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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第14話


 米衆連合に入り3日目。

 マサヒデ達はだだっ広い平原の街道を進んで行く。


(ひょー・・・)


「ん?」


 右の方だ。小さく声が聞こえ、イザベルが耳を澄ませた。

 音ではない。確かに声。


「・・・」


 イザベルが目を細め、耳に集中する。

 遠い。遠いが、確かに何か音が聞こえる。

 薄く目を開き、声のした方を向く。

 遠くに薄く何かが見える。

 風?


「どうなされました」


 隣で馬を並べているカオルがイザベルに声を掛ける。イザベルは小さく手を挙げ、


「何か聞こえました。声です。遠・・・む!?」


 馬の音。5人、10人ではない。20。いや30はいる。


「騎馬隊・・・おそらく騎馬隊です」


「騎馬隊?」


「巡回でしょうか・・・何かを追っております。駆けております。野盗でも・・・」


 イザベルが眉を寄せる。近付いてくる。

 カオルも目を細め、立ち上がって遠くを見る。

 地平線に、薄く砂煙が舞っているのが見えてきた。


「・・・イザベル様。もしや」


「ち! 野盗の群れか! トモヤ殿! 馬車を走らせろ! 野盗だ! 大勢来る!」


「なんじゃと!?」


 前を進むマサヒデ、アルマダにも聞こえ、2人の馬がさっと街道から外れる。


「行け!」


「おお!」


 ばしん! と鞭を入れ、馬車を引く黒影が大きくいなないて、がらがらと馬車が走り出す。ヤマボウシとルチルも馬車に引かれて駆け出す。後ろからアルマダの騎士4人が出て来て、がしゃりと鎧を鳴らしてランスを立て、兜のバイザーを下げ、


「先鋒は我らにお任せ下され!」


「お頼み申す! マサヒデ様! ハワード様!」


「はい!」「はい!」


「サクマ殿方の後ろに! 討ち漏らしがあっても馬を止めず! サクマ殿方について駆けて下さい! カオル殿!」


「は!」


「右後方につき、弓、鉄砲で遊軍! 絶対に馬は止めずに! 私は左後方! 馬車に向かう者を抑えます!」


「は!」


「参りますぞ! はあっ!」


 騎士達の馬が駆け出した。

 次いで、マサヒデとアルマダの馬も駆けて行く。

 イザベルとカオルも、左右に分かれて駆けて行く。


(数の差は余裕で埋められる!)


 アルマダの騎士4人は、騎馬戦ではイザベルも敵わぬ程に飛び抜けているし、傭兵、冒険者と、実戦経験豊富な熟練の騎士。人も馬も上等の鎧を着込んでいる。馬も大きく重い、一級の重装騎兵達だ。


 マサヒデとアルマダはまだ騎馬戦には慣れないが、元々が剣の達人。彼らの後ろにつけておけば大丈夫。足の止まった騎士達の討ち漏らしを、すぱすぱ斬って駆けてくれるはず。


 右からはカオルが弓、鉄砲で抑えられる。

 左から馬車に向かう者は、自分が抑えられる。


 そして、万が一、馬車に届かれても、そこにはクレールとシズクがいる。


(よし!)


 最初に音で聞こえた通り、やはり数は30前後と見える。

 地平線の向こうに見える砂塵は、横に広い。

 横並びの陣で薄いのだ。


(あれでハワード様の騎士様方を止められるものか!)


 この距離で射ってこない。相手は長鉄砲がないようだ。

 どかかっ! どかかっ! と騎士やマサヒデ達の大きな馬が走る音が地を響かせる。


(んん?)


 もうはっきりと相手の姿が見える。

 あれは野盗や盗賊の類ではない。先住民族だ・・・

 だが、刃を向けてくるなら敵。


 ばかばかと馬を走らせながら、牽制に弓を1射。

 適当に射っただけだが、馬が1頭後ろ足で立ったのが見えた。


(幸先が良い)


「ほあー!」「ひょー!」


 先住民族達の興奮した声がはっきり聞こえる。

 手には槍や弓を持っている。

 もう騎士達とぶつかるに数秒。


(勝った)


 横に長く広がっていた陣が、囲むように曲がってくる。

 これが3重4重なら囲めるかもしれないが・・・


「があー!」「きええーっ!」


 ランスで突かれた先住民が叫んで吹き飛ぶ。

 鎧が矢を弾いている。


「ふっ」


 小さな笑みが浮かぶ。

 すすすっと矢を抜き、ぱぱぱ! と速射。

 正面の3人が落ちる。


(軽装だ。『鉄』を使うまでもないな)


 騎射こそファッテンベルクの戦の馬術の基礎。

 幼い頃から叩き込まれた技術。

 イザベルはクロスボウ並の引きの弓を使う。

 それでも威力と射程は鉄砲には敵わないので、総鉄の矢も用意してある。

 どんな鎧もぶち抜ける矢だが、こいつらには使う必要はない。


「土産だ!」


 落とした3人の隙間を縫って囲みを抜けながら、もう1射。


「けぁーっ!」


 高い声を上げながら、また1人馬から落ちる。

 と、かあん! という大きな金属音が聞こえた。


(なんだ!?)


