第2話
3週間後。
ここは米衆連合国で最大の港湾都市、ロストエンジェル。
マサヒデ一行は、入国審査で厳しい尋問を受けていた。
アルマダ一行はすんなり通れたのだが・・・
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「マサヒデ=トミヤス様。米衆連合には初めてのお越しですか?」
「はい」
「今回はどのような目的で米衆連合へ?」
「私は勇者祭の参加者で、米衆連合を陸路で横断し、反対側の港から、魔の国へ渡る予定です」
審査官がにっこり笑って、
「実は私、ご活躍を存じております。放映も見ております。いや、海から行かずに米衆連合の陸路を選んで頂き、歓迎を致したい所です」
マサヒデが顔を赤らめ、ちょっと横を向いて、顔に手を当てる。
「あちゃあ、見ておられたのですか・・・お恥ずかしい」
「はは。この質問も仕事ですので、ご勘弁下さい。で、武器の類はお持ちですね?」
「はい」
マサヒデは素直に答えていく。
うんうん、と審査官も頷いて、さらさらとペンを走らせる。
ぱさりと書類を取り、
「武器として申請された持ち物を確認させて下さい。
ひとつ。刀、無銘。
ひとつ。刀、銘不明・・・不明? こちらは?」
銘不明の刀。これはマサヒデの愛刀、雲切丸。
日輪国の国宝、酒天切コウアンの兄弟刀とは言えないので『コウアン』と銘は切ってあるが、不明としたのだ。
マサヒデが頷き、
「古い物で、誰の作か分かりません。一応、銘は切ってあるのですが、間違いなく偽の銘とは分かりますので、無銘と」
審査官が頷き、
「分かりました。それで不明と申請したのですね。いや、刀も当国ではここ最近コレクターが増えてきまして。泥棒もおりますので、お気を付け下さい」
「はい」
「次に行きますね。
ひとつ。脇差、無銘。日輪国シライ領オリネオ町住、ホルニ作。
ひとつ。脇差、銘ヒロスケ。
ひとつ。棒手裏剣。
ひとつ。四分型拳銃。
以上で宜しいですか?」
マサヒデが苦笑して、袖を引っ張り、
「いやあ、武器になるものと言えば、何でも武器になりますけどね。これで引っ張って首締めたりとか」
審査官も苦笑して、
「ははは。いや、私も軍の出なので分かります。武術家の方は何でも武器にしてしまいますからね。教官はマッシュポテトも武器にしていましたから・・・む、結構です。お通り下さい」
「お手間を取らせました」
マサヒデが頭を下げ、入国審査の門を通る。
問題はこの次であった。
「シズクさんですね」
「はーい」
「トミヤス様のご一行様。ふふ。トミヤス様との試合は見ておりました」
シズクも渋い顔で横を向く。
「あちゃー・・・へへへ。負けちゃった所、見てたの?」
「ふふ。はい。で、武器として申請された物の確認です。お手持ちの棒」
「うん」
「石」
「これ」
シズクが腰に下げた革袋を指差す。
「この袋の中に、石入れてるの。私、鬼族だし。軽く投げたら、がつんとね」
「なるほど。念の為、袋の中を見せて頂いても」
「はーい」
袋を開けようと、棒を立て掛けた時であった。何の気なしに、ことん、と立て掛けたつもりであった。
が、シズクが持つ棒は総鉄製。中まで全部鉄で、凄い重さなのだ!
「あっ」
ごぎ! と音がしたかと思うと、ばががが! と音を立て、仕切りを粉砕し、机を叩き折り、審査官の居る方に倒れていってしまったのだ!
「何事だ!」
「あっ! えーっ!?」
慌てている間にばたばたと鉄砲を持った衛兵達がシズクを囲む。
わあ! きゃあ! と声が上がり、後ろに並んでいた者達も駆け去って行く。
「両手を頭に!」
「なななな何も!」
ぱあん!
衛兵が天井に向けて1発撃ち、かしゃ! とボルトを引き、シズクに銃口を向ける。
「今のは警告だ! もう一度だけ言うぞ! 両手を頭に! 3! 2!」
「はははい! はいはい!」
シズクが慌てて両手を頭に乗せる。
後ろでは、クレールが首を振り、カオルが天井を仰ぎ、イザベルが腕を組んで、かくんと首を落としている。
「膝を付け!」
「はい!」
膝をついたシズクに、少し距離を取っていた衛兵達が寄ってくる。
がつん!
「いてっ」
「・・・」
銃床で頭を殴られたが、頑健な鬼族のシズクには大して痛くもない。
がつん! がつん! がつん!
シズクの頭は微動だにせず、殴る警備兵の手が痺れる。
「く! 何だこの硬さは!?」
「あのさ、痛いって・・・」
後ろに並んでいたイザベルが呆れ顔で、
「おい、シズク殿。倒れてやれ。前のめりにばたりと」
「ええ?」
「多くの者は頭を殴られたら、倒れるのだ」
「そりゃそうでしょ」
「シズク殿は頑丈に過ぎる。そのままだと頭に銃弾が飛んでくるぞ。まあまあ、警備の皆様方、その程度で鬼族は倒れはせぬが、それは大人しい者ゆえ。さ、シズク殿」
「はあーい。よっこらせ」
べったん、とシズクが前に倒れ込む。
「これで良い?」
うむ、とイザベルが頷き、
「手は腰の後ろに置き、縛られてやれ。この者達も、鬼族がこの程度で抑えられぬなど、当然分かっておるわ。だが、仕事であるからな。縛ってもらえ」
「はーい」
警備兵はちらっとイザベルを見たが、目にやや不安が見える。うんうん、とイザベルが頷く。
「・・・拘束!」
「は!」
わらわらと他の警備兵が寄って来て、シズクの手を縛る。
両脇から警備兵がシズクの腕を取って、ぐい! ぐい! と引くが、ぴくりともしない。
「くそ! 隊長! 重すぎます! 立てられません!」
「何だこの重さは!? びくともしない!」
「なんだ。立てば良いの? 立つから」
ばし! 腕を縛っていた縄が弾け飛び、シズクが腕立てのようにして立ち上がる。
ああ・・・とイザベルが首を振る。
「立ったよ。どおぞ」
「拘束を解いたぞー!」
「捕縛! 捕縛ーっ!」
シズクが慌てて頭に手を置き、
「なな、なーんもしないから! ほらほら!」
「ええい! 膝をつけ!」
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かくして、マサヒデ達は尋問室に連れて行かれたのであった。
そして、ここはクレールの部屋。
「あの、此度は災難というか・・・」
「いいええー! こちらの手違いでございますものー!」
へこへこと頭を下げる尋問官。
腕を組んで、口を尖らせたクレール。
レイシクラン家は世界の食料事情を担う家なので、クレールも本来国賓待遇である。
当主の一言で、世界の食料価格が何倍にも高騰してしまう家なのだ。
そして、クレール自身は何もしていないのだ。
同行していたので連れてこられただけ。
「大変、大変申し訳ないのですが、今少し」
ちらり。
「今少し。ふうん・・・少し。そうですか。少しですか。大変なお仕事というのは分かっておりますけれども。本当に少しですか? お言葉通りに受け取ってもよろしくて?」
「は・・・あ、いや、それは、あの、ご同行の皆様とのお話次第で・・・何とも」
「元首との直通魔術通信はありませんの?」
「いえ、その、この港には生憎」
「そうですか・・・ま! お待ち致しますわ。私の。友人が。レイシクランのっ! 友人がっ! 粗相を致したのですものおー! 私はー! 何もしておりませんけれどもおー!」
「は・・・」
「そうそう。修理費は私宛に出して頂いて。見積もりを急がせて下さいませ。全額お支払い致します。この港にいる間に。今! すぐにでも! 立ち去りたい気分ですので! ・・・急いで下さいますとありがたく思います」
じろりと睨む赤い瞳に、はっきりと怒りが見える。
「ははーっ!」
尋問官が額を机に擦り付ける。
ふん! とクレールがそっぽを向いた。




