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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第131話


 そして夕刻。


 花火が上がり、本祭の夜である。

 マサヒデ達は港で兵達と遊んでいたのだが・・・


「乾杯!」


 ベミッツ中将の音頭で、クレール、アルマダ、イザベル、エイデン大佐がグラスを上げる。今回はクレンナ中尉もおらず、お偉方だけの、完全に隔離された席で、なんと戦艦インドナの甲板の上。ここに呼ばれたからには何かある。


 甲板には兵がずらりと並び、タラップも港に下りてはいるが、がっちりと兵が固めており、近付く事も出来ない。クレールの申し出により、レイシクラン家の船、シルバー・プリンセス号のレストランから、料理が運ばれてくるだけだ。


 ベミッツ中将が空いたグラスを置くと、横の兵がグラスをワゴンに下げ、水のグラスを差し出す。何気なく口に運び、む! とベミッツ中将の顔が変わる。


「お・・・この水は」


「うふふ」


 クレールが得意気に笑う。


「流石は中将ともなりますと、舌も肥えてらっしゃいますね」


「と言うと、高い水でしょうかな」


「値段はつけられません。売っている水ではありませんので」


 ベミッツ中将とエイデン大佐がグラスの水を見つめる。


「一体、どこの水なのです?」


 くすくすとクレールが笑う。


「どこだと思われます?」


「いや、見当もつかないが。エイデン大佐、どう考える」


 はて、とエイデン大佐も首を傾げる。


「魔の国の水・・・でしょうか? どこか、名所? 温泉など?」


 知っているアルマダとイザベルが笑う。


「素晴らしい推理です」

「流石はエイデン大佐」


 クレールがにやにや笑って、


「うふふ。魔王山頂上の雪解け水です! それも5万年も前の!」


「なんと!?」

「5万年!?」


 ぎくりと2人の手が止まる。横で水差しを持っている兵の顔が、すうっと青ざめていく。このグラス1杯の水に、5万年の時が刻まれているのだ!

 3人の軍人の顔を見て、クレールが悪戯が成功した子供のような顔で笑い、


「値がつけられないという理由、お分かりになられましたか?」


「ううむ、よく分かりました」


 もし値段を付けるとしたら、このコップ1杯の水で、最高級のレストランのフルコースが楽しめる値段が付くはず。それだけの水だ。

 魔王山は標高が1里8町(約4800m)以上だから、頂上まで雪を取りに行く、という人件費だけでも馬鹿にならない。


「うふふ。5万年の時をお楽しみ下さい」


「うむ! ありがたく頂きましょう!」


 ベミッツ中将はぐいっと、エイデン大佐は一口ずつ、水を飲んでいく。


「ふう! いや、知れば恐ろしい水だ。中々に驚かせてくれますな」


 ベミッツ中将がにやっと笑い、兵に目をやって、


「ワインを頼む。せっかくレイシクランのワインが飲めるのだ」


「は!」


「中将のお口に合えば宜しいのですけれど・・・」


 くす、とクレールが笑って、


「水の方が高い! ですね! うふふ」


「ははは! 5万年ですからな!」


 アルマダもイザベルも笑って、


「確かに! イザベル様、私達もワインにしましょう」


「ふふ。そうですね。5万年の味など、我らには分かりませぬ」


 皆のグラスにワインが注がれ、刻まれたチーズが並ぶ。

 ベミッツ中将がチーズを摘んで、ぱくっと口に放り込み、アルマダを見る。


「さて! 今夜は本祭。昨夜は趣味の話でしたが、本題の話と参りましょう」


 やはりか。

 アルマダもクレールもイザベルも、笑顔を浮かべたまま頷いた。

 一体、何をもちかけられるのやら・・・

 アルマダがグラスを傾けながら頷く。


「中将直々のお話とあれば、聞きません、などと言えませんよ。私にですか?」


「そう。ハワード公爵家への仲立ちが欲しいのです」


「何の仲立ちでしょう」


「言葉を飾るのは苦手なので、はっきり言いましょう。米衆海軍は、日輪国の土地が欲しい。しかし割譲は無理だ。そこで、ハワード公爵領の土地を貸してもらえまいか・・・と」


「ほう。何に使う・・・などと聞くのは野暮ですか。前線基地を作りたいのですね。白露、大中心国への牽制に」


 アルマダが言って、くい、とグラスを傾ける。


「そうです。勿論、日輪国にも悪い事はないでしょう。大国が2つ、すぐ隣にあるのです」


「ふむ・・・」


 アルマダが少し考え、首を傾げる。


「間違いなく住民からは反対意見が出ます。そちらで対処して頂けるのですか? 戦争中でもない、他国の民に対して」


「直接は無理ですが、ヒラマツ国王陛下や、お父上へのバックアップは十分に」


「具体的には?」


「金。必要とあらば、そちらに出向する海軍代表の声明も出しますし、住民との話し合いも行わせましょう」


 アルマダが首を振る。


「まあ、土地の貸賃は当然ですが、当家は金にはそう困っていません。私よりも、陛下と日輪国の軍に交渉されては如何かと思いますが。それで当家の土地をと言われたのであれば、父も土地を貸し出しましょう」


