセン=ファッテンベルク様」


「うむ、そうだ」


 尋問官が口を開きかけた所でイザベルが手を軽く上げ、


「ああいや、みなまで言うな。とばっちりでご迷惑を、今少しお待ちをと言った所であろう。質問にもさっさと答える。イザベル=エッセン=ファッテンベルク。狼族である。エッセン=ファッテンベルク辺境伯家。父上の名はリチャードで、魔王軍騎馬遊撃隊の大将。我の年齢は97で・・・」


 つらつらと聞かれもしないことを勝手に喋っていく。


「助かります・・・」


「我は勇者祭の参加者ではなく、マサヒデ様の家臣であって・・・」


 書記官が忙しくペンを動かす。

 聞きたいであろう事を勝手に喋り、一息ついて、


「うむ、以上だ。時間も掛かろうし、コーヒーでも頂けるとありがたいが・・・あ、いや。結構だ。これは尋問であったな」


「いえ。コーヒーくらいは許されておりますので・・・お持ち致しましょう」


「そうか。ありがたい。身分証として、冒険者許可証もあるので、荷物の検めもしてくれ」


 尋問官がドアの前に立つ男に合図すると、男が出て行き、すぐに戻って来て、イザベルと尋問官の前にコーヒーを置く。

 む、とイザベルが軽く頭を下げ、


「質問はあるか? 答えられる事は答えよう。軍の頃の事は答えられぬ事もあるので、そこはご了承願いたいが」


「いえ・・・もう、特に」


「む、そうか? もう良いのか?」


 ドアの前の男の方を見ると、男も苦笑して頷く。

 イザベルは背もたれにもたれ掛かり、コーヒーカップを取って、


「いや、貴殿らの仕事は分からぬでもない。我も軍を経験しておるゆえ、こういう訓練もみっちりさせられたゆえ」


「左様で」


 イザベルが苦笑して肩を竦め、


「大人しくしておるから、と言っても、それを信じて離れる訳にもゆかぬ。口だけかもしれぬしなあ。全く面倒な仕事であるな」


 尋問官が苦笑して、


「ええ、まあ」


 イザベルはドアの男の方を向き、


「シズク殿には気を付けよと、担当の者に伝えてもらえぬか。勇者祭の参加者ゆえ、余程の事がなければ暴れはせぬ。が、あの性格だ。あまり機嫌を損ねると、万が一もあり得る。薬など何百升と飲ませても無駄であるから、高い薬を無駄にせぬように。狼族の我でも、これは飲んだら死ぬという劇薬も、スパイスが効いて美味いなどと飲み干す程であるからして」


 流石にそこまでではないが、無駄に薬など使う必要もあるまい、との言葉である。


「は。他に何かご注意などありましたら」


「そうさな。分かっておろうが、クレール様の機嫌を損ねると大変なので、気を付けよ。食い物を出せば機嫌は一気に良くなる。拗ねておるなら、何か食事を差し入れるが良い」


「分かりました」


「ああ、その際は、我らが乗ってきた船、シルバー・プリンセス号にシェフがおるゆえ、理由を話して作ってもらうと良かろう。下手な物を出すと、逆に機嫌を損ねる。良ければ船長へ一筆書こう」


「申し訳ございません。では、お願い致します」


 差し出されたペンと紙を取り、あ、と顔を上げ、


「あ、済まぬ。大事な事を聞き忘れた。あの審査官は、怪我は」


「いや、ありませんでした」


 ほう、とイザベルが息をつく。


「良かった。あれがぶつかったら死ぬからな・・・鉄張りでなく、総鉄製、しかも鍛冶族の鉄であるから、凄い重さでな。全く、立て掛けるなら場所を選べと・・・」



----------



 一方、ラディの部屋。


 ラディも尋問にはすらすら答え、あとはシズクのお取り調べの終了を待つだけ。


「・・・で、そこにコウアンという刀鍛冶が出現します」


 尋問官も、書記官も、ドアを封じていなければならないはずの者も、ラディと一緒に座り、話を聞いている。


「コウアン・・・確か、日輪国の国宝が、何とかコウアン・・・」


「良くご存知で。そうです。そのコウアンです」


「あ、コウアンとは、刀を打った鍛冶師の名前だったのですね」


「はい。そして、そのコウアンが、刀という反りのある刃物を考え出した、という説があります。何しろ、1000年以上前なので、他にも説があって、シロヤマ伝・・・シロヤマという刀の有名所の地名ですが、この地で考え出されたという説もあります。そこのジョウサン派という刀作りの一派が考え出した、という説」


「なるほど。という事は、そのシロヤマなる所も古くから刀を」


「その通りです。そこは日輪国が統一されるずっと前、サキョウという西の国・・・いえ、まだサキョウとは呼ばれていませんでしたが、日輪国の戦乱期の西の大きな国です。そこが都を置いた地で、多くは貴族などに好まれる、どちらかと言うと武器というよりも、美術品的な所に重きを置いた作風が多いのですが、中には怖ろしい作を作った者もいまして」


「怖ろしい作というと、例えばどのような」


「三ヶ月ソウキンで有名なソウキンなど。三ヶ月ソウキンも国宝の刀ですが、やはり細く、刀身中ほどでぐっと反っています。国宝の刀というのは、実は200を超えていますが、その中でも最も美しい刀と言われています。これが美しいだけでなく、怖ろしい切れ味。サキョウ王もこれを佩用していたと伝わっています」


「ううむ」


 書記官が手を挙げ、


「斬れるとおっしゃいましたが、カタナは数人も斬ると斬れなくなると聞きますが」


「いえ。それは間違った話で、実際は10人でも斬れます。腕のあるお方が使えば、もっと。刃に血や脂が着いて、などと知らぬ者は声高く言いますが、まあ実際に斬ってみますと、血や脂などほとんど着かないものです。勿論、物の出来と使い手によりますし、深く突き込むような事をすれば、血も脂も着きますが」


「ううむ、そうだったのですか」


「実際に、カオルさんが、勇者祭の相手を斬った所を見た事があります。足を骨まで、ばっさりと斬り落としたのです。斬った後、懐紙でこう、すうっと拭いましたが、てん、と小さく血が付いているだけでして、当然、欠けや曲がりもなく・・・」


「では実際に名刀というのは・・・」


 最初は無口で、尋問官の質問にも、ぽつりぽつりと最低限の答えしかしなかった。

 だが、刀の話となったら、もうラディの口は止まらなくなった。

 ラディの講釈に、うむうむ、と尋問官達が興味深く頷く。

 ここでは刀の話で面白く盛り上がっていた。


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