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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第27話


 霊脈、神の寝所と言われる巨大な岩、風の岩の前。

 マサヒデ達は岩の頂上で、瞑想をしている、らしい。


 トモヤ、ラディ、アルマダの騎士達は、下で焚き火を囲んでいたのだが、何者かの声が聞こえ、だらけた空気は一気に緊張へと変わった。

 クレール配下のレイシクランの忍達が、声の主を探そうと、闇の中に散っていく。


(レイシクランの者共に伝えよ。四半刻やる。見つけてみよ)


「忍の皆様! 四半刻(30分)で見つけよと言うておるぞ!」


 トモヤが声を上げると、皆の緊張が高まる。

 その四半刻を過ぎたら、何が起こるのか。


 見つけた所でどうなる?

 見逃してくれる?

 姿を現す?


 大体、闇討ちしてくるような者が、四半刻と言って守るかどうかも怪しい。

 真剣師(賭け将棋師)のトモヤの頭がぶんぶんと回る。


「どうなさる。この壁を解いて逃げ、る・・・あいや! ラディ殿!」


「はい!」


「鉄砲を一発! 音が上まで伝わるわ!」


「あっ!」


 ラディが懐から拳銃を出して、空に向けて引き金を引く。

 ばすん!

 サイレンサー内蔵の拳銃。


「ラディ殿や・・・それは、白露の忍の物ではないのか」


「そ、そうでした。あの、合図の時は、拳銃って言われてましたから、忘れてました。これ、音があれで」


 あたふたと慌てて懐に拳銃をしまい八十三式長銃を構えた所で、イザベルの声が降ってくる。


「何かあったのかー!」


 良かった! 狼族のイザベルの耳には届いたようだ。声に緊張感が乗っている。


「闇討ちじゃあー!」


(はっはっは! はーっはっは!)


 相変わらず、トモヤの耳には笑い声が響く。


「くそ、彼奴が笑っておるわ・・・」


 ぎりぎりとトモヤが奥歯を鳴らしていると、上からクレールとマサヒデ、カオルが、風の魔術で凄い音を立てて土の囲みの外に下りてくる。

 ばさ、ばさ、と服を払う音がして、刀を抜く音がふたつ。マサヒデとカオルが抜いた。


「トモヤ!」


 壁の向こうからマサヒデの声。ほ、とラディが安堵の息をつく。


「岩の方じゃ! 忍の方々が探しに行った! 魔術師か忍じゃ! ワシにだけ声を掛けてくる! 他の誰にも聞こえぬ!」


「分かった! カオルさん!」


「は!」


 マサヒデが声を上げると、ばさ! と音がして、静まった。

 少しして、壁の外から、カオルの服が投げ入れられた。忍装束になったのだ。

 続いてマサヒデがクレールを抱えて、壁を蹴って中に飛び込んでくる。


「よし!」


 クレールを下ろし、マサヒデが納めた刀を抜く。


「トモヤ、声は岩の方だな」


「そうじゃ」


「なら、逆におるかもしれん。この周りは何も無い。となると馬車の方か」


「む! そうか!」


「クレールさん」


「待って下さい・・・」


 クレールがポーチから札を出して、2本指で挟み、腕を真っ直ぐ伸ばす。


「むーん・・・はいっ!」


 伸ばした腕にフクロウが浮き上がり、重さでぐらっとクレールがよろけて、マサヒデが左手で支える。札ということは・・・


「よし、フクロウちゃん! 空から馬車の周りを見てきて! 誰か居たら教えて!」


 ばさ! と大きな羽を広げて、お! とクレールが顔を反らすと、フクロウが闇の中に飛んでいく。


「式神ですか」


「はいっ!」


(ほほう。面白い術だ。初めて見る)


 トモヤの耳にまた声が聞こえる。


「ち! 面白い術だなどと言うておるわ・・・すぐ見つけてやるわ」


「ふーん! フクロウちゃんは物凄く目が良いですから、すぐ見つけます! よし! ハワード様を呼びます」


「駄目、駄目です!」


 飛ぼうとしたクレールを、マサヒデが慌てて抑える。


「ここからじゃ丸見えですよ。火を消して」


「あ、はい!」


 ばしゃ! と焚き火に水球が落ち、じゅう! と音がして、一瞬で真っ暗闇。

 マサヒデが小声で、皆に囁く。


「よし。この方が良い。皆さん、早く目を闇に慣らせましょう。クレールさん、すぐ飛ばずに少し待って。月明かりでも十分見えます」


「はい!」


 マサヒデは目を閉じて、じっと囲みの外の気配を感じようとする。

 音はしないが、慌ただしく何かが動いている。

 これはカオルとレイシクランの忍達。

 馬が微かに動く音も感じられる。


「何も感じない・・・これは手練れだ。皆さん、目を閉じて、壁の外に集中です」


「はい・・・」


 すう、はあ、すう、はあ、と呼吸の音だけが聞こえる。


「うるさいわ」


 トモヤには相変わらず声が聞こえているようだ。

 そのまま何分経ったか。


「クレールさん」


「何もいないです。馬だけです」


「フクロウは馬車の上に。こちらを見張らせて」


「はい。フクロウちゃん、馬車の上で・・・」


 ぶつぶつとクレールの声。

 ばさ、とフクロウが馬車の上に下りる音。


(あと5分しかないぞ。さあ見つけてみよ)