 騎士達の方。

 1人が少し傾いているが、怪我をした感じではない。ちゃんと馬を操っている。


「は!?」


 慌てて身を沈めると、背中の上を「ぶん!」という音が過ぎていった。


(石!? 違う! 投斧!)


 先程の金属音はこれだ。投斧が騎士の鎧に当たったのだ。これはまずい。

 囲みの外に出た途端、ぶんぶんと飛んでくる。

 重さがあるから、当たれば鎧の上からでもがつんとくる。

 運が悪いと刃が斬り込んでくる。


 皆の馬は戦馬ではない。

 まだ痛みには慣れていないのだ。

 馬に当たると、足が止まるのは確実。


「ちっ!」


 身を屈めながら、ばすばすと射落としていく。

 シトリナの腹の下を投斧が飛んでいくのが見えた。


「距離を離せ!」


 声を上げたが、流石は熟練の騎士達は違う。とっくに離れている。

 馬車の方を見たが、向かっている者はいない。

 敵に目を向けると、囲みはふたつに折った紙のように綺麗に左右がすれ違って、ぐるりと回って追ってくる。


「甘いわっ!」


 横に駆け抜けながら、順に射落としていく。

 またぐるりと回ってくるが、今の衝突でもう半分を切った。

 向こうを見れば、騎士のランスに突き刺さった死体が落ちていくのが見える。


(流石!)


 騎士の後ろのマサヒデ達を追っていく馬が転がり、乗っていた者が転げ落ちる。

 その向こうで、カオルが弓を構えている。


(よし! 頃合い!)


 もう陣は崩れた。

 まだ人数は向こうが上だが、すり潰すのみ!

