第20話
そして夜。
まばゆい銀のドレスに着替えたクレールが、カジノ入口に立つ。
お供はカオルとシズクと、金の大袋をふたつ台車に乗せたホテルの使用人。
イザベルは皆と一緒にレストランで食事中。
「参りますよ!」
「はい」
「はいはい・・・」
カオルは表情を崩していないが、シズクは不満をありありと顔に出している。クレールが怒りを顕にして、ぶん! とシズクに振り返り、
「なんですか! その気のない返事は!」
「飯食いたいなあ・・・」
「カジノでも食べられます!」
「はあい・・・」
「ふん! 行きますよ!」
カオルが前に立ち、失礼、失礼、とごった返すカジノの中をかき分けていく。目指すはポーカーのテーブル。かつかつとヒールを鳴らしてクレールが近付いて行くと、テーブル周りが静かになった。
「私も参加して宜しいですか?」
クレールが後ろの使用人を指で前に出るように合図すると、使用人が台車を押して前に出てくる。袋の紐を解き、手を突っ込んで、じゃらじゃらと金貨をテーブルの上に落とすと、テーブルについている客は、皆クレールに驚きの目を向けた。
「どうぞ」
ディーラーは金を見ても、落ち着いた様子で促す。
(この男)
カオルの目が光る。
場馴れしている・・・いくら大カジノのディーラーとはいえ、肝が据わり過ぎだ。
クレールが座ると、ディーラーが頷き、
「場代に金貨1枚」
「結構。ルールはホールデムでしょうか?」
「そうです」
カオルがテーブルに落とした金貨をまとめ、す、す、す、と10枚ずつ立てていく。クレールの正面の客がディーラーボタンを置いている。
左の客が金貨を1枚、その左が2枚。
ぴぴぴ! とディーラーが指を動かすと、テーブルの皆の前に2枚のカードが綺麗に飛んでいく。
(なるほど)
カオルがちょっと眉を上げた。手の動きで分かった。この男は好きなカードを配る事が出来る。今も一番上から順に配ったように見えて、2枚目、3枚目と上を残して飛ばしていた。どのカードが何処か分かっているのだ。一瞬、手裏剣を抜きかけたが、すぐに手を引っ込める。
ちらっとディーラーがカオルを見たが、カオルは肩をすくめ、クレールを見て苦笑して首を振った。ディーラーが口の端をわずかに上げたのが見えた。
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レストランでは、マサヒデ達が夕餉の時間。
マサヒデは注文を取りに来た給仕に、
「私、米衆連合に来たの、初めてなんです。これぞ米衆連合の食べ物! っていうの、何かありますか?」
ふむ? と給仕が首を傾げ、
「であれば、ハンバーガーか、ホットドッグか、スパゲティか、コーンミールでしょう。どれも安い料理ですが」
「じゃあ、最初のハンバーガーで。皆さん、どうします?」
アルマダが頷いて、
「私も同じ物を頼みますよ。食べた事がない」
トモヤもぱらぱらとメニューをめくり、
「んー、じゃのう。ステーキとか何とか、この辺は食べた事があるのう。皆様、それで良いかのう」
うんうん、と皆が頷く。
「サイズは大中小とありますが」
「取り敢えず、中で良いです。他にも食べてみたいですしね」
「承知致しました」
給仕がにっこり笑って下がって行く。
この後に起こる事を知らず、マサヒデ達はにこにこしていた。
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半刻の後、カジノでは―――
勝負にならないと客達が引いてしまい、クレールは金貨の山を見て高笑い。
「おーほほほ! 誰も付き合って下さいませんの!?」
ふわりふわりと扇子を扇ぐクレールを見て、ちらりとディーラーがカオルに目を向けると、カオルが頷いた。ディーラーも目で頷き、
「ふうむ、仕方ございません。私が入りましょう。レイシクラン様、宜しいでしょうか」
「勿論ですとも!」
ディーラーが引き出しを開け、木のコインをテーブルの上に置く。
「こちら、金貨代わりです。後であちらの両替所に持っていけば、金貨と交換致しますので」
「はい」
「サシの勝負となりますので、親番は交代で参りましょう。場代は金貨1枚」
「結構ですわ」
ぱぱ、とディーラーがカードを飛ばす。クレールがちらりと覗き込む。
クラブのAとハートの7。
ハイカード(役なし)でも、相手もハイカードなら勝てる。
ディーラーもカードを確認し、すらりとカードを5枚並べる。
これがコミュニティカードで、全員共通で使えるカード。
この5枚と手札2枚を含め、7枚のうちから5枚で、強い役を作るのだ。
まず3枚をめくり、1枚ずつめくる。
その間にチェック、コール、レイズ、フォールド。
「では、始めましょう」
クレールが場代に金貨1枚を置く。
す、す、す、と3枚めくられる。
クラブの4。クラブの7。ハートの8。
ペアは出来たが、7。微妙な所。
「ううん・・・」
少し考え、
「レイズ」
「レイズ」
クレールが1枚金貨を乗せると、間髪入れず、ディーラーが「10」と書かれたコインを置く。
「・・・コール」
コミュニティカードをめくる。
ダイヤのK。
「レイズ」
カオルが金貨を置いていく。
クレールは無表情のディーラーをじっと見つめている。
間髪入れないレイズ。
はったりか。強い手が出来ているのか。
最初の3枚をめくった時点で、4、7、8。
5、6が相手に来ていたなら、ストレート・・・
「むむむ・・・」
「如何なされました?」
「むむむ・・・レイズ!」
「コール」
スペードのJ。
「ショウダウン」
ディーラーがカードを出す。
スペードの8、ダイヤの2。
ワンペア同士、クレール7のペア。ディーラー、8のペア。
「ううむ、危ない危ない・・・エースをお持ちでしたか。流石、引きが強い」
「・・・」
カオルが積まれた金貨をディーラーに差し出す。
「ぎりぎりの勝負、といった所でしたか。さて、次はレイシクラン様の親」
ぱちりとディーラーが金貨を置き、カードを差し出す。
「シャッフルを」
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レストランでは・・・
「駄目だ・・・トモヤ、俺はもう食えん」
「ワシもじゃ。おかしいのう。大中小の中で注文したはずじゃがのう・・・」
天ぷらを置くような大きな皿の真ん中にハンバーガー。
そして、その周りには大量のフライドポテトがぎっしり。
給仕が言うには、これが普通だと言う。
「美味い。美味いぞ。確かに美味かった。だがこの量はどうなのだ」
そう言って、イザベルの方に皿を差し出すと、イザベルが受け取ってあっという間に食べてしまう。
「ワシは頑張ったと思うが、どうじゃ」
「ああ。頑張った・・・俺達は皆、頑張ったはずだ」
アルマダはとっくに食べるのを諦め、フルーツの盛り合わせを注文したのだが、これがまた多い。ボウルのような皿にみっちりと入っているではないか・・・アルマダはうんざりした顔でワインを一口呑み、
「これ、人族には無理ですよ・・・何が普通なものですか」
「そうなのですか? マサヒデ様、ご安心下さい。私はまだまだいけますので、お好きなものをお味見して下さいませ」
イザベルがにこやかに笑って、トモヤから皿を受け取り、美味しそうにフライドポテトを食べていく。あっという間になくなり、ラディ、騎士達の皿も片付けていく。
「いや。味は十分満足ですが、量が多すぎますって。もう味見なんてする余裕はないです」
「左様で・・・私はもう少し食べても?」
「構いませんよ。好きなだけ」
イザベルが手を挙げると、給仕がテーブルの横に立つ。
「このハンバーガーなる料理を。大で頼む。あと、先程言っていたホットドッグを中で」
「かしこまりました」
「あ、ちょっと良いですか?」
下がろうとした給仕を、マサヒデが止める。
「何か?」
「このハンバーガーって、いくらくらいの物ですか?」
「銅貨40枚ですね」
「この量でか!? えらく安いのう!?」
トモヤが驚いて声を上げる。
「ああ、ここ、部屋も安いですもんね」
はあ? と給仕が怪訝な顔をして、
「いえ。大体どの店でも、同じくらいの量で、同じくらいの値段ですよ。安い店ならもう少し」
ふう、とアルマダが息をつく。
「・・・この国は、食料事情が良いのですね」
イザベルがにっこり笑って頷く。
「良い事でございます。うん、ついでにバーボンをボトルで頼む。黒で良い」
「かしこまりました」
下がって行く給仕を、イザベルがにこにこと見送る。
マサヒデ達がうんざりして、頬杖をついた。
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※ハンバーガーは筆者がアメリカ旅行中にMサイズを注文して、本当にあった話を元にしています。