「当然、ヒラマツ陛下や軍にも話は通します。まず、ハワード家領主の是非を問いたいのです。その上で交渉したいと考えております」


「なるほど」


 既に当主から是と答えが返ってきているなら、当然、交渉も進めやすい。

 表立って国王も軍も無視して領主へ、というのは筋が違うと突っぱねられるが、実は内々に、というわけだ。


「ううむ・・・私が仲立ちに立った所で、父には微塵も影響を与えられないと思いますが」


「なりますとも。読売にひとつ記事を載せれば良いだけです。アルマダ様は賛成派」


 こん、とアルマダがグラスを置く。

 クレールもイザベルも心中で顔をしかめる。

 仲立ちをした時点で、アルマダは賛成派になるのだ。


「私は家族に亀裂を生みたくはないです」


「では、読売には載せないと約束しましょう」


 アルマダが指を立てて振る。


「それはあなた方が報道社に報せないというだけであって、報道社がどこかからその情報を知ったら、自由に載せてしまうでしょう? 違いますか」


「報道の自由には逆らえませんので」


 ふ、と横でイザベルが笑う。表向き黙っているだけで、裏では匿名の投書が報道各社に流れるのだ。


「素晴らしい事です。まあ、そもそも私は反対でも賛成でもないのですから、そこはどうでも良いのですが」


 アルマダが給仕をしている兵の方を向き、


「オードブルはまだですか?」


「いえ。まだ届いておりません」


「そうですかまだ届いて・・・あ! そうでした」


 アルマダがグラスを置いて、


「中将、話の腰を折って申し訳ありません。クレール様がお届け物を用意していると・・・クレール様、良いのですか? すぐに運ばせると仰っていたではありませんか」


 クレールが心中でにやりと笑う。

 まあこうなるだろうと思って準備はしていた。マサヒデの機転のお陰だ。


「あーっ! そうでした! すぐ届けさせるつもりだったのですが、すっかり忘れてました!」


 クレールは給仕の兵に向いて、


「あの、私の船の船倉に、用意してありますので、船員の者に伝言を願えますか? お届け物を急いで運ぶように、と」


「は!」


 給仕の兵が下がって行って、別の兵に伝えて、すぐに戻って来る。

 クレールはベミッツ中将ににっこり笑って、


「サプライズプレゼントなんです!」


「サプライズ?」


「うふふ。必ず驚いてしまいますよ!」


「もしやカタナとか?」


「残念! お楽しみです!」


 アルマダとイザベルが顔を見合わせ、にやりと笑った。


「イザベル様、運ぶのを手伝って下さいますか? 重いでしょうし」


「そうですね。中将、大佐、中座致しますが、お許し下さい」



----------



 10分程して―――


「ベミッツ中将・・・」


 エイデン大佐が呆れ顔でベミッツ中将に小さく声を掛けると、ベミッツ中将は苦い顔で下を向いた。

 イザベルが運んで来たのは、薬で眠らされたままの海兵隊特殊部隊、アザラシ部隊の隊員であった。


「・・・」


「サプラーイズ! なんと不審者を発見したんです!」


 クレールがイザベルが投げ下ろした特殊部隊員の前で手を広げる。そして、笑みを引っ込め、真顔になり、冷たい声で、


「驚いて頂けましたか」


「申し訳なく思います」


「驚いて頂けましたか」


「はい」


「自分の知らない所です、部下が勝手に、などは通用致しませんよ」


「はい」


 クレールが席に戻り、下を向いたままの中将を睨みつける。

 イザベルが次々と運んで来て、どさ、どさ、と投げ下ろしていく。


 アルマダはグラスを傾けて、


「クレール様、その辺りで良いでしょう」


「ええー。もう終わりですかー」


 酷い棒読み。

 アルマダはくすっと笑って、


「この事は忘れましょう。私も忘れます。イザベル様も忘れます。マサヒデさん達、他の皆様も忘れます。オニール船長も忘れます。船員の皆さんも忘れます」


 もう既に全員に知られているぞ、と言っているのだ。

 ベミッツ中将は顔を手で覆い、エイデン大佐も暗くなってきた空を仰ぐ。


「私達、皆が忘れましょう。レイシクランの令嬢が乗船中の船に、米衆海軍ご自慢の特殊部隊が忍び込み、怪我ひとつなく返り討ちに遭い、全員気絶させられて捕らえられてしまいました、なんて事はありませんでした。中将、これで宜しいですか?」


「感謝します」


「エイデン大佐も忘れて下さい。海軍のこんな大失態が外に漏れたら、信用に関わりますからね」


 はあ! とエイデン大佐が息をつき、俯いたままのベミッツ中将を見て、頬杖をつく。


「はい。忘れます。中将、参謀本部に知られないよう、兵に箝口令を敷いた方が」


「ああ・・・そうだな。皆様、申し訳ない。すぐに戻ります」


 ベミッツ中将はふらふらと立ち上がり、甲板を歩いて行った。

 エイデン大佐がワイングラスを取って、ぐいっと一気に煽り、グラスを返す。


「一番強い酒を頼む」


「は・・・」


「皆様、申し訳ない。まさかベミッツ中将がこのような・・・」


 アルマダがワゴンからワインを取って、クレールのグラス、イザベルのグラス、自分のグラスを注ぎ、


「いえいえ。貴族などやっていますと、よくある事です」


 ふふん、とアルマダが鼻で笑って、グラスを傾ける。


「エイデン大佐。昨夜は中将も酔っただけです。盛り上がってしまいましたので」


「決して、米衆軍が皆、こうではないとは」


「分かっています。私は皆様と一緒に、イザベル様の訓練を受けています。皆様、信用に足る人物です。今回は、中将が気を使って影護衛として潜入させたのです。それを、連絡が届く前に私達が偶然見つけてしまった。不審者と間違えて・・・事故。ただの事故です」


「助かります」


 これでベミッツ中将の口は封じた。海軍に貸しも出来た。


「ふふ。オードブルはまだですかね。レイシクランのシェフの腕は、噂以上ですよ。ところでエイデン大佐」


「何でしょうか」


 アルマダが声を小さくして、


「ここだけの話、陸軍としては、やはり海軍の失態は面白いですか」


 ぷ! とイザベルが笑って、エイデン大佐が目を泳がせた。


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