 くるりと回っていく先住民族の馬の足が落ちた。


「今ーッ! 突撃ーッ!」


「おおう!」


 騎士達の声が響く。

 カオルが1射放ち、刀を抜く。

 イザベルも次々と速射しながら、剣を抜いた。


 騎士達が縦隊になって駆け抜け、反対側をイザベルが駆け抜けた。

 ごごごん! と重い物がぶつかったような、低い音が連続して響く。


 くるりとイザベルが馬を回すと、反対側で騎士達がランスを立てながら、くるりと馬を回した。


 騎士達が駆け抜けて来た側には、乗り手の居なくなった馬の足元に、穴の空いた死体が転がっていた。

 イザベルが駆け抜けて来た側には、腹から下だけの乗り手が馬に乗ったまま、並んでいた。


 怯えて落ち着きのない馬が歩いて来る。

 その手綱には、斬れた腕がぶら下がって、血の線を地面に描いていた。

 イザベルがその馬を睨むと、ぴたりと馬が足を止め、謝るように頭を下げた。



----------



 4人が生き残り、縛り上げ、皆で囲む。

 イザベルがナイフを抜き、ひたひたと頬を叩いたが、怯える気配はない。


「腹が据わっておるな」


「・・・」


「何故、我らに刃を向けた」


 手前の男がぎろりと睨みつけ、


「ここは我らの土地である。貴様達は侵入してきたのだ」


「何?」


 マサヒデ達が顔を見合わせる。

 通っている街道を進んできただけなのだが・・・

 イザベルも首を傾げ、


「我々は街道を進んで来た。途中に誰かの土地だと示す看板などは無かったぞ」


「我々の土地に勝手に敷かれた道だ」


「であれば、何故警告の使者を出さなんだのだ? 伝えてくれれば、我らは避けて通ったぞ」


「嘘をつくな! 野盗が! 貴様らに警告などいらぬ!」


「おい、待て。我らは野盗ではないし、そもそも米衆の者ではない」


「何?」


「私は魔の国の者だ。他の皆様は、日輪国から来た者だ」


 ふう、とイザベルが溜め息をついて、


「貴様らは、我らを米衆の野盗と勘違いしたのか? 武器を持っているから、土地を奪いに来たとか、襲いに来たとかとか、そう思うたのか?」


「・・・」


「どうして先に警告の使者を遣わさなんだのだ・・・無用な人死を出してしまったではないか」


 マサヒデが沈痛な顔で首を振り、肩を落とした。


「縄を解いて下さい。皆さん、残っている馬を集めるので、手伝ってもらえますか。馬を集めたら、帰ってもらいましょう」


「はい」


 皆が沈んだ顔で馬に跨る。

 イザベルがナイフで縄を切り、4人を立たせて、


「ここで休んでおれ。馬を集めて来るから・・・」


 振り返ったイザベルに、先住民が声をかけた。


「何故殺さぬ」


 イザベルが足を止め、振り返り、


「お前達が勘違いをしたと分かったのであれば、もう良いのだ」


「殺しに来たのにか」


「そうだ。勘違いであったと分かったのに殺すのは、無用な殺しである」


「寛大であるな」


 イザベルが声を掛けた男の前に戻り、


「我らは殺しを好かぬ。先程、縄を解けと言った若者の顔を見たか。つらそうな顔であったろう」


「ああ」


 頷いて、馬を集めに行ったマサヒデを指差す。


「あれが我が主である。例え刃を向けた者であろうと、斬るのは好かぬ。敵であろうと、斬れば涙する。それが悪党であっても泣く事もあるほど、優しきお方である。されども、その刃は古今無双である。涙に濡れた刃であるから、強いのだ」


「そうなのか」


「そうだ。貴様達が先に向けた刃であるが、我が主は今宵は悲しみに眠れぬであろうな。勘違いであったと知ってしまえば尚の事」


「申し訳ない事をした」


「良い。斬らねば我らが斬られていた。もしお前達が我らを斬り、これを勘違いであったと知ったら、やはり悲しんだであろう。誇りある兵であればそれが当然」


「我らは誇りある戦士であるから、戦いの中で死ぬ事は無上の幸せである。主に悲しまぬように伝えてほしい。だが、無用の争いを好んでいるわけではないのだ。此度は我らの間違いで悲しませる事になり、申し訳ないと」


「自分の口で伝える事だ」


「主の名を聞いても良いか」


「我が主の名は、マサヒデ=トミヤスである」



----------



 マサヒデ達が馬を集めて4人の所に戻ってくると、4人は両膝をついてマサヒデを迎え、手を伸ばした土下座のような姿勢を取った。


「どうしました。帰っても構いません」


「マサヒデ=トミヤス。許しを乞いたい」


「ただの勘違いだったのです。頭を上げて、立って下さい」


 4人が背筋を伸ばして立ち上がる。

 マサヒデの目には、深い悲しみが見えた。


「マサヒデ=トミヤス。何故そうも悲しい。悲しまぬ事を願っても良いか」


「勘違いで人が死んだからです。私は悲しいですよ」


「勘違いをしたのは我々で、刃を向けたのも我々で、死んだのも我々である。何故悲しむ。トミヤスに一切の非はない。我々は許してもらえるか」


「許されやしませんよ」


 マサヒデが後ろのごろごろ転がった死体を指差し、大声を上げる。


「私が許してもねえ! あの人達はねえ! 自分達も! あなた達も! 許せませんよ! 間違えて襲いかかって返り討ち!? いくら勇敢に戦ってもねえ! そんな死に方、誇りも何もあったもんじゃない! 名誉の死じゃあないんですよ! 大恥かいて死んでしまったんですよ!」


「・・・」


「私達は殺す必要のない人を、たくさん殺したんですよ! 悲しいですよ! 当たり前でしょう!?」


 項垂れた先住民を見て、マサヒデは顔を背け、唇を噛み、


「私は許してますよ。私の仲間達も、あなた達を許してますよ。我々に許しを乞うよりも、死んだお仲間に、お仲間自身と、あなた達を許して下さいって、お祈りして下さい」


 む、と先住民が頷き、


「聞いた通り、トミヤスは寛大で優しき者であった。深く反省しよう。我々の仲間が死んだ事に、悲しみの念を抱くトミヤス達を敬おう」


「・・・次に私達を見かけたら、まず使者を送って下さい。あなた方の土地の外に出ますから。さあ、皆さん。もう行きましょう。あなた達も帰って、お仲間の弔いをして下さい」


 マサヒデが黒嵐に跨った時、ばさ、ばさ、と音がした。


「ん?」


 笠を上げて上を見ると、隼が上でばさばさしている。

 これはクレールが様子を見に飛ばして来たのだろう。

 笠を取ると、ばさりと隼が羽を舞わせ、肩に乗った。


「おお! 隼!?」


 マサヒデ達が立ち去った後、先住民がわなわなと震え出す。


「トミヤスは鳳の神に祝われた者であったか・・・我らは鳳の神に槍を向けたのだ。我らは死んで当然であった・・・」


 マサヒデの頬に、ふわりと羽が当たった。

 はさ、と隼が飛んでいく。

 馬車はあちらだ。


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