第19話
一方その頃、女の4人部屋。
ぐびぐびと酒を呑むシズクを置いて、カオルがラディと向かい合って座る。
カオルがシズクを指差し、
「ラディさんは備え付けの酒など口になさらないで下さい」
「酒は嫌いです」
「結構です。一通り調べましたので、今の所この部屋にある物は平気ですが、補充に来た物、ルームサービスで頼んだ物は、必ず私が毒見します」
「何故でしょう」
「この豪華な見た目に誤魔化されておりますでしょうが、値段で見て下さい。ここは安宿なのです。必ず泊まっております。勇者祭の者が」
「・・・」
「賭場までございます。賭場と言えば、どうしてもそういう輩の集う場所。厳重な警備で一般人も多い建物ですから、剣、鉄砲などは振り回さず、大人しくしておりましょうが・・・大人しくして、そっと毒など盛られたら」
「・・・はい」
「部屋を出る時は、必ず私かシズクさんを誘って下さい。イザベル様は参加者ではないので、咄嗟の時に、勇者祭の者からラディさんを守る事は出来ません」
「はい・・・」
ぷはー! とシズクが息をつく音。
「美味いなあ! これ飲み放題かあ!」
「・・・」
おほん、とカオルが咳払いして、
「宜しいですか。ハワード様を見ての通り、貴族の参加者もおります。剣などぶら下げていなくても、魔族を見たら注意はして下さい。廊下ですれ違いにぶすりはあり得ます。私も機会があればそうしますし」
「警備の人が見てても」
カオルが首を振り、
「人目があっても、勇者祭の参加者同士であれば問題はないのです。せいぜい廊下の絨毯のクリーニング代です。私共にはもう勇者祭の賞金が掛かっておりますから、クリーニング代くらい払っても釣りは十分出ます」
やっぱりここも安全ではなかった。
心が休まる所がない・・・
ラディが頭を抱え、
「私、外で寝たいです・・・」
「私かシズクさんが居れば大丈夫です。後でイザベル様とスパに参りましょう」
「私も行くー!」
わーい! とシズクがグラスを上げる姿を見て、ラディががっくりと肩を落とした。
と、そこに。
「カオル殿! ラディ殿!」
どんどんどん! と乱暴にドアが叩かれる。
「む!」「トモヤ!?」
カオルが脇差を抜くと同時に、シズクがドアに駆け寄る。
む、と頷き合うと、ばん! とシズクがドアを開け、がばっとトモヤを抱えて部屋の中に放り投げ、ドアを閉める。
「どうしたトモヤ!」
「ぐはっ・・・」
カオルが駆け寄って、倒れたトモヤを見、は! と顔色を変えた。
「酒の・・・まさか!? ラディさん!」
「はい!」
「あいや! 待ちなされ! カ、カオル殿、酒を呑んでしもうたのじゃ!」
「は?」
「毒はないか? ないじゃろうか?」
カオルが肩を落とし、脇差を納める。
「ラディさん。取り敢えず解毒を・・・」
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騎士達4人の部屋―――
「・・・という訳で、部屋の酒は呑む前にまず私がチェック致します」
テーブルの上に酒瓶が並べられ、イザベルが蓋を開けては、匂いを嗅いでいく。
折角の酒を前に、騎士達4人はお預け状態。
「・・・よし。結構です」
「もう呑んでも良いですか」
「はい」
「よおーし!」
むさい男達の酒盛りが始まる・・・前に。
「ルームサービスを頼んだ際は、私かカオル殿をお呼び下さい。毒見を致します」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
「部屋から出る際も、1人では決して。着込みは必ずご着用願います。特にスパ、カジノはご注意下さい。裸になった所で暗殺、人のごった返すカジノの中では暗殺は容易です」
「はい・・・」
イザベルがソファーを立ち上がり、窓に寄って、こんこん、とガラスを叩く。
「ふむ。やはり丈夫に作ってあります。要人も泊まるのでしょう。流石4つ星」
「流石ですなあ・・・」
「狙撃はまず大丈夫と見て良いかと。カーテンは開けておいても大丈夫です。では、お邪魔致しました。お楽しみ下さい。私共が不在の際は、口に物を入れるのはご遠慮願います。補充やルームサービスにはご注意を」
そう言い残して、イザベルは部屋を出て行った。
後にはどんよりと静まった空気の部屋。
「やめとくか?」
「大丈夫だと言っていたでしょう。呑みましょう・・・」
「レストランで食事する時なら・・・」
「まあ、呑もうか・・・潰れないように気を付けよう」
とくとく、と皆のグラスに琥珀色の酒が注がれる。
皆、グラスを取ったが、浮き上がった気分は一気に沈んでしまった。
「じゃ、乾杯」
一息に呑み干した男達の背中には、寂しいものが見えた。
豪華な部屋。
高い酒。
窓を見れば、雄大な大地を遥か遠くまで見渡せる。
「ふう・・・久々に良い酒を呑めると言うに・・・盛り上がれませんなあ」
「仕方ない事ですよ・・・」
「これが勇者の試練、というものですかね・・・」
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マサヒデ達とイザベルが廊下に出たのは同時であった。
「お」
「あ、マサヒデ様」
歩み寄ると、マサヒデが苦笑して、
「今、アルマダさんの部屋に行って来た所です」
「闇討ちがと?」
マサヒデが頷くと、くす、とイザベルが笑った。
「今、イザベルさん達の部屋に飛び込んだのはトモヤです。酒を呑んでしまったので、毒はないかと慌てて」
イザベルは笑いを堪え、
「クレール様が解毒の術をひとかけなされば済みましたでしょうに」
「ちょっと脅かしてやっただけですよ。ところで、時間あります?」
「勿論」
マサヒデがクレールの肩に手を置き、
「クレールさんと、銀行に行って来てもらえます? シズクさんか、カオルさんと一緒に」
「・・・やはり、カジノに行くのですか」
ふん! とクレールが鼻を鳴らし、拳を握って、
「勿論! 行きますよ! 勝った分は、旅費に追加です!」
「溶かされませぬよう、程々にしておかれた方が」
「分かってます! 2000枚以内! これなら良いですよね!」
勿論、金貨で2000枚の意。マサヒデが顔をしかめ、
「突っ込みますね・・・」
「このくらいなら平気ですから!」
イザベルも呆れ顔で首を振る。
レート上限なしのテーブルはあるだろうか・・・