「マサヒデ、あと5分じゃ」


「見つけられなかったらどうなるんだ。あの岩が崩れるのか」


「知らぬわ。向こうが勝手に四半刻で見つけよと言うておるだけじゃ」


「ちっ・・・レイシクランの忍の皆さんがこれだけ探して見つけられないとは、厄介だぞ・・・人数も分からん。単独か。複数か。魔術師か。忍か・・・迂闊にこの壁から出られんぞ。遠くから仲間が鉄砲で狙われているかもしれん」


「面倒じゃな!」


(はっはっは! 我は1人だ!)


 またトモヤに声が聞こえる。


「馬鹿にしおって・・・1人じゃと言うておるぞ」


「信じられるものか」


「当然じゃな」


「あと5分もある。静かに集中するんだ。どんな気配も逃すな」


「うむ」


(はーっはっは!)


「高笑いしおってからに・・・」



----------



 5分後。


 ずらりとレイシクランの忍達が土の壁の周りを囲い、カオルが飛び込んできた。


「申し訳ございませぬ」


「く・・・動けませんね」


(さあ時間切れだ。トモヤ・・・か。お前が出てくるのだ)


「マサヒデ。ワシに出てこいと言うておるぞ」


「お前に? 俺やクレールさんではなく?」


「うむ・・・」


 トモヤがどかっと座り込み、前屈みに腕を組んで、すぐに顔を上げた。


「よし。行く。皆様は出てくるでないぞ。ワシがやられても、勇者祭には損益なかろう」


「おいトモヤ!」

「駄目ですよ!」


 マサヒデとクレールが声を上げたが、トモヤが手を振り、


「良いわ。それより、ワシがやられた時、ぱっと出てくるのじゃ。そうすれば捕まえられる。ラディ殿、死んでおらなんだら頼むぞ」


「トモヤ様。後をつけます」


 カオルが言ったが、トモヤは首を振り、


「駄目じゃ駄目じゃ。お見通しじゃろうて・・・カオル殿は夜目がきく。それよりも、しかとワシを見張っておるのじゃ」


 ぐっとトモヤが立ち上がって、壁に手を掛け、ぐいっと足を上げて、上に立つ。


「出ていくぞ!」


(ははは! 悲壮感漂う芝居だな!)


「ち・・・」


 舌打ちしながら、トモヤが壁から下りると、ふわりと風が吹いた。


(風が来る方に来い)


 ふん! と鼻を鳴らせて、トモヤが歩いて行く。時折立ち止まっては、指を口に入れて、風の漂ってくる方向を定めながら、慎重に歩いて行く。もう岩壁は目の前。


「んん?」


 岩壁が目の前なのに、風が吹いてくるとは?

 やはり魔術師か・・・

 おっかなびっくり、腰を低くして、ゆっくり、ゆっくりと歩いて行く。

 もう手を伸ばせば岩に当たる、という所で、風が下から吹いてくるのを感じた。


 暗くて見えないが、穴でも空いているのか?

 座って手を前に伸ばし、右に、左に、とゆっくりと手を動かす。確かに下から吹いてくる。

 膝を立てて、四つん這いのような格好で、手を前に出すと、指先にふわー、と風が当たった。そこでゆっくりと手を下ろしていく。


(石か?)


 拳より少し小さな石が積まれるように転がっていて、その隙間から風が吹いてくる。

 恐る恐る、石をどけていくと、やはり穴が空いている。


「む」


 穴は浅くて、深いものではない。奥もない。何故、ここから風が?

 ぺたぺたと手を当てていると、何か冷たい物が手に当たった。

 は! として手を止める。金属だ。

 もしや、埋み火(地雷)では・・・


(それをやろう。皆に見せてやるが良い)


「なん・・・何じゃ?」


(鍵だ)


「鍵とは? 何の鍵じゃ?」


(皆に見せれば分かる。では後でな)


 思い切って、手を上げてみる。爆発はしない。

 もう一度手を下ろして、金属を掴んで拾い上げてみる。

 暗くて良く分からないが、手の平より少し小さく、大きくて丸い銅貨のようだ。


「なんじゃ? これは・・・」


 さ、さ、と手で払うと、砂が落ちる。

 顔の前に持って来て、ふう! と息を吹くと、ふわっと砂が舞う。


「ぷっ! ええい・・・爆弾ではなさそうじゃが・・・この煙、毒ではあるまいの」


 左手で丸い金属を持ち、右手で手拭いを出して鼻に突っ込み、鼻に入った砂をぐりぐりと回して拭きながら、トモヤは焚き火に戻って行った。


